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2022.09.21 Wed UP

「自信過剰」は不公平の認識を高めるが、格差是正への支持は高めない
~自認する能力と所得のギャップが政治的選好に与える影響について初の調査~

研究の要旨とポイント

  • 所得再分配政策の支持率は、経済不平等度が同程度に大きい国でもばらつきが大きいことが知られています。経済的利益を享受できる人々がなぜ所得再分配政策に反対するのか、「自信過剰」という性質に着目して調査を行いました。
  • その結果、自信過剰な人は、自分の能力に比べて所得が十分でないのは経済の不公平さにあると考える一方、それが所得格差是正への支持には必ずしもつながらないことが示されました。
  • 不平等の是正に賛成、あるいは反対するのはどういった人物なのかを明らかにすることは、不平等の拡大と分極化が進む現代社会において、社会的対立を緩和する一助となると期待されます。

東京理科大学教養教育研究院の松本朋子講師、同大学経営学部の岸下大樹講師、プリンストン大学経済学部博士課程の⼭岸敦氏の研究グループは、アメリカでのオンライン調査から、自信過剰な人は自分の能力と所得が釣り合わない理由を経済の不公平さに求めるが、それが所得格差是正や政府介入への支持にはつながらないという結果を得ました。

所得再分配政策の支持率は、経済不平等度が同程度に大きい国でもばらつきが大きいことが知られています。研究グループは、経済的利益を享受できる人々がなぜ所得再分配政策に反対するのかに興味を持ち、「自信過剰な人は、自分の能力に比べて所得が十分でないのは経済の不公平さにあると考えるため、所得格差是正を支持する」という仮説を立て、検証しました。

その結果、「自信過剰な人は、自分の能力に比べて所得が十分でないのは経済の不公平さにあると考える」については支持された一方、それが所得格差是正への支持には必ずしもつながらないことが示されました。

不平等の是正に賛成、あるいは反対するのはどういった人物なのかを明らかにすることは、不平等の拡大と分極化が進む現代社会において、社会的対立を緩和する一助となると期待されます。

本研究成果は、2022年8月28日に国際学術誌「European Journal of Political Economy」にオンライン掲載されました。

「自信過剰」は不公平の認識を高めるが、格差是正への支持は高めない~自認する能力と所得のギャップが政治的選好に与える影響について初の調査~

研究の背景

多くの人は自分の能力を過信する傾向にあることは、これまでに数多く報告されています。ドライバーの88%が、「自分は平均的なドライバーよりも安全運転をしている」と回答したというアメリカの調査は、その有名な例です。研究グループは、こうした「自信過剰」という性質が、所得政治的選好、特に平等に対する選好にどのような影響を与えるかに着目し、調査を行いました。

自信過剰な人は、実際には自分が思っているほど所得が高くないことから、自分の能力と経済的地位との間にギャップがあることを、人生のある時点で自覚すると考えられます。その際、彼らは自分の能力に強固な自信を持っているので、このギャップは自分の能力不足ではなく、社会は不公平で非実力主義であると考えるようになります。その結果、より公平な社会の実現を求めて、自信過剰な人は所得格差是正への指示を高めるだろうと予想されます。

近年、公平さに対する見方や所得再分配に対する選好において、個人の経済経験が重要な役割を果たすと指摘されています。しかし、自認する能力と所得にギャップがあることに気づくという経験は非常に一般的なものであるにもかかわらず、公平さや所得再分配に対する選好性にどういった影響を与えるのかについては研究が進んでいません。実際に個人の経済経験を操作することは不可能であることから、十分なエビデンスはありません。

そこで本研究では、実社会において、自認する能力と所得間のギャップの認識が政治的選好に影響を与えるかどうか調査しました。

研究結果の詳細

本研究では、アメリカで約4,500名が参加したオンライン調査を行いました。調査のはじめに、回答者に対して自分の収入と稼得能力に関する自己評価を入力するよう求め、その回答結果に基づき、自認する能力と所得間のギャップについての自己認識を評価しました。すると、回答者の大半は、稼得能力に対する自己評価と収入の位置が一致していないことが示されました。さらに、稼得能力の自己評価と収入の位置が一致していない人のうち半数以上は自分の所得が稼得能力よりも低いと考えていました(以降、これを「負の所得-能力ギャップ」と呼びます)。そして、これまでの回答に基づき、所得-能力ギャップを強調する処置群とそうではない対照群にランダムに振り分けました。

この処理を回答者の所得-能力ギャップの自己評価に基づいてカスタマイズしているのが、今回の調査のユニークな点です。たとえば、自己評価で「非常に高い能力」を選び、世帯収入は相対的に「低い」を選んだ回答者を例に挙げますと、その半数を、能力が非常に高いにもかかわらず収入が低いことを意識させるような質問をする処置群に、残りの半数をそのような質問をしない対照群にランダムに割り当てました。これにより、実社会において、負の所得-能力ギャップの認識が不平等是正の選好に与える影響を探ることができます。

その結果、主に二つの結果を得ることができました。一つ目の結果として、負の所得-能力ギャップを認識した人は、アメリカ社会では多くの人が自分の能力以下の収入しか得られていないと考えるようになることが分かりました。つまり、多くの人は、負の所得-能力ギャップを自分の能力の低さではなく、経済の不公正さによるものと考えます。

もう一つの結果は、負の所得-能力ギャップは経済の不公平さに対する見方には影響を及ぼすものの、所得格差是正への支持、および政府介入への支持にも結びつかないということが示されました。この結果は、世界が自分の考えているようなものではないことが分かっても、必ずしも平等への選好に影響を与えないことを示しています。

また、政治イデオロギーや政治信頼などの政治的態度が結果に影響を与えた可能性についても検証を行ったところ、中道派と右派の人々は、負の所得-能力ギャップを認識しても不平等是正への支持にはつながらないという、全体の傾向と同じ結果でした。一方、左派層では、統計的に有意ではないものの、負の所得-能力ギャップの認識が不平等是正への支持を高めるという示唆的なエビデンスが得られました(p = 0.06)。しかし、左派の人々でも政府介入への支持は高まりませんでした。また、政治的信頼度によるちがいは見出せませんでした。

本研究ではアメリカで調査を行いましたが、他の国でも自信過剰は一般的な傾向ですので、同様の結果が得られると考えられます。しかし、経済が公平かどうかの見方は国によって異なりますので、今後は他の国でも同様の結果が得られるか検証する必要があるでしょう。

論文情報

雑誌名

European Journal of Political Economy

論文タイトル

Overconfidence, income-ability gap, and preferences for income equality

著者

Daiki Kishishita, Atsushi Yamagishi, Tomoko Matsumoto

DOI

10.1016/j.ejpoleco.2022.102279

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