ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2022.08.09 Tue UP

半導体製造の次世代技術『UVナノインプリントリソグラフィ』普及へ大きな一歩
~樹脂の選択・設計の指針を提示、半導体製造の効率化に貢献~

研究の要旨とポイント

  • UVナノインプリントリソグラフィは、紫外線を利用した微細加工技術で、プロセス速度に優れ、大面積加工が可能であることから、大量生産に適した低コストな技術として注目されています。
  • 本研究では、UVナノインプリントリソグラフィにおける樹脂充填プロセスの際の分子の挙動をシミュレーションにより再現し、数nmのトレンチ(溝)への樹脂充填を成功させるために必要な特性を明らかにしました。
  • 本成果は、UVナノインプリントリソグラフィにおける樹脂の選択・設計の指針を示すものであり、半導体製造の効率化に寄与すると期待されます。

UVナノインプリントリソグラフィは、紫外線(UV)硬化性樹脂を基盤に充填し、鋳型(テンプレート)を用いてナノスケールのパターンを圧縮成形後、紫外線を照射して瞬時に形状を固定する微細加工技術です。UVナノインプリントリソグラフィはプロセス速度に優れ、大面積の加工が可能であることから、大量生産に適した低コストな技術として脚光を浴びています。しかし、パターン形成の成否を左右するUV硬化樹脂分子の挙動はまだ明らかになっていませんでした。

東京理科大学 先進工学部電子システム工学科の安藤格士准教授らは、4種類のUV硬化樹脂を対象に、UVナノインプリントリソグラフィにおける数ナノメートル幅の微細なトレンチ(溝)への充填過程について分子動力学シミュレーション(*1)を行い、充填の成功に必要な主な分子的特徴を明らかにしました。本研究はUVナノインプリントリソグラフィにおける樹脂の選択や設計に指針を示し、半導体製造など微細加工技術の効率化に寄与すると期待されます。

本研究成果は、2022年7月25日に国際学術誌「Nanomaterial」にオンライン掲載されました。

研究の背景

半導体チップに記録できる情報量を増やすためには、回路の線幅を細くして、できるだけ回路を密に描く必要があります。従来技術では、基板に感光剤を塗布した後、回路パターン以外の部分をマスクした上でUV光を照射することで、照射部の感光性材料が溶けて基盤が露出し、そこにエッチング剤を加えることで、露出部がエッチング剤と反応し、基板に凹凸が形成されます。しかし、超微細な回路パターンを作るためには、製造時に大量の電力を消費するという課題がありました。

ナノインプリントリソグラフィは、従来の手法よりも電力のコストが少ない微細加工技術として注目を集めています。中でもUVナノインプリントリソグラフィはプロセス速度や加工面積に優れ、半導体製造や生命科学分野などで実用化されつつあります。

しかし一方で、充填プロセスにおいて加工に用いる樹脂が鋳型に付着したり、基板から剥がれ落ちたりといった樹脂の機械的特性による欠陥が課題となっていました。これまでに、安藤准教授らの研究グループは、4種類の樹脂を対象に、その充填過程を分子動力学シミュレーションで解析を行い、粘度10mPa・sの樹脂では2nmおよび3nmのトレンチ(溝)をうまく充填できる一方、より粘度が高い93mPa・sの樹脂ではうまく充填できないという結果を得ています(文献1)。

そこで本研究では、文献1とは異なる樹脂を対象として、新たな充填プロセスの分子動力学シミュレーションを行いました。さらに、本研究とこれまでの研究で得られたシミュレーションデータを用いて、UV硬化型樹脂における分子の形状、コンフォメーション、分布の解析を行い、樹脂の分子特性がUVナノインプリンティングの充填プロセスに与える影響について検討しました。

(文献1)
Uchida, H.; Imoto, R.; Ando, T.; Okabe, T.; Taniguchi, J. Molecular dynamics simulation of the resist filling process in UV-nanoimprint lithography. J. Photopolym. Sci. Technol. 2021, 34, 139–144.

研究結果の詳細

本研究では、UV硬化樹脂としてN-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート(TPGDA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)を、重合開始剤としては2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を用いて4種類の樹脂を準備し、UVナノインプリンティングの充填プロセスの分子動力学シミュレーションを行いました。

その結果、HDDA、NVP/TPGDA/TMPTA、TPGDAを含む粘度10mPa・s以下の樹脂では、幅2nmおよび3nmのトレンチを充填することに成功しましたが、TMPTAのように嵩が高く、高粘度の樹脂では、幅2nmおよび3nmのトレンチを埋めることができませんでした(図)。分子動力学シミュレーションから得られた動径分布関数(*2)と回転半径(*3)を解析した結果、TMPTAの回転半径は、動径分布関数の最初のピークが発生する距離の半分より小さいと示されました。この結果は、動径分布関数と回転背景は、低粘度フォトポリマーの選択と設計に役立つ指標であることを示唆しています。

また、直鎖状のポリマーであるHDDAとTPGDAの形状を比較したところ、TPGDAはコンパクトな状態を形成する可能性が高く、より柔軟で多くのコンフォメーションを取ることが明らかになりました。この柔軟性のため、TPGDA分子では重合反応にかかわる末端官能基が同一分子内で近づくことができ、分子内架橋が起こりやすくなると考えられます。このシミュレーション結果は、実験で観察されたUV硬化HDDAとTPGDAベースの材料間の硬度の違いを説明することができます。

本研究成果はUVナノインプリントリソグラフィによる微細パターン形成のための樹脂の選択・設計の指針となる有用な情報を提供するものであり、半導体製造の効率化に寄与すると期待されます。

半導体製造の次世代技術『UVナノインプリントリソグラフィ』普及へ大きな一歩~樹脂の選択・設計の指針を提示、半導体製造の効率化に貢献~
図. TPGDAの充填シミュレーション結果。時間経過に伴う全体の体積変化(左)と、3nm幅(中央)および2nm幅(右)のトレンチでのシミュレーション終了時のスナップショット。2nm幅のトレンチへの充填プロセスは本シミュレーション終了時には完了しなかったが、レジストは有限の時間内にトレンチを充填することがわかった。

用語

*1  分子動力学シミュレーション
原子や分子の動きが古典力学に従うと想定して行うコンピューターシミュレーションの手法。一つ一つの粒子に対して運動方程式を立て、数値計算によって解く。

*2  動径分布関数
ある分子(あるいは原子)に注目して、その周囲に位置する分子(あるいは原子)の存在確率を示す関数。

*3  回転半径
高分子鎖の重心から各モノマーへの距離。高分子の広がり具合を示す。

※本研究は、日本学術振興会科研費の基盤研究(C)(19K04224)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Nanomaterials

論文タイトル

Molecular Dynamics Study on Behavior of Resist Molecules in UV-Nanoimprint Lithography Filling Process

著者

Jun Iwata and Tadashi Ando Ando

DOI

10.3390/nano12152554

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。