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2022.05.18 Wed UP

植物のイオンチャネルの進化の歴史を紐解く
~ゼニゴケのイオンチャネルTPCの機能を解明~

研究の要旨とポイント

  • TPCは動物・植物を含むさまざまな生物に存在するイオンチャネルの一種ですが、その性質や役割、そして進化には、不明な点が数多く残されていました。
  • シロイヌナズナやイネに代表される被子植物はTPCを1種のみ持ちますが、苔類ゼニゴケは1型 (TPC1)と2型 (TPC2, TPC3)の二つのタイプのTPCを持ちます。ゲノム編集・バイオイメージング・電気生理学的測定技術などを駆使して、二つのタイプのTPCの、細胞内で存在する部位と役割を詳細に解析しました。
  • ゼニゴケのTPCはいずれも液胞膜に局在し、1型 (TPC1)は被子植物と同様にSVチャネル(※1)として、2型 (TPC2, TPC3)は未知の陽イオンチャネルとして機能することを見出しました。
  • 多くの植物のゲノム情報に基づく系統解析の結果、TPCは植物が陸上に進出する直前の段階で1型と2型に分岐し、その後の陸上植物の進化の過程で、被子植物を含む維管束植物やツノゴケ類では、2型のTPCが消失して1型のみが残ったことが示唆されました。

植物のイオンチャネルの進化の歴史を紐解く~ゼニゴケのイオンチャネルTPCの機能を解明~

東京理科大学理工学部応用生物科学科の朽津和幸教授(農理工学際連携コース長併任)、橋本研志助教、坪山祥子ポストドクトラル研究員、マリー・キュリー・スクウォドフスカ大学(ポーランド)のKazimierz Trębacz教授、Mateusz Koselski研究員らの研究グループは、ゼニゴケ(Marchantia polymorpha)の二つのタイプ(合計3種類)のイオンチャネル(two-pore channel、以下TPC)について、ゲノム編集・バイオイメージング・電気生理学的測定技術などを駆使して解析し、今まで未解明な点が多かったTPCの実態やその進化を明らかにすることに成功しました。本研究により、ゼニゴケのTPCは1型(TPC1)と2型(TPC2, TPC3)に分類されること、そのいずれも液胞膜に存在していること、1型のTPCがSVチャネルとして、2型のTPCが未知の陽イオンチャネルとしてはたらくことなど、その詳細な機能が明らかになりました。

さらに、多くの植物のゲノム情報に基づく系統解析の結果、TPCは植物が陸上に進出する前の段階で1型と2型に分岐し、その後の陸上植物の進化の過程で、苔類(※2)や蘚類(※2)では現在まで保存されているのに対して、被子植物(※3)を含む維管束植物(※4)やツノゴケ類(※2)では、2型のTPCが消失して1型のみが残ったことが示唆されました。本研究をさらに発展させることで、植物ではたらくイオンチャネルの役割が解明され、植物の進化を紐解く上で有用な知見が得られることが期待されます。

本研究成果は、2021年12月22日に国際学術誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載され、2022年第2号に掲載されました。本論文は、同号に掲載された多数の論文の中から最も優れた論文1篇に贈られるEditor's Choiceに選ばれると共に、Research Highlightにも選ばれ、解説記事が掲載されました

研究の背景

イオンチャネルは、多種多様な生物の細胞の膜系(細胞膜や細胞内小器官の膜)に存在し、その開閉により膜内外のイオンの移動を制御することで生体内のさまざまな反応を担う膜タンパク質です。生体膜内外の電位差を感知して開閉を制御するイオンチャネルは、膜電位依存性チャネルと呼ばれ、例えば動物の脳神経系では情報の処理・伝達において中心的な役割を果たしています。神経系を持たない植物においても、例えば病原体の感知と免疫反応の誘導など、植物が生きる上でさまざまなイオンチャネルが重要な役割を果たすことが明らかになりつつありますが、動物と比べると不明な点が多く残されています。

TPC (Two-Pore Channel)は、動物・植物を含むさまざまな生物に広く存在する電位依存性陽イオンチャネルで、日本の研究者により発見されました。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)やイネ(Oryza sativa)などの被子植物はTPCを1種類のみ持ちます。シロイヌナズナのTPCは液胞膜に存在しSVチャネルとして機能すること、イネでは病原体の感知と免疫反応の誘導に関与する可能性も示唆されていますが、植物のTPCの生理機能や進化の歴史は十分には明らかにされていませんでした。

苔類であるゼニゴケは、陸上植物に共通する多くの遺伝子やメカニズムが保存されており、陸上植物のモデルとして注目を集めています。ゼニゴケは3種類のTPCを持っていますが、これまでほとんど研究されていませんでした。そこで、本研究グループは、ゼニゴケのTPCを対象としたゲノム編集法(CRISPR-Cas9(※5))、バイオイメージング法、パッチクランプ法(※6)などの各種の解析手法を用いて、TPCの実態の解明を進めました。

研究結果の詳細

最初に、TPC遺伝子ファミリーを用いて、緑色植物を対象とした分子系統解析を行いました。その結果、ストレプト植物(※7)では2種類のTPCに大別できることを明らかにしました。また、被子植物、ツノゴケ類では1型のTPCのみ、苔類、蘚類、接合藻(※8)では1型、2型の両方のTPCを持つことを見出しました。このことから、2型のTPCは植物が陸上に進出する前に獲得されたこと、苔類、蘚類、接合藻などの生物で保存され現在でも残っていること、被子植物を含む維管束植物、ツノゴケ類などの生物では進化の過程で消失してしまったことが示唆されました。

次に、蛍光タンパク質を融合させたゼニゴケのTPCの細胞内における局在を、高解像度の共焦点レーザー顕微鏡をもちいて解析しました。その結果、3種類のすべてのTPCは液胞膜に存在していることがわかりました。

さらに、ゼニゴケのTPC に対し、CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集を行い、パッチクランプ法により、それぞれのTPCのはたらきを調べました。その結果、TPC1をノックアウトした場合、SVチャネルの活性が抑制されることがわかりました。TPC2やTPC3をノックアウトした場合にはこのような挙動は見られなかったため、TPC1のみがSVチャネルの活性に関与していると結論付けました。また、TPC2やTPC3に関して、動物のTPCとは異なり、未知の陽イオンチャネルの活性に関与していることが示唆されました。

今回、ゼニゴケを用いた研究によりTPCの機能と進化の一端を解明できたことは、基礎研究として非常に意義深いと同時に、食料、環境、エネルギー問題への応用も含めた広範な植物研究の基礎となる重要な知見と考えられます。TPCが植物の情報処理、環境ストレスに対する応答などに関与している可能性も考えられ、今後の研究の発展が期待されます。

※本研究は以下の助成金を受けて実施したものです。

・日本学術振興会 二国間交流事業 No. 21036611-000141

・National Science Centre, Poland, No. 2017/27/L/NZ1/03164

用語

※1 SVチャネル(slow vacuolar channel): 植物細胞の液胞膜に存在するイオンチャネルの1つ。膜電位や液胞内・細胞質のカルシウムイオン濃度の変化に応じて活性が制御される。1価、2価の陽イオンを透過することができる。

※2 コケ植物は、苔類(たいるい)、蘚類(せんるい)、ツノゴケ類の3つの分類群から構成される。

※3 被子植物: 種子植物のうち、いわゆる花を付ける植物。裸子植物と対をなす分類群。

※4 維管束植物: 陸上植物のうち、コケ植物を除く植物の総称。維管束を持つ。シダ植物や種子植物(裸子植物・被子植物)を含む

※5 CRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats/ CRISPR associated proteins 9): ゲノム配列の任意の部分の削除、置換などを行うことができるゲノム編集技術。

※6 パッチクランプ法: イオンチャネルの挙動を解明するための電気生理学的手法。

※7 ストレプト植物: 緑色植物を構成する大きな系統群のうちの1つ。陸上植物とその近縁な藻類(接合藻類、シャジクモ類など)が含まれる。

※8 接合藻: ストレプト植物に含まれる藻類の一群。近年の分子系統研究により、陸上植物の姉妹群に当たる可能性が示された。

論文情報

雑誌名

Plant and Cell Physiology

論文タイトル

Functional Analyses of the Two Distinctive Types of Two-Pore Channels and the Slow Vacuolar Channel in Marchantia polymorpha

著者

Kenji Hashimoto, Mateusz Koselski, Shoko Tsuboyama, Halina Dziubinska, Kazimierz Trębacz and Kazuyuki Kuchitsu

DOI

10.1093/pcp/pcab176

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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