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2022.04.14 Thu UP

アルコール依存症治療薬「ジスルフィラム」が抗不安様作用を示すことを発見
~新たな作用機序を有する新規治療薬の実現に期待~

研究の要旨とポイント

  • ベンゾジアゼピン系薬剤などの既存の向精神薬については、協調運動障害や記憶力の低下などの副作用があり、患者が使用しにくいことが課題でした。
  • 本研究では、アルコール依存症治療薬として知られるジスルフィラムが、ベンゾジアゼピン系薬剤のような副作用を示さず、既存薬と同等の抗不安様作用を示すことを明らかにしました。
  • ジスルフィラムは、マクロファージの動きと活性化を制御する細胞内タンパク質FROUNT(フロント)を阻害することにより、抗不安様作用を示すという一連の作用機序も解明しました。
  • 本研究を発展させることで、副作用を抑えた新規向精神薬や抗がん剤の開発が期待されます。

東京理科大学薬学部薬学科の斎藤顕宜教授、高橋秀依教授、同大学生命医科学研究所の松島綱治教授、寺島裕也講師らの研究グループは、アルコール依存症治療薬として知られるジスルフィラムが、マクロファージの動きと活性化を制御する細胞内タンパク質FROUNT(フロント)のはたらきを阻害することで、強力な抗不安様作用を示すことを発見しました。また、既存の治療薬で認められるふらつきや記憶障害などの副作用を示さないことから、患者に優しく使用しやすい治療薬となる可能性が示唆されました。本研究をさらに発展させることで、副作用が少ない向精神薬の開発、がんの抑制に加えて、精神面もフォローできる画期的な抗がん剤の開発につながると期待されます。

ベンゾジアゼピン系薬剤は、睡眠薬、抗不安薬として広く使用されていますが、催眠、筋弛緩、ふらつき、記憶障害などの副作用があります。そのため、副作用を極力抑えて、安全に患者が使用できる新規向精神薬が望まれてきました。

本研究では、マウスを用いた様々な実験から、アルコール依存症治療薬として使われているジスルフィラムが抗不安様作用を示すことを実証しました。また、マクロファージの動きに関わる細胞内タンパク質であるFROUNTをターゲットとしたジスルフィラムの誘導体であるDSF-41の新規合成と薬理活性の評価を行うことで、ジスルフィラムがFROUNTを阻害することで抗不安様作用を示すという一連の作用機序を示唆しました。FROUNTの阻害と抗不安様作用の関連性に関する研究例は今までになく、世界初の報告であるといえます。さらに、本研究グループの過去の研究からジスルフィラムは抗がん作用を有することも知られています(JP6732168)。そのため、将来的には、がんの抑制だけでなく、併発しやすい不安症や抑うつ症にも効果を発揮する抗がん剤の実現が期待されます。

本研究成果は、2022年3月7日に国際学術誌「Frontiers in Pharmacology」にオンライン掲載されました。

研究の背景

ジスルフィラムは、アルコール代謝に必要なアルデヒド脱水素酵素のはたらきを阻害するため、アルコール依存症治療薬として用いられてきました。2020年には、本研究グループにより、ジスルフィラムが細胞内タンパク質FROUNTのはたらきを阻害することで、がんを抑制するという新たな薬効が報告され、注目が集まっていました(*1)。

本研究グループは、ジスルフィラムの抗がん作用とは異なる薬理作用の探索を行っている際に、偶然にも抗不安様作用を示すことを発見しました。そして、検討を進めていく中で、既存の向精神薬とは異なる作用機序により、抗不安様作用を示すことも解明しました。

(過去のプレスリリース)

*1:「アルコール依存症治療薬「ジスルフィラム」が新しい標的タンパク(FROUNT:フロント)を阻害してがんを抑制することを発見」
URL: https://www.tus.ac.jp/today/archive/20200130009.html

研究結果の詳細

最初に、ジスルフィラムとジアゼパム(ベンゾジアゼピン系薬剤)をマウスに投与し、高架式十字迷路試験、自発運動活性試験などの各種試験を行いました。その結果、ジスルフィラムを投与したマウス群では、抗不安様作用を示すことを見いだしました。その一方で副作用の評価では、コントロール群と同様の結果が得られたのに対し、ジアゼパムを投与したマウス群では、自発運動、自発的交替行動(※1)、運動機能の低下が観察されました。これは、ジアゼパムの副作用により、マウスに協調運動障害や記憶障害などの症状が現れたことが原因であることを示唆しています。

次に、ジスルフィラムがFROUNTを阻害するはたらきに着目し、FROUNTをより強力に阻害するDSF-41を投与し、その薬理活性を調査しました。その結果、ジスルフィラムよりも低用量で強力な抗不安様作用を示すことを見出し、FROUNTの阻害が抗不安様作用に関連していることが示唆されました。同様に、ジスルフィラムがアルコール脱水素酵素を阻害するはたらきに着目し、選択的にアルコール脱水素酵素を阻害するシアナミドを投与し、その薬理活性を調査しました。その結果、シアナミドはジスルフィラムのような抗不安様作用を示さないことから、ジスルフィラムのアルコール脱水素酵素を阻害するはたらきは抗不安様作用に関与していないことがわかりました。

さらに本研究グループは、ストレス曝露中のマウス群は内側前頭前野前辺縁皮質(PL-PFC)の細胞外のグルタミン酸レベルが大幅に増加することを発見しました。グルタミン酸伝達の活性化は、マウスにおける不安様行動の発現に重要であることが知られています。そこで、グルタミン酸レベルの増加したマウス群にジスルフィラムを投与すると、グルタミン酸レベルが大幅に低下することも明らかにしました。以上のことから、ジスルフィラムがPL-PFCにおける活性化グルタミン酸作動性伝達をシナプス前抑制することによって、抗不安薬のような効果を生み出すのではないかと推察されました。

本研究の成果について、研究を主導した斎藤教授は「今回、不安や不眠に悩まされている患者に対し、ジスルフィラムが安全に使用できる可能性を強く示唆する結果を得ることができました。がん患者さんの多くが不安や抑うつ症状を併発しています。我々の見出した『ジスルフィラムの抗がん作用および抗不安作用』というのは、これまでの抗がん剤とは全く異なり、がん自体の治療と並行して、不安や抑うつ症状といった苦痛までも解決できる、これまでは実現しえなかった画期的治療薬となることが期待されています」と話しています。

※本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究支援拠点であるつくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)の助成を受けて実施したものです。

用語

※1 自発的交替運動:Y迷路に閉じ込められたマウスが、自発的に異なる管に入る性質。既に入った経験のある管を記憶していることにより可能になる行動であることから、自発行動を測定する指標となる。

論文情報

雑誌名

Frontiers in Pharmacology

論文タイトル

Disulfiram Produces Potent Anxiolytic-Like Effects Without Benzodiazepine Anxiolytics-Related Adverse Effects in Mice

著者

Akiyoshi Saitoh, Yoshifumi Nagayama, Daisuke Yamada, Kosho Makino, Toshinori Yoshioka, Nanami Yamanaka, Momoka Nakatani, Yoshino Takahashi, Mayuna Yamazaki, Chihiro Shigemoto, Misaki Ohashi, Kotaro Okano, Tomoki Omata, Etsuko Toda, Yoshitake Sano, Hideyo Takahashi, Kouji Matsushima and Yuya Terashima

DOI

10.3389/fphar.2022.826783

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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