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2023.01.12 Thu UP

レーザ指向性エネルギー堆積法(LDED)による金属積層造形プロセスの数値モデル化に成功
~加工技術におけるデジタルツイン構築に大きく前進~

研究の要旨とポイント

  • 次世代型三次元金属積層造形技術(レーザ指向性エネルギー堆積法)を数理モデル化。
  • 減肉やき裂発生により変形した機械部品形状の復元過程を数値シミュレーションにより再現。
  • 金属造形技術と数値解析手法の融合に基づく、加工技術のためのデジタルツイン構築に向けた革新的技術。

東京理科大学工学部機械工学科の荒井正行教授、同工学研究科機械工学専攻の村松寿和氏(2021年度修了生)、公立諏訪東京理科大学工学部機械電気工学科の伊藤潔洋助教(当時 工学部機械工学科助教)の研究グループは、近年、注目を集めている次世代型レーザ指向性エネルギー堆積法を数理モデリングするとともに、熱流動・相変態熱粘弾塑性解析を連成させた数値解析技術により金属造形加工プロセスを三次元シミュレーションすることに成功しました。

これまでの3Dプリンター金属造形技術では、機械的に敷き詰められたパウダーベット表面に対してレーザや電子ビームを照射して、溶かし固めていく方法で造形されてきました。このため、加工設備が大型化する傾向にあるとともに、造形加工後に大量の金属粉末が廃棄されるといった問題点がありました。このような問題を克服するために、近年、指向性エネルギー堆積法が注目されています。この技術は、レーザビームの焦点に金属粉末を集積させて溶融積層する加工技術です。この技術のメリットは、図1に示すように装置がコンパクトであることに加え、金属粉末の廃棄を大幅に削減できる点にあります。さらに、基材表面に3D形状に金属粉末をその場造形できるという点で、これまでにない新しい加工技術として注目を集めています。しかし、造形加工条件については試行錯誤的に決定されており、同技術を産業界に広く展開していくためには、最適な造形加工条件を決定する手法の開発が求められています。

そこで本研究グループは、金属粉末が堆積して積層を構成する要素を自動的に生み出していくデス‐バースアルゴリズムによる成膜プロセスを考案しました。積層要素には、熱輻射—熱伝導モデルならびに粘塑性—熱弾塑性構成モデルを組み込むことで、金属粉末の溶融から凝固過程までの幅広い状態変化をコンピュータ上で忠実に再現することができました。これを有限要素解析手法によりコーディングし、加工解析システムとして構築しました。これにより、事前に造形加工条件の決定、温度分布、変形状態、残留応力分布の予測が可能となります。

本研究は、2022年11月23日にJournal of Thermal Spray Technologyにオンライン掲載されました。

レーザ指向性エネルギー堆積法(LDED)による金属積層造形プロセスの数値モデル化に成功~加工技術におけるデジタルツイン構築に大きく前進~
図1. 今回開発した技術の概要。

研究の背景

あらゆる産業用機械・構造物においては、定期検査などで減肉やき裂の発生が認められた機械部品は新しいものに交換することが一般的でした。しかしながら、近年、大量生産大量消費社会からの脱却が叫ばれ、持続可能な開発目標(SDGs)達成の一助として、表面形状を復元する補修技術に注目が集まっています。

本研究グループでは、トーカロ(株)溶射技術開発研究所と共同研究のもと、次世代型レーザ指向性エネルギー堆積法によるその場補修加工技術の開発を進めてきました。この方法は、レーザビームの焦点に金属粉末を集積させ、溶融積層する加工技術です。この技術により、現場で表面形状の完全復元が可能になるだけでなく、補修に必要な金属粉末の廃棄を大幅に削減することができます。ただし、造形条件については試行錯誤的に決定されている現状です。そこで本研究グループは、最適な造形条件を決定する手法を開発することを目指し、研究を行いました。

研究結果の詳細

本研究グループでは、金属粉末の堆積領域を自動的に生み出していくデス‐バースアルゴリズムを考案しました。さらに堆積領域を構成する積層要素に対して、熱輻射—熱伝導モデルならびに粘塑性—熱弾塑性構成モデルを適用し、金属粉末堆積層の溶融から凝固過程までの幅広い状態変化をコンピュータ上で忠実に再現できるようにしました。これを有限要素解析プログラムに組み込むことで、これまでにない新しい加工解析システムを構築しました。一例として、開発した解析システムを用いて平板に対してその表面形状を復元している様子を図2に示します。レーザビームによる金属粉末の堆積層が形成(バース)している過程、レーザ加熱温度分布の広がり、加工終了時の残留応力が再現されているとともに、別途行った実験結果とも完全に一致していることが確認されました。

レーザ指向性エネルギー堆積法(LDED)による金属積層造形プロセスの数値モデル化に成功~加工技術におけるデジタルツイン構築に大きく前進~
図2. 開発した解析システムを用いて表面形状を復元している様子。

本研究の成果は、発電所で使用されている循環ポンプの羽根表面に発生したキャビテーション減肉に対する補修計画の立案、ガスタービン動翼先端に生じたチップ減肉に対する補修後に生じた残留変形の低減方法の考案など、さまざまな領域ですでに役立てられています。
今回開発した加工解析システムは、金属造形技術と数値解析手法の融合に基づいた加工技術のためのデジタルツイン構築に向けた革新的技術と位置付けられ、今後、幅広い産業分野へ本技術を展開していく予定です。

論文情報

雑誌名

Journal of Thermal Spray Technology

論文タイトル

Three-Dimensional Numerical Simulation of Repairing Process by Laser Direct Energy Deposition

著者

Masayuki Arai, Toshikazu Muramatsu, Kiyohiro Ito, Taisei Izumi, Hiroki Yokota

DOI

10.1007/s11666-022-01499-6

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