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2022.09.26 Mon UP

効率的な放熱を実現する伝熱異方性を持つ複合フィルムを開発
~二次元フィルムの多様な放熱パターンの設計と持続的な利用につながる成果~

東京理科大学
大分工業高等専門学校
東京工芸大学

研究の要旨とポイント

  • 薄型電子デバイスの放熱を効率化するためには、近接する熱源間の熱干渉を防ぎ、別の方向に熱を伝えて冷却する必要があるため、方向による熱伝導性の違い(面内伝熱異方性)が大きなフィルムの開発が求められています。
  • 本研究では、セルロースナノファイバー製フィルム中に炭素繊維を配向させた複合フィルムを開発し、このフィルムが高い面内伝熱異方性を発現し、実際に分散型EL素子の熱拡散基材として高い冷却効果を示すことを確かめました。
  • 熱処理によりセルロースを燃焼させて炭素繊維を抽出することで、再び新たな熱拡散フィルムの伝熱フィラーとして利用可能であることも確認しました。
  • 本研究成果は、二次元フィルムの多様な放熱パターンの設計と持続的な利用を可能にする一歩になると期待されます。

東京理科大学工学部工業化学科の上谷幸治郎講師(研究当時:大阪大学産業科学研究所)、大分工業高等専門学校電気電子工学科の常安翔太助教、東京工芸大学工学部工学科情報コースの佐藤利文教授らの研究グループは、セルロースナノファイバー製フィルム中で炭素繊維を配向させることで、433%という高い面内伝熱異方性を持つ複合フィルムを開発し、近接する複数熱源の間に生じる熱干渉を緩和しながら、別方向への熱拡散によって放熱することを確かめました。

このフィルムは、炭素繊維の配向方向の熱伝導率が7.8 W/mKであったのに対し、面内直行方向の熱伝導率は1.8 W/mKと、顕著な面内異方性が確認されました。分散型電界発光(エレクトロルミネッセンス、EL)素子(*1)の熱拡散基材として用いた実験からは、高い冷却効果を示すことも確認しました。

さらに、450℃の熱処理によりセルロースを燃焼させて炭素繊維を抽出し、新たな熱拡散フィルムとして再利用可能であることも確認しました。

本研究成果は、2022年7月20日に国際学術誌「ACS Applied Materials & Interface」にオンライン掲載されました。

効率的な放熱を実現する伝熱異方性を持つ複合フィルムを開発
~二次元フィルムの多様な放熱パターンの設計と持続的な利用につながる成果~

研究の背景

近年、薄型電子デバイスの性能向上に伴い、排熱の問題は深刻化しつつあります。薄型のデバイスでは従来のようなかさばるヒートシンクを搭載できないため、発熱デバイスに接する基板を介した熱拡散が最も有効な方法となります。特に、素子同士が近接する熱源間の熱干渉を抑制し、拡散によって別の方向に冷却するために、面内伝熱異方性の大きなフィルムの開発が重要となります。

これまで、上谷講師の研究グループでは、バイオマス由来のセルロースナノファイバー(CNF)フィルムがガラスやプラスチックより高い熱伝導性(ホヤ殻由来CNFで約2.5 W/mK)を示すことを見出し、各種伝熱・放熱材料への展開を進めてきました。しかし、CNF単独ではフィルム材料に高い面内伝熱異方性を発現することが困難であり、CNFの扱いやすさや環境性能を維持しつつ伝熱異方性を向上することが課題となっていました。

CNFの大きな利点として、水系での取り扱いが容易であり、乾燥すると自己凝集してフィルム(紙)になるという他のポリマーにはない特性が挙げられます。加えて、紙に鉛筆で文字を書けることが示すように、セルロースは炭素材料との親和性が高いため、高熱伝導性で構造異方性の大きな炭素繊維(CF)フィラーと組み合わせやすい材料です。疎水性のCFは単独では水中に分散させることが出来ませんが、CNF存在下では簡単に水中に分散することがわかりました。そこで、私たちは、CNFとCFの水系混合物を開始材料とし、液相3Dパターニング技術(*2)によりCFを整列させることで、面内異方性の高い複合フィルムを形成できると考えました。

もう一つ、CFとCNFを組み合わせる利点として、CFフィラーのリサイクルにより廃棄物を削減でき、環境負荷を低減できることが挙げられます。これまで熱制御部材は基本的に使い捨てを前提としており、フィラーのリサイクル・再利用はほとんど検討されていませんでした。しかし、CFはセルロースよりも熱分解温度が高いため、CF/CNF複合材料を両者の熱分解温度の中間温度で熱処理することにより、CFをそのまま単離できると予想されました。つまり、CF/CNF複合材料からCFを回収し、新たな伝熱フィラーとして再利用できることが期待できます。

研究結果の詳細

本研究ではまず、CFの短繊維(セルロースに対して配合比10重量%)とマボヤの殻由来のCNFの水系懸濁液を用いて液体3Dパターニング処理を行い、CFを一軸配向させたCF/CNF複合フィルムを作製しました。フィルム面内の熱伝導率異方性を調べたところ、CF配向方向に7.8 W/mKの熱伝導率を示し、面内直行方向には1.8 W/mKであったことから面内異方性が433%となり、これまでの2次元フィルム材料における最大値を示しました。

この配向CF/CNF複合フィルム上に分散型EL素子を形成して発光時の温度上昇を調べたところ、CFの配向性を持たないランダムなCF/CNF複合フィルム上に比べて温度上昇が抑えられ、冷却効果が高いことが判明しました。また、近接した2つの熱源を擬似的に形成し、フィルムの温度分布を調査した結果、配向CF/CNF複合フィルムは熱源間を断熱して熱干渉を防ぐと同時に、CFの配向方向への熱拡散により高い放熱性能を発揮することがわかりました。

さらに、450℃での熱処理により複合フィルムからCFを抽出し、新たなCNFと複合することで、再度熱伝導性フィラーとして再利用可能であることが初めて実証されました。

これらの結果は、二次元フィルムの多様な放熱パターンの設計と持続的な利用を可能にする一歩になると考えられます。

※ 本研究の一部は、日本学術振興会科研費(21K14215)、研究拠点形成事業(JPJSCCB20220006)、日揮・実吉奨学会、JFE21世紀財団の支援を得て行われました。

用語

*1 分散型EL素子
無機ELの一種であり、電界の印加によって無機蛍光粒子による均一な面発光が得られる素子である。耐環境性や加工性に優れているため、時計や携帯電話のバックライト等、発熱量を抑えた補助光源として実用化されている。

*2 液相3Dパターニング技術
液相中の繊維を細い流路から吐出し、配列させながらプログラム通りにパターニングすることで、巨視的な配向構造を形成する技術。

論文情報

雑誌名

ACS Applied Materials & Interface

論文タイトル

Thermal Diffusion Films with In-Plane Anisotropy by Aligning Carbon Fibers in a Cellulose Nanofiber Matrix

著者

Kojiro Uetani, Kosuke Takahashi, Rikuya Watanabe, Shota Tsuneyasu, and Toshifumi Satoh

DOI

10.1021/acsami.2c09332

お問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ先】

東京理科大学 工学部 工業化学科 講師
上谷 幸治郎(うえたに こうじろう)
E-mail:uetani【@】@ci.tus.ac.jp

大分工業高等専門学校 電気電子工学科 助教
常安 翔太(つねやす しょうた)
E-mail:s-tsuneyasu【@】oita-ct.ac.jp

東京工芸大学 工学部 工学科 教授
佐藤 利文(さとう としふみ)
E-mail:toshi【@】t-kougei.ac.jp

【報道・広報に関する問い合わせ先】

東京理科大学 経営企画部 広報課
TEL:03-5228-8107 
FAX:03-3260-5823
E-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp

大分工業高等専門学校 総務課総務係
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学校法人東京工芸大学 総務・企画課 広報担当
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