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2022.05.26 Thu UP

機能性成分コンドロイチン硫酸およびプロテオグリカンの代替的資源候補の発見
~未利用資源であるチョウザメ頭部軟骨の有効活用へ~

研究の要旨とポイント

  • 10種類の食用硬骨魚類の頭部軟骨に含まれるプロテオグリカンおよびその酸性糖鎖であるコンドロイチン硫酸 (CS)を網羅的に調べました。
  • 硬骨魚類の頭部軟骨にはプロテオグリカンが豊富に含まれており、プロテオグリカンの一種であるアグリカンは10種類すべての魚で検出されました。
  • スズキ目に属する魚から抽出したプロテオグリカンのCS構造は哺乳類由来のものに、チョウザメのCS構造はサケ鼻軟骨由来のものに近いことが分かりました。
  • 現在は廃棄される硬骨魚類の頭部軟骨、特にチョウザメの頭部軟骨が、機能性成分としてのCSやプロテオグリカンの有用な供給源となる可能性が示されました。

東京理科大学薬学部の東恭平准教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダー、鈴木健裕専任技師らの研究グループは、10種類の食用硬骨魚類の頭部軟骨からプロテオグリカンを抽出し、そのコンドロイチン硫酸 (Chondroitin sulfate:CS)構造を解析しました。その結果、スズキ目に属する魚から抽出されたプロテオグリカンのCS構造は哺乳類由来のものに近く、チョウザメから抽出されたプロテオグリカンのCS構造は、サケ由来のものに近いことがわかりました。

サケ鼻軟骨に含まれる主なプロテオグリカンとしてアグリカンが知られていますが、スズキ目に属する魚やチョウザメの頭部軟骨にもアグリカンが存在することが分かりました。チョウザメ由来プロテオグリカンのCS構造がサケ由来のものと近かったことから、チョウザメの頭部軟骨に含まれるタンパク質を網羅的に解析しました。その結果、チョウザメの頭部軟骨にはアグリカンが豊富に存在すること、およびサケ鼻軟骨で検出されたその他のプロテオグリカンやマトリックスタンパク質もチョウザメの頭部軟骨に含まれていることが分かりました。

これにより、未利用資源である硬骨魚類の頭部軟骨、特にチョウザメの頭部軟骨はプロテオグリカンの供給源として有用であることが示唆されました。

プロテオグリカンは、コアタンパク質にCSなどの酸性糖鎖が複数結合した糖タンパク質です。CSプロテオグリカンの一種であるアグリカンは、ヒアルロン酸やコラーゲンなどとともに体内の軟骨組織を形成し、組織の保水性や弾力性を維持しています。これまではCSが健康食品の機能性成分として広く認知されてきましたが、近年では、サケ鼻軟骨から抽出されたプロテオグリカンが、アンチエイジングや抗炎症作用といった機能を有することがわかり、健康食品や化粧品に利用されています。

今回、プロテオグリカンの供給源として有望であることがわかったチョウザメの頭部軟骨を今後活用することができれば、食品加工後に廃棄されることが多い未利用部位の有効活用が可能になると期待されます。

本研究成果は、2022年3月23日に国際学術誌「International Journal of Biological Macromolecules」にオンライン掲載されました。

機能性成分コンドロイチン硫酸およびプロテオグリカンの代替的資源候補の発見~未利用資源であるチョウザメ頭部軟骨の有効活用へ~

研究の背景

CSやプロテオグリカンは、機能性成分として多くの健康食品に含まれています。CSの原料としてブタやサメ由来の軟骨、プロテオグリカンの原料としてサケ鼻軟骨が主として利用されていますが、魚由来原料の供給はその漁獲量などによって影響を受けることがあります。

研究グループは、天然物、特に海洋生物に含まれるCSの糖鎖構造やその生物活性を網羅的に調べる過程で、食品加工後の未利用資源となる魚の頭部軟骨に注目しました。特にマグロ、ブリ、チョウザメは魚体が大きく盛んに養殖されていることから、頭部軟骨にプロテオグリカンが豊富に含まれていれば安定した原料の供給が期待されます。しかしながら、食用とされる魚のプロテオグリカン (特にアグリカン)やそのCSについての情報はほとんどありませんでした。

そこで研究グループは、チョウザメを含む10種類の食用硬骨魚類の頭部軟骨からプロテオグリカンを抽出し、アグリカンの有無やCSの構造を網羅的に解析しました。

研究結果の詳細

CSは、グルクロン酸 (GlcA)とN-アセチルガラクトサミン (GalNAc)の二糖が連結して形成された直鎖状の酸性糖鎖です。CSは一般的にGlcAの2位、またはGalNAcの4位と6位の水酸基のうち、いくつかが硫酸化されていますが、その硫酸化パターンは原料となる生物種によって異なることが知られています。例えば、ブタなど陸上動物の軟骨組織に含まれるCSは4硫酸化 (4S)された一硫酸化二糖 (GlcA-GalNAc4S)の割合が50~83%と高く、一方で、サケやサメのCS は6硫酸化 (6S)された一硫酸化二糖 (GlcA-GalNAc6S)の割合が31~71%と高いことが分かっています。硫酸化の割合を4S/6S比で計算すると、ブタは4.5〜7.0、ウシは1.5~2.0になるのに対し、サケやサメでは0.20~0.90と低くなります。また、サメ由来のCSは二硫酸化二糖 (GlcA2S-GalNAc6S)を10~40%ほど含んでいます。

本研究では、シベリアチョウザメ、ロシアチョウザメ、ブリ、クロマグロ、スズキ、マアジ、マサバ、サンマ、マダイ、大西洋サケからなる10種類の食用硬骨魚の頭部軟骨 (チョウザメでは頭蓋骨、チョウザメ以外では鼻軟骨)を用いて実験を行いました。

まず、グアニジン塩酸塩を用いて頭部軟骨中のプロテオグリカンを抽出しました。得られたプロテオグリカンをSDS-PAGE (*1)で分離した後にアルシアンブルー(*2)で染色したところ、180 kDa以上の分子量からなるスメア状のバンドが検出されました。またCS特異的分解酵素で処理すると、これらバンドが消失したことから、この得られたバンドはCSプロテオグリカンであり、今回用いたすべての魚種で頭部軟骨にはCSプロテオグリカンが豊富に存在することがわかりました。

次に、得られたプロテオグリカンに含まれるCSの組成を、HPLC (*3)で分析しました。すると、スズキ目 (ブリ、クロマグロ、スズキ、マアジ、マサバ、マダイ)由来CSは、4S/6S比がすべて1.0以上となり、その硫酸化パターンは哺乳類由来のCS構造に近いことが分かりました。

一方、チョウザメ (ロシアチョウザメ、シベリアチョウザメ)由来CSでは4S/6S比が0.13〜0.22、大西洋サケ由来CSでは0.38となりました。また、二硫酸化二糖 (GlcA2S-GalNAc6S)は、スズキ目とサンマで2.6~10%含まれていたのに対し、チョウザメと大西洋サケではほとんど検出されませんでした。これにより、チョウザメ由来CSの硫酸化パターンは、サケ由来CSに近いことがわかりました。

シロザケにおいては、アグリカンを含む様々なプロテオグリカンが同定されています。そこで、これら10種類の魚におけるアグリカンの存在を抗アグリカン抗体を用いたドットブロット法 (*4)で調べました。すると、10種類すべての魚の頭部軟骨においてアグリカンが検出されました。

チョウザメはキャビアや食用肉の製造を目的として世界中で盛んに養殖されていますが、食品加工後には大量の背骨や頭蓋骨が残ります。そのため、これらを有効活用できないかとさまざまな研究が進められています。上述の通り、チョウザメの頭蓋骨から抽出したプロテオグリカンにはアグリカンの存在が示唆されましたが、その遺伝子情報について詳細は分かっていませんでした。近年、コチョウザメのゲノム配列が報告されましたので、その情報をもとにアグリカン遺伝子を探索しました。その結果、LOC117428125およびLOC117964296がアグリカン遺伝子の候補としてヒットしました。LOC117428125およびLOC117964296遺伝子の塩基配列から得たアミノ酸配列をヒト、太平洋サケ、シロザケ、ゼブラフィッシュと比較したところ、両遺伝子由来のタンパク質はN末端側のG1およびG2ドメイン、およびC末端側のG3ドメインで高い相同性を示しました。

また、アグリカンのCS結合部位はシロザケで43カ所、ゼブラフィッシュで85カ所あるのに対し、LOC117428125遺伝子では93カ所、LOC117964296遺伝子では92カ所あることが分かりました。以上の結果より、コチョウザメのゲノムにはアグリカンをコードする遺伝子としてLOC117428125およびLOC117964296の2つが存在することが分かりました。

次に、ロシアチョウザメとシベリアチョウザメの頭部軟骨に含まれるタンパク質の組成を調べることを目的にプロテオーム解析 (*5)を行いました。その結果、頭部軟骨にはLOC117428125およびLOC117964296遺伝子由来のアグリカンタンパク質が豊富に存在すること、およびサケ鼻軟骨で検出されたその他のプロテオグリカン (エピフィカンやバイグリカンなど)やマトリックスタンパク質 (コラーゲン、マトリリン-4、トロンボスポンジンなど)もチョウザメの頭部軟骨に含まれていることが分かりました。このことから、チョウザメ頭蓋骨に含まれるタンパク質の組成は、サケ鼻軟骨と類似している可能性が示されました。

チョウザメ由来CSとサケ由来CSの糖鎖構造をより詳細に比較するため、チョウザメ (ロシアチョウザメ、シベリアチョウザメ)およびサケ (大西洋サケ、シロザケ)の頭部軟骨に含まれるプロテオグリカンのタンパク質部分をプロテアーゼで分解してCSを遊離させた後、アルコール沈殿を行ってCSを回収しました。回収したCSをNMR (*6)で分析したところ、チョウザメ由来CSのスペクトルは、サケ由来CSのものとほとんど類似していました。これは、チョウザメ頭蓋骨に含まれるCSの糖鎖構造が、サケ鼻軟骨に含まれるCS構造とほとんど同じであることを示しています。

また、CSの分子量を調べることを目的にゲルろ過クロマトグラフィー (*7)で分析したところ、チョウザメ由来CSの分子量は約5万、サケ由来CSは約4万であり、チョウザメのほうがサケよりやや大きいことがわかりました。以上の結果より、チョウザメ頭蓋骨においてプロテオグリカン、特にアグリカンはサケ鼻軟骨と同様に豊富に含まれており、CSの糖鎖構造もサケ由来のものと類似していることが示唆されました。

東准教授は、「食用硬骨魚類の頭部は未利用資源であり、食品加工後には廃棄されることが多い。チョウザメは養殖可能で魚体が大きく、更に頭蓋骨はほぼ全体が軟骨であることから、プロテオグリカンの有望な供給源になることが期待される」としています。

なお、本研究は宮崎県水産試験場内水面支場の中村充志支場長よりチョウザメの試料提供を受けて実施しました。

用語

*1 SDS-PAGE:ポリアクリルアミドゲルを用い、分子の大きさに基づいてタンパク質を分離する。

*2 アルシアンブルー:CSなどの酸性ムコ多糖類を染色する試薬。

*3 HPLC:高速液体クロマトグラフィー。固定相と移動相の性質によって物質を分離する。

*4 ドットブロット法:抗体を用いて、タンパク質の存在を検出する。

*5 プロテオーム解析:ナノ液体クロマトグラフィー/質量分析法によりペプチドを分析することで、試料に含まれるタンパク質の種類と量を解析する。

*6 NMR:核磁気共鳴分光法。電磁波を用いて物質の分子構造を原子レベルで解析する。

*7 ゲルろ過クロマトグラフィー:分子量に基づいてタンパク質を分離する。

論文情報

雑誌名

International Journal of Biological Macromolecules

論文タイトル

Comprehensive analysis of chondroitin sulfate and aggrecan in the head cartilage of bony fishes: Identification of proteoglycans in the head cartilage of sturgeon

著者

Kento Shionoya, Takehiro Suzuki, Mako Takada, Kazuki Sato, Shoichi Onishi, Naoshi Dohmae, Koichiro Nishino, Takeshi Wada, Robert J. Linhardt, Toshihiko Toida, Kyohei Higashi

DOI

10.1016/j.ijbiomac.2022.03.125

研究室

東准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?7015

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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