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2022.04.11 Mon UP

500台のIoTデバイスによる大規模無線通信実験に成功
~パルスで情報を変調するAPCMA方式による多数同時通信を実証~

研究の要旨

東京理科大学 工学部 電気工学科 長谷川幹雄教授は、大阪大学大学院 情報科学研究科 若宮直紀教授、国立研究開発法人情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター Ferdinand Peper博士、Kenji Leibnitz博士との共同で、Asynchronous Pulse Code Multiple Access(APCMA)方式を実装したIoTデバイスを開発し、500台の送信機による大規模な無線通信実験に成功しました。
APCMA方式はパルス間隔で情報を変調するパルス位置変調(Pulse Position Modulation,PPM)方式の一種ですが、信号が衝突しても情報を復調することが可能です。多数同時通信を必要とする高密度なIoT無線通信に適しています。本研究では、ARIB-STD T108に準拠し920MHz帯で利用可能なAPCMAを設計/実装し、送信機のTELEC認証を取得しました。500台の送信機から電波を発射した実験により、多数同時通信を実証しました。

研究の背景

IoT無線通信デバイスの数は年々増加し、6G/Beyond 5G(※1)においては1平方キロメートルあたり1000万台になると予測されています。現在、IoT無線通信では、低消費電力かつ長距離な通信が可能なLow Power Wide Area(LPWA)と呼ばれる無線システムとして、LoRa[1]やSigFox[2]などが用いられています。しかしながら、それらの方式では、上記のような高密度な通信を実現することは困難です。
我々が提案している非同期パルス符号多重通信(Asynchronous Pulse Code Multiple Access, APCMA)方式[3]は、複数のパルスにより構成されるパルス符号を使用する方式で、複数のパルス符号が重なり合っても分離が可能となっています。一般的な通信方式では一つのチャネルで同時に複数の信号を受信すると衝突によってデータの復調ができませんが、APCMAでは信号が衝突しても正しくデータを復調することができます。我々はこれまでに、4パルス、5パルス、6パルスを用いる符号をそれぞれ設計し、従来の通信方式よりも高い性能で多数同時通信が可能であることを数値解析により明らかにしました[4]。APCMAをLPWAに応用することにより、低消費電力、広域、かつ高密度なIoT無線通信システムの実現が期待されます。

LPWA(IoT)が利用する周波数帯域は、免許不要で、様々な分野での利用が見込まれることから、干渉、衝突を低減するために、送信時間、送信デューティ比、送信電力等に対する制限が標準規格によって規定されています。日本では、920MHz帯の無線周波数帯域がLPWAに利用されており、この帯域の標準規格はARIB STD-T108[5]において規定されています。認証機関からこの標準規格に準拠している証明を得なければ、電波を発射することも法律によって許されておりません。本研究では、ARIB STD-T108に準拠したAPCMAを開発し、TELECの技術基準適合証明(※2)を取得することにより、APCMAによる高密度な無線通信を実証することを目指しました。

研究成果の概要

本研究では、図1に示すAPCMA送信機を500台開発しました。この無線通信デバイスには、外部機器を接続可能なインタフェースを用意しており、センサネットワークなど様々な用途に利用することができます。受信感度を改善して通信距離を伸ばすために、LoRa等の既存のLPWAでも採用されているチャープスペクトル拡散方式(※3)を用いたパルスを実装しました。また、ARIB STD-T108のキャリアセンスなしの通信における技術基準(送信電力、周波数帯域、送信時間、送信待ち時間、デューティ比等の制限)に準拠するよう設計しました。その結果、TELECの技術基準適合証明を取得し、920MHz帯で電波を発射できるAPCMA送信機の開発に成功しました。受信機は、GNU RadioとUSRPを用いたソフトウェア無線技術(※4)により開発しました。本システムにおけるパラメータを表1に示します。500台のAPCMA送信機から送信された信号が受信機で正しく復調できることを確認し、APCMAによる同時多数通信を実証することに成功しました。

500台のIoTデバイスによる大規模無線通信実験に成功
~パルスで情報を変調するAPCMA方式による多数同時通信を実証~
図1 500台のAPCMA送信機

表1 設定パラメータ

パラメータ 設定可能な値
変調方法 OOK, CSS(SF:7,10)
符号化方式 4パルスAnDi 5パルスAnDi
メッセージサイズ 12~24[bit]
チャネル 1ch~5ch (916.0~916.8MHz)
33ch~61ch (922.4~928.0MHz)
帯域幅 125, 250, 1000[kHz]
送信電力 1mW
連続休止期間 100ms~
パルス幅 128, 256, 512, …, 8192[μs]

今後の展望

本研究は、総務省SCOPE(課題番号JP205007001)の委託を受け、大阪大学大学院情報科学研究科、情報通信研究機構、東京理科大学の共同で進めているプロジェクトです。APCMAの高性能化に向けた、パルス符号/誤り訂正の研究、送信パラメータ最適化の研究も並行して進めております。また、数千台規模のフィールド実験も計画しております。本研究によって、多数同時通信が可能なLPWAが実現、実用化されることを目指しています。

用語

※1 6G/Beyond 5G:5G(第五世代)の携帯電話システムが近年実用化されましたが、6GあるいはBeyond 5Gは、5Gの次の世代のシステムを指す用語です。6G/Beyond 5Gは、2030年頃に実用化されると考えられています。

※2 TELEC: 正式名称は、一般財団法人テレコムエンジニアリングセンターで、電波法に基づく無線設備の認証や技術基準適合証明などを手がけている機関です。

※3 チャープスペクトル拡散:チャープスペクトル拡散(Chirp Spread Spectrum, CSS)方式は、利用可能な周波数帯に信号を拡散するスペクトル拡散通信方式の一種であり、小さな電力でも復調できる受信感度のよい通信方式です。LoRaにも採用されており、小さな電力で長距離な通信を可能にしています。

※4 ソフトウェア無線技術:ソフトウェア無線技術とは、無線機における信号処理をソフトウェアで構築可能にした技術であり、様々な通信方式をプログラミングによって実装することができます。本研究の受信機は、GNU Radioを用いて作成したプログラム、Universal Software Radio Peripheral(USRP)というハードウェアを用いた電波の受信と復調によって構築しました。

引用

[1] LoRa: https://lora-developers.semtech.com

[2] SigFox: https://www.sigfox.com

[3] F. Peper, K. Leibnitz, C. Tanaka, K. Honda, M. Hasegawa, K. Theofilis, A. Li, N. Wakamiya, “High-Density Resource-Restricted Pulse-Based IoT Networks,” IEEE Transactions on Green Communications and Networking, vol. 5, no. 4, pp. 1856-1868, June 2021.

[4] K. Leibnitz, F. Peper, K. Theofilis, M. Hasegawa, N. Wakamiya, “Evaluating Multiple-Access Protocols: Asynchronous Pulse Coding vs. Carrier-Sense with Collision Avoidance,” Lecture Notes of the Institute for Computer Sciences, Social Informatics and Telecommunications Engineering, vol. 419, pp. 693-706, June 2022.

[5] ARIB STD-T108: https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t108.html

お問い合わせ

【本研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 工学部 電気工学科 教授 長谷川 幹雄
TEL:03-5876-1357
MAIL:hasegawa【@】ee.kagu.tus.ac.jp

【@】は@にご変更ください。

研究室

長谷川研究室のページ:http://haselab.ee.kagu.tus.ac.jp/
長谷川教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?26b3

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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