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2022.08.01 Mon UP

超音波の調べ:超音波暴露がラットに抗うつ様作用をもたらすことを発見
~精神疾患の非侵襲的な予防・治療法の開発に寄与~

東京理科大学
株式会社フジミック

研究の要旨とポイント

  • 超音波は、生物の脳の活性化に良い影響を与えることが知られていますが、精神状態への影響やその作用機序については、ほとんどわかっていませんでした。
  • ラットに50kHz帯域の超音波を暴露すると、血中コルチコステロン濃度(※1)が減少し、不安・抑うつ様の症状を改善することを明らかにしました。
  • 本研究をさらに発展させることで、精神疾患に対する非侵襲的(※2)な治療法の開発が期待されます。

東京理科大学薬学部薬学科の斎藤顕宜教授、宮崎智教授、山田大輔助教、山内つぐみ氏(修士課程2年)、株式会社フジミックの西野彰一氏らの研究グループは、抑うつ・不安感受性の亢進したモデル動物(嗅球摘出ラット、※3)に50kHz帯域の超音波をさらすと、血中コルチコステロン濃度が減少し、抗うつ様作用が現れることを明らかにしました。本研究成果により、超音波暴露によるストレスの低減や精神障害の予防など、非侵襲的で安全な治療法の開発が期待されます。

超音波は、報酬系の神経回路などの脳のはたらきに良い影響を与えることが知られています。しかしながら、心の状態に対して、どのような作用機序で、どのような効果をもたらすのかについては未解明のままでした。そこで、本研究グループはこれらの解明を目的とし、抑うつ・不安感受性の亢進したモデル動物である嗅球摘出ラットを用いて検討しました。

研究の結果、超音波暴露によって、嗅球摘出ラットの血中コルチコステロン濃度が低下し、抑うつ、不安様行動が改善することがわかりました。また、超音波による効果の作用機序を調査する際に、嗅球摘出ラットが動物モデルとして妥当であることを実証しました。

本研究は、超音波が嗅球摘出ラットに抗うつ薬様の効果をもたらすことを初めて明らかにした例であり、本研究の成果により、超音波が精神疾患の予防・治療に対して高い応用可能性を持つことが示唆されました。

本研究成果は、2022年7月6日に国際学術誌「NeuroReport」にオンライン掲載されました。

研究の背景

ラットは同種のラットとコミュニケーションを図る際に、その精神状態によってさまざまな周波数の超音波を使い分けることが知られています。例えば、心地良いなどのポジティブな感情を持つときには50kHz帯域の超音波を発声し、恐怖や不安感などのネガティブな感情を持つときには20kHz以下の超音波を発声します。

一方で、超音波はヒトの脳の活性化に対して、良い影響を与えることが知られています。例えば、経頭蓋超音波刺激(頭蓋骨を経由して与える超音波刺激)には、思考力や認識力に関連する脳のはたらきを調節する作用があります。しかしながら、超音波が生物の精神状態にどのような作用機序で、どのような効果を与えるかについてはほとんどわかっていませんでした。

以上の背景から、本研究グループは、ラットに50kHz帯域の超音波をさらすことで、ネガティブからポジティブへと精神状態をコントロールできるのではないかと推測しました。そこで、本研究グループは50kHz帯域の超音波暴露が生物の精神状態に及ぼす影響とその詳細なメカニズムを明らかにすることを目的として、うつ病モデルの1つである嗅球摘出ラットを対象とした実験を行いました。

研究結果の詳細

本研究では、sham群(手術はしたが、嗅球を摘出していないラット)、コントロール群(嗅球摘出ラット+ホワイトノイズ)、実験群(嗅球摘出ラット+超音波暴露)の3種類のグループを準備して実験を行いました。

嗅球摘出ラットの「情動過多のスコア(hyperemotionality scores)」は、50 kHz帯域の超音波に24時間さらされた後、大幅に減少することがわかりました。また、高架式十字迷路試験(※4)では、オープンアームに入るまでの待ち時間が減少し、オープンアーム上で過ごす時間が増加傾向を示すという結果が得られました。これらの結果は、50 kHz帯域の超音波にさらされた嗅球摘出ラットに抗うつ様作用が現れることを示しています。

また、超音波にさらされた嗅球摘出ラットは、血中コルチコステロン濃度が低下することが明らかになりました。コルチコステロンは内因性ストレスのバイオマーカーであり、この濃度低下は、超音波による嗅球摘出ラットのストレスの低減を意味しています。

以上の結果より、50 kHz帯域の超音波によって、嗅球摘出ラットのポジティブな感情が惹起され、抑うつ様状態を改善する可能性が示唆されました。また、嗅球摘出ラットが超音波暴露の影響およびその作用機序を調査するための有用な動物モデルであることが実証されました。

本研究の成果について、研究を主導した斎藤教授は「今回の研究結果により、生物に対する超音波暴露の影響を、分子レベルで解明することが可能になります。また、ストレスや精神障害に対して、超音波を活用した新しい治療法を提案することができます。超音波による治療法は、薬物療法とは異なり、非侵襲的で扱いやすいことが特徴です。したがって、日常生活で超音波にさらされることでストレスを改善し、精神障害の発症を予防または治療するなど、新規治療法の開発に応用できます」と話しています。

※ 本研究は、株式会社フジミックの助成を受けて実施されました。

用語

※1 コルチコステロン:副腎によって産出される糖質コルチコイド。ストレスとの関連性が高く、ストレス度の測定に有効なバイオマーカー。

※2 非侵襲的:注射や手術など生体にダメージを与える医療操作を行わないこと。

※3 嗅球摘出ラット:うつや不安に似た症状を示すうつ病の動物モデルの1つ。

※4 高架式十字迷路試験:壁のない2本のオープンアームと、壁に囲まれた2本のクローズアームが、床面より高い位置で十字に交差している迷路(高架式十字迷路)における実験動物の行動から、不安行動を評価する試験。不安を感じた実験動物はクローズドアームを好む傾向にあることから、どの程度オープンアームを避けるかによって不安行動を評価することができる。

論文情報

雑誌名

NeuroReport

論文タイトル

High-frequency ultrasound exposure improves depressive-like behavior in an olfactory bulbectomized rat model of depression

著者

Tsugumi Yamauchi, Toshinori Yoshioka, Daisuke Yamada, Takumi Hamano, Maika Ikeda, Masato Kamei, Takaya Otsuki, Yasuo Sato, Kyoko Nii, Masashi Suzuki, Satoshi Iriyama, Kazumi Yoshizawa, Shoichi Nishino, Hiroko Ichikawa, Satoru Miyazaki and Akiyoshi Saitoh

DOI

10.1097/WNR.0000000000001804

発表者

斎藤 顕宜  東京理科大学 薬学部 薬学科 教授 <責任著者>

山田 大輔  東京理科大学 薬学部 薬学科 助教

宮崎 智   東京理科大学 薬学部 薬学科 教授

山内 つぐみ 東京理科大学大学院 薬学研究科 薬科学専攻 修士課程2年 <筆頭著者>

西野 彰一  株式会社フジミック 取締役

お問い合わせ

【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 薬学部 薬学科 教授
斎藤 顕宜(さいとう あきよし)
E-mail:akiyoshi_saitoh【@】rs.tus.ac.jp

【報道・広報に関する問い合わせ先】
東京理科大学 経営企画部 広報課
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