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2022.07.14 Thu UP

無機ナノ粒子表面でのタンパク質の挙動の一端を解明
~実験と計算科学を組み合わせた新たなアプローチで医学応用可能な新材料の開発に挑む~

研究の要旨とポイント

  • 無機ナノ粒子表面でのタンパク質の二次構造の変化は疾病予防などに重要でありながら、複雑すぎることから分析が困難で世界的にも研究が進んでおらず、その原理は解明されていません。
  • 本研究では、赤外分光法によりタンパク質の二次構造を解析する実験的アプローチと、その解析結果に基づきタンパク質のふるまいをシミュレートする計算科学的アプローチを組み合わせて検証する⼿法を提示し、原理の⼀端である共存イオンの効果を示すことに成功しました。
  • この成果は、無機ナノ粒子の応用可能性を広げ、薬物送達制御やタンパク質二次構造異常関連疾病の予防などにつながるものです。

東京理科大学先進工学部マテリアル創成⼯学科の梅澤雅和講師、坂口直哉氏(修士課程1年)、カザフスタンのナザルバエフ大学のMehdi Amouei Torkmahalleh 助教およびDhawal Shah 助教の研究グループは、無機ナノ材料の毒性制御のためのナノ粒子-タンパク質間相互作用の原理解明に向け、実験的手法と計算科学的手法を組み合わせた新たなアプローチを提示し、原理の一端として共存イオンの効果を示すことに成功しました。

フッ化物ナノ粒子(NP)は、生体イメージングや薬物送達制御(DDS:ドラッグデリバリーシステム)をはじめヒトの疾病治療・予防につながる微小スケール材料として期待されています。しかし、有機分子からなる材料と比べて、無機ナノ材料には毒性の懸念があるため、応用に至るまでには解決しなければならない問題が多くあります。その一方で無機ナノ粒子には、有機分子にはない高機能材料を提供できる可能性があるため、その毒性制御のためにナノ粒子-タンパク質間相互作用の原理解明が期待されています。

今回の研究では、アミロイドβペプチド(Aβ16-20)とフッ化物ナノ粒子であるフッ化セリウム(CeF3)NPを用いて、NP存在下ではAβ16-20のβ-シート構造(※1)の形成が促進されることを明らかにしました。Aβペプチドのβシート構造の形成は、水素結合の形成に起因しているため、アンモニウムイオン(NH4+)の存在下では促進されましたが、硝酸イオン(NO3)の存在下では、抑制されることが示されました。

無機NP表面でのタンパク質のふるまいは複雑です。タンパク質の二次構造変化の原理の解明は、疾病予防に重要である一方で分析が難しく、世界的にも研究が進んでいません。今回の結果は、物理化学的性質の異なるNPがタンパク質の分子状態に与える影響に関する新たな知見を提供するものです。無機NP表面でのタンパク質のふるまいを理解することにより、医学生物学分野における高機能材料になると期待される無機ナノ粒子の応用可能性が広がると期待されます。

本研究成果は、2022年6月2日に国際学術誌「ACS Applied Bio Materials」にオンライン掲載されました。

研究の背景

タンパク質の二次構造や集合状態は、タンパク質の機能や活性を制御する上で重要であり、ペプチドやタンパク質の線維状凝集体の形成は、神経変性疾患などさまざまな疾患と関連しています。タンパク質中のアミノ酸残基は、水素結合、ジスルフィド結合、静電相互作用、疎水性相互作用によって互いに作用し、こうした相互作用はタンパク質の立体構造に影響を及ぼします。

液体や固体など異なる性状の物質の界面では、二次構造の変化やタンパク質の凝集が促進されることがあります。固液界面におけるペプチド凝集速度は、ペプチドと固体材料との親和力(結合力)と固体表面の形状(粗さ)によって決定されることが知られています。これまでの研究から、疎水性相互作用が金NP存在下でのβシート構造の形成を阻害することが明らかになっており、NP表面の電荷もAβ線維形成に重要であると考えられていました。

フッ化NPは、脳のイメージングを含むバイオメディカル分野で利用されている材料ですが、NPと生体分子との相互作用のメカニズムは未だ明らかになっていません。そこで梅澤講師らの研究グループでは、生物医学的応用が期待されるフッ化物セラミックスであるフッ化セリウム(CeF3)NP表面におけるタンパク質の二次構造および凝集状態の変化の可能性に着目し、アミロイドβペプチド(Aβ16-20)を用いて、その変化の原理を調べました。具体的には、合成したCeF3 NPがAβ 分子の二次構造と自己集合に及ぼす影響を in vitro 実験系と分子動力学(MD, ※2)シミュレーションを用いて解析しました。

研究結果の詳細

X線回折および動的光散乱を用いたCeF3粒子の特性評価を踏まえて、サイズ分布のピークの80nmを代表的なCeF3粒子径とみなしました(図1)。分子量が小さいことから比較的容易にMDシミュレーションを行うことができるフラグメントペプチド Aβ16-20を用い、液膜FT-IR(※3)分光法とMDシミュレーションを用いてAβの二次構造変化と凝集について解析しました。

その結果、Aβ分子が局所的にある程度濃縮されると、水環境下でのNPとAβ16-20との疎水性相互作用により分子間結合が促進され、βシートの形成が促進されることが示唆されました。NP表面に濃縮されたAβ16-20は、秩序だった水素結合を形成し、βシート構造をとっていました。さらに、さまざまなイオン溶液を用いてCeF3 NP表面での Aβ16-20 ペプチドの挙動に及ぼす共存イオンの影響を調べたところ、NH4+とNO3イオンがCeF3上で促進されるAβのβシート形成を抑制することが明らかになりました。

これを踏まえて、これらの4種のイオンの存在下でAβ16-20の単量体についてMDシミュレーションを行いました。その結果、NH4+またはNO3の非存在下でCeF3 NP表面に濃縮した場合、Aβペプチド間の水素結合が支配的になりました。反対に、NH4+またはNO3存在下では、NPとAβペプチド間の結合が支配的となり、水素結合は抑制されました。Aβペプチドのβシート構造の形成は、NH4+イオン存在下では促進されましたが、NO3イオン存在下ではCeF3 NPの有無にかかわらず抑制されました。NO3はNP非存在下での塩化物と比較して、ペプチドと強く結合していることが明らかになりました(図2)。

今回の研究により、無機NP表面でのタンパク質のふるまいの一端が明らかになりました。また、今回NPの検証に成功したFT-IR分光法とMDを用いた解析手法は、タンパク質の分子状態に対する NP の影響を解明する上で重要な役割を果たすと考えられます。

梅澤講師は、「無機NPは有機分子にはない高機能材料を提供できる可能性があるため、既存の手法では未解明のNP-タンパク質間相互作用の原理解明が待たれています。本研究で得られた検証手法と原理の一端を示す知見は、将来的に、アルツハイマー型認知症に代表される、タンパク質二次構造異常の関わる疾病の予防や治療にもつながると期待されます」と述べ、今後の研究の応用に期待を示しています。

※本研究は、東京理科大学先端工学部より若手共同研究助成金(2021)、ならびにナザルバエフ大学より共同研究プロジェクト(11022021CRP1503)の助成を受けて実施したものです。

無機ナノ粒子表面でのタンパク質の挙動の一端を解明~実験と計算科学を組み合わせた新たなアプローチで医学応用可能な新材料の開発に挑む~

図1. CeF3 NPと相互作用したAβ16-20のFT-IRスペクトル(上)およびβシートピークの比率(下)

無機ナノ粒子表面でのタンパク質の挙動の一端を解明~実験と計算科学を組み合わせた新たなアプローチで医学応用可能な新材料の開発に挑む~

図2. ペプチド凝集体と 0.1nm 以内のイオンの構造

用語

※1 β-シート構造:隣り合ったポリペプチド鎖が水素結合によって連なったシート状の構造。タンパク質の代表的な二次構造の一つとして知られている。

※2 分子動力学(MD):原子や分子の動きを解析するコンピューターシミュレーション法。

※3 FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度法):試料に赤外光を照射して得られる吸収スペクトルに基づき、未知の試料の化学組成や高分子立体構造などを分析する方法。

論文情報

雑誌名

ACS Applied Bio Materials

論文タイトル

Changes in the Secondary Structure and Assembly of Proteins on Fluoride Ceramic (CeF3) Nanoparticle Surfaces

著者

Naoya Sakaguchi, Samal Kaumbekova, Ryodai Itano, Mehdi Amouei Torkmahalleh, Dhawal Shah, and Masakazu Umezawa

DOI

10.1021/acsabm.2c00239

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