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2022.08.23 Tue UP

河川のマイクロプラスチック汚染を十分な精度で調査できるサンプリング回数を決定する方法を提案
~現場サンプリングのコスト抑制に貢献~

東京理科大学
愛媛大学

研究の要旨とポイント

  • 淡水環境におけるマイクロプラスチックの分布が完全にランダムな過程に従うことを突き止め、さらに、現場サンプリングで必要となるサンプリング回数を決定する方法を提案しました。
  • この手法により、適切なサンプリング回数を、汚染状況に応じて誰でも設定できます。
  • 本手法を応用することで、マイクロプラスチックの流出量調査にかかる人的・時間的・金銭的コストを削減できると期待されます。

近年、マイクロプラスチック*1による河川や海洋の汚染が問題になっています。マイクロプラスチックは河川によって陸地から海へと運ばれるため、河川の汚染状況の実態を、まずは把握する必要があります。しかし、淡水環境における現場サンプリングの手法はまだ確立されていません。特にマイクロプラスチック濃度の調査において、サンプルごとの誤差を防ぐために何回サンプリングを行えばよいかを知る手立てがありませんでした。

東京理科大学理工学部土木工学科の田中衛ポストドクトラル研究員、同大学理工学部 土木工学科水理研究室 二瓶 泰雄 教授、愛媛大学 大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 片岡 智哉 准教授の研究グループは、マイクロプラスチックの濃度は純粋にランダムな過程に従って分散することを突き止め、さらに、マイクロプラスチックの現場サンプリングにおいて、汚染状況に応じた適切な反復回数を決定する方法を提案しました。

この手法を用いることで、現場サンプリングにおいて十分な精度を実現する回数を決定できるようになりました。1立方メートルあたり3粒子以上の高濃度条件では、2回のサンプリングの平均値をとることで誤差30%以下の十分な精度が保たれると統計的に示されました。

本手法によって現場サンプリングを必要以上に反復する無駄を省くことができ、現在官学が主体となって行っているマイクロプラスチック調査にかかる時間的・人的・金銭的コストを削減できると期待されます。

本研究成果は、2022年8月4日に国際学術誌「Environmental Pollution」にオンライン掲載されました。

研究の背景

研究グループは、マイクロプラスチックの現場サンプリング方法は科学的な根拠に則っているかという疑問から研究をスタートさせました。淡水の現場サンプリングでは、マイクロプラスチック粒子が多く分布する部分を採取するか、少なく分布する部分を採取するかによって大きな誤差が生じます。誤差を最小限に抑えるために、調査ではサンプルの採取を複数回行います。しかし、何回サンプルの採取を行えば求められる精度を保証できるのかは明らかになっておらず、回数決定のために、誰もが使うことのできる画一的な基準はありませんでした。

そこで本研究では、まず、マイクロプラスチック濃度の標本間分散が濃度推定値の平均値に比例するという仮説を検証しました。次に、得られた分散と平均の関係に基づいて、サンプリングの反復回数を決定する統計モデルを構築しました。

研究結果の詳細

本研究ではマイクロプラスチックの濃度を1立方メートルあたりの粒子数としました。調査は、プランクトンネットを用いて、大堀川と、東京理科大学野田キャンパスの目の前を流れる利根運河で行いました。日本の都市河川であるこの2河川において、マイクロプラスチック濃度の標本間分散を精査したところ、分散は濃度の推定値の平均値に比例しており、観察された分散と平均の関係は、両地点のデータを組み合わせた単純な線形回帰で十分説明できることが示唆されました。この線形回帰で推定された回帰直線の傾きは両河川間で普遍的であり、マイクロプラスチック粒子がランダムなポアソン過程*2に従って空間分布することを示唆する結果でした。

さらに、本研究で得られた分散と平均の関係に基づいて、サンプリングの精度を予測する手法を開発しました。精度を数値濃度の標準誤差と標本平均との比として評価しました。その結果、1立方メートルあたり3粒子以上の高濃度条件では、2回のサンプリングの平均値をとることで誤差30%以下の十分な推定精度が保たれることがわかりました。

研究を主導した田中ポストドクトラル研究員は、「本研究から、マイクロプラスチック粒⼦が完全にランダムな過程に則って空間分布することが⽰唆されました。一見複雑に見えた調査結果から、見落とされてしまいそうな法則性を見つけ出し、それに基づく提言を論文を通じて行い、科学的調査方法の確立に貢献できたことにやりがいを感じました」と話しています。

※ 本研究は、独立行政法人環境再生保全機構環境研究・技術開発基金(JPMEERF21S11900)、(科研費番号21H01441)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業(JPNP18016)として実施されたものです。

用語

*1 マイクロプラスチック
直径5ミリメートル未満のプラスチック片のこと。サイズが小さいため回収が困難。動物が誤って飲み込むと消化されずに体内に残り、消化器官に詰まって死に至ることもあり、有害な化学物質を吸着することからも、生態系への影響が懸念されている。

*2 ポアソン過程
ランダムに起こる事象を確率によって表す数理モデル。電話がかかってくる回数、一定期間内に起こる事故の発生件数など、過去の事象がその後の事象に影響を与えない現象を記述する。

論文情報

雑誌名

Environmental Pollution

論文タイトル

Variance and precision of microplastic sampling in urban rivers

著者

Mamoru Tanaka, Tomoya Kataoka, Yasuo Nihei

DOI

10.1016/j.envpol.2022.119811

発表者

田中 衛   東京理科大学 理工学部 土木工学科 ポストドクトラル研究員

片岡 智哉  愛媛大学大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 准教授

二瓶 泰雄  東京理科大学 理工学部 土木工学科 教授

お問い合わせ

【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 理工学部 土木工学科 ポストドクトラル研究員
田中 衛(たなか まもる)
E-mail:tanaka.mamoru0【@】rs.tus.ac.jp

愛媛大学大学院 理工学研究科 生産環境工学専攻 准教授
片岡 智哉(かたおか ともや)
E-mail:kataoka.tomoya.ab【@】ehime-u.ac.jp

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