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2022.07.04 Mon UP

優れた抗菌作用を示すアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の合成および機能評価に成功
~芳香環上の塩素原子の数と位置が機能の鍵~

研究の要旨とポイント

  • メタノールを溶媒としてマイクロ波を照射することで有機化学変換を加速させるマイクロ波合成法により、芳香環部位に塩素原子を1つ導入した12種類のアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体を短時間で合成することに成功しました。
  • 今回合成した銅錯体が大腸菌などの複数の細菌に対して、強い抗菌作用を示すことを実証しました。また、芳香環上の塩素原子の数と位置によって異なる抗菌作用を示すことも明らかになりました。
  • 本研究の成果を応用することで、錯体の構造と抗菌作用の相関を明らかにできるので、抗菌剤として有用な化合物の設計と開発への貢献が期待されます。

東京理科大学理学部第二部化学科の秋津貴城教授、中根大輔助教、同大学大学院理学研究科化学専攻の大谷奈央氏(2021年度修士課程修了)、コンピエーニュ工科大学のAntoine Fayeulle博士、Estelle Léonard教授の共同研究グループは、マイクロ波合成法を利用することでアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の短時間での合成に成功し、これらの錯体が優れた抗菌作用を示すことを明らかにしました。また、これらの化合物の置換基を系統的に変化させて構造とその抗菌作用について詳しく調査し、理論的に算出したLogPo/w(※1)の値が錯体の抗菌性を推測する上で重要な指標になることを見出しました。本研究をさらに発展させることで、さまざまな細菌に対して有効な抗菌薬開発への貢献が期待されます。

本研究グループは、これまでに、マイクロ波合成法を使って、芳香環上に塩素原子を持たない(無置換体)、もしくは2つの塩素原子を有する(二置換体)アミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の合成に取り組んできました。今回、これらの錯体の構造と抗菌作用の相関に対する理解を深めるため、1つの塩素原子を有する(一置換体)12種類のアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体を新たに合成し、過去に報告した8種類を含めた、全20種類の錯体の抗菌作用を評価しました。

今回準備した20種類の錯体について、3種類のグラム陽性菌((枯草菌Bacillus subtilis)、腐生ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、(マイクロコッカス・ルテウスMicrococcus luteus))と1種類のグラム陰性菌(大腸菌(Escherichia coli))に対する抗菌試験を行いました。その結果、塩素原子の無置換体よりも一置換体や二置換体の方が優れた抗菌性を示すこと、一置換体の中でも芳香環の4位に塩素原子を有する錯体の抗菌性が強くなることがわかりました。また、特に優れた抗菌性を示した6種類の錯体のMIC(※2)を調べた結果、大腸菌に対しては、分子構造に依らず、いずれの銅錯体も優れた抗菌作用を示すことが明らかになりました。特に一部の銅錯体は大腸菌と相互作用することで活性化し、抗菌性が向上することが示唆されました。これらの成果は、錯体の構造と抗菌作用の相関を明らかにする上で非常に重要な知見であり、近年特に注目されている感染症の分野での応用が大いに期待されます。

本研究の成果は、2022年6月18日に国際学術誌「Applied Microbiology」にオンライン掲載されました。

研究の背景

シッフ塩基錯体は中心金属や置換基を変更することで、触媒作用、抗がん作用、抗酸化作用などの機能を付与することができ、錯体化学や分析化学をはじめとしたさまざまな分野で注目されてきました。特に、中心金属として銅(II)イオンを導入すると、他の金属イオンを導入した場合に比べて、強い抗菌作用を示すことが報告されています。一方で、シッフ塩基錯体の合成にはいくつかの段階があり、既存の合成法では多くの時間を費やしてしまうことが課題でした。

本研究グループは以前から、マイクロ波照射によるアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の合成とその最適化に取り組んできました。このマイクロ波を利用した合成法では、高いマイクロ波吸収を持つメタノールを溶媒として用いることで効率的な加熱が可能となり、副反応を抑制しつつ短時間で、高収率かつ高純度な目的化合物を得ることができます。過去の研究では、塩素原子の無置換体4種類、二置換体4種類、計8種類のアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体を短時間で合成することに成功しています。しかしながら、合成的な側面からの報告のみで、それらの機能面についてはまだ明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、これら8種類の錯体の抗菌作用を明らかすると同時に、新たに合成した12種類の塩素原子の一置換体を加えた計20種類のアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の抗菌作用を評価しました。

研究結果の詳細

まず、メタノールを溶媒としたマイクロ波合成法により、塩素原子の無置換体4種類、一置換体12種類、二置換体4種類、計20種類のアミノ酸シッフ塩基銅(II)錯体の短時間合成を行いました。これらの錯体は、中心金属が銅で共通していますが、導入された塩素原子の数や位置(芳香環の3位、4位、5位)、置換基の種類(イソプロピル基、ヒドロキシル基など)が異なります。得られた20種類の銅錯体の収率を比較すると、芳香環の塩素原子の位置と置換基の種類によって反応収率が大きく変化すること、分子の極性や電荷は収率に大きく影響しないことがわかりました。

次に、各錯体の抗菌作用を調べるため、グラム陽性菌の枯草菌(Bacillus subtilis)、腐生ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、(マイクロコッカス・ルテウスMicrococcus luteus)とグラム陰性菌の大腸菌(Escherichia coli)を対象とした試験を行いました。その結果、12種類の一置換体に関しては、芳香環の4位に塩素原子が導入された錯体の活性が高い傾向であることがわかりました。

さらに、各錯体のMIC(※2)の測定を行いました。その結果、腐生ブドウ球菌に対して、二置換体が優れた抗菌性を示す一方で、枯草菌に対しては一置換体の方がその作用が強くなることがわかりました。この違いは2つの細菌の細胞形態が大きく異なることが原因だと推測されます。また、大腸菌については、分子構造に依らず、いずれの錯体でも増殖を抑制できることがわかりました。さらに、各錯体の抗酸化活性については、二置換体よりも一置換体の方がラジカル酸化をよく阻害できることが示唆されました。最後に、理論的に算出したLogPo/wの値と大腸菌に対する抗菌性については相関性があることがわかりました。これは、化合物の抗菌性を推測する上で、良い指標になることを示唆しています。

今回の研究成果について、研究を主導した秋津教授は「抗菌作用を持つ新規錯体の発見により、細菌によって引き起こされる感染症などの新薬開発への応用が期待されます。これによって、発展途上国などの衛生上の問題で疫病に感染してしまう人々の健康を保つことに貢献することができるでしょう」と話しています。

※本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費の基盤研究(A)(20H00336)およびコンピエーニュ工科大学(TIMR UTC-ESCOM)による支援を受けて実施されました。

用語

※1 LogPo/w: オクタノール-水分配係数。数値が大きければ疎水性が強く、数値が小さければ親水性が強いことを示す。

※2 MIC(Minimum Inhibitory Concentration): 最小発育阻止濃度。最近の増殖を阻害する薬剤の最小濃度。MIC50とMIC95は、それぞれ全体の50%、95%の菌株の増殖を阻害したときの、薬剤の最小濃度を表している。

論文情報

雑誌名

Applied Microbiology

論文タイトル

Synthesis, Identification and Antibacterial Activities of Amino Acid Schiff Base Cu(II) Complexes with Chlorinated Aromatic Moieties

著者

Nao Otani, Antoine Fayeulle, Daisuke Nakane, Estelle Léonard and Takashiro Akitsu

DOI

10.3390/applmicrobiol2020032

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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