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2022.03.24 Thu UP

太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功
~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~

要旨

  • 東京理科大学 理工学部電気電子情報工学科 居村岳広准教授のグループは、太陽光発電(PV)と走行中ワイヤレス給電(DWPT:Dynamic Wireless Power Transfer)を融合させたシステムを開発しました。

研究成果のポイント

  • PVによるクリーンなエネルギーと電気自動車(EV)への走行中ワイヤレス給電(DWPT)を組み合わせたシステムはカーボンニュートラル実現に向けた重要な技術です。
  • 太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせた回路と制御を開発し、実車を用いた実験に世界で初めて成功しました(図 1)。
  • 将来のEV普及とPV大量導入を強く後押しする技術に発展することが期待されます。
  • 停車中充電に比べて走行中ワイヤレス給電(DWPT)は10倍以上も電力を吸収できるため、将来的にPV大量導入に伴う余剰電力の負荷平準化に一役を担える可能性があります。
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 1 実車EVを用いたPV×DWPT実験

研究の背景

カーボンニュートラル実現への手段としてEVの普及が世界各国で推進されています。しかし。現在の日本国内における新車販売台数のうち電気自動車の占める割合は非常に低く、思うような普及状況には至っていません。普及を妨げる大きな要因として、EVに搭載される大容量のバッテリーに起因する高い車両価格、長い充電時間が挙げられます。

これらに対する解決策として、走行中ワイヤレス給電(DWPT:Dynamic wireless Power Transfer)があります。ワイヤレス給電(※1)によるEVの充電は停車中ワイヤレス充電が2020年に国際規格(※2)が制定され、これから本格的な販売がはじまる段階ですが、DWPTはその次に来る技術です。

このDWPTは都市間(例えば、東京-大阪間)の高速道路上での走行中に給電することにより、必要なバッテリーの容量を最小化しつつも航続距離を飛躍的に伸ばすことのできる技術として注目され、多くの研究機関で盛んに研究されています。経済的にも成り立つ試算が出ています(図 2)。もちろん一般道に導入する事も可能です。

一方で、このエネルギー源としては、石油由来の電力ではなく、カーボンニュートラルの実現を目指す観点から、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを活用することが望まれます。ここでは太陽光発電(PV)をターゲットとしています。

系統に接続しないオフグリッド(Off-grid,図 3)と系統に接続するオングリッド(On-grid,図 4)の両面からDWPTとの融合について研究しています。本資料は主に実車を用いたオフグリッドについて記載しています。PVと電力系統の接続方法として、電力系統の先にメガソーラー発電所がある場合もありますが、ここでは道路に沿ってPVを大量導入して地産地消を目指したシステムをまずは検討しています。

太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 2 DWPTの経済成立性[1]
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 3 PV×DWPT×Off-gridシステム[2]
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 4 PV×DWPT×On-gridシステム[3]

研究成果の概要

本研究では、実際に太陽光発電と走行中ワイヤレス給電システムを実験用道路に敷設し、太陽光発電によって発電された電力を電気自動車に取り付けた受電システムへ給電する実験に世界で初めて成功しました[2](図 5)。

現在国内には約70GWの太陽光発電設備の導入が進んでおり世界3位ですが、2030年までには90~120GWの導入、2050年までには300GWを目指しています。

大量導入されると、昼間に発電量が需要を上回り、出力抑制が行われる必要に迫られる場面が出てきています。これを余剰電力といいます。停車中充電の3.7~7.7kWに対し、走行中ワイヤレス給電は自動車が多く走行する日中に1台当たり20~40kW以上の電力を吸収するので、太陽光発電大量導入時代の電力消費先、更にはバッテリー充電を行い余剰電力吸収先として親和性が高いといえます(図 6)。しかし、技術に基づいた太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を融合させる研究は世界的に類を見ない状況です。導入シナリオと研究ステップを考慮し、実車実験として今回は電力系統に接続しない、オフグリッド案(図 7)を提案しました[2]。高速道路脇に太陽光発電(PV)を大量導入し走行中ワイヤレス給電の主電源となる直流電源網であるDCバス(※3)に直結するこのシステムコンセプトは非常に新しいアイデアです。オングリッド案も同時に発表しました[3]。オングリッドに関しては室内実験のみです。

オフグリッドの研究ではコンセプトを実現するためのシステム構成の考案(図 7)及び、屋内実験装置を用いた実験(図 8)、実際のEVと太陽光発電を用いた実車を用いた実験(図 5)による有効性の検証を行いました。今回は動作原理の実証のため電力は抑えての実験となります。

まずシステム構成としては、太陽光発電と走行中ワイヤレス給電システムを直接つなぐのではなく、それらの間に電気二重層キャパシタ(EDLC:Electrical Double Layer Capacitor)を挟んだ構成としています(図 7)。これは太陽光発電の出力を最大化する最大電力点追従制御(MPPT:Maximum Power Point Tracking)と走行中ワイヤレス給電のそれぞれで想定される負荷変動の周期のズレを吸収するためです。さらに、インバータ(※4)から出力される電圧波形を、位相シフト制御によって変動させ、出力電圧の基本波の実効値が一定となるように制御を行っています。つまり、電圧調整です。EDLCが挟まれるDCバスの電圧は、太陽光発電の発電状況やEVの走行台数の変化などによって変動します。そこで、このインバータの制御によって給電電力を一定にすることが出来るようになります。以上により、MPPT制御を行いながらも通常の電力系統に接続された走行中ワイヤレス給電システムのように一定の電力を給電することのできるシステムが構成できることになります。

上記の提案システムを、モーター駆動ベンチを用いた屋内基礎実験装置による小電力実験によって検証しました(図 8)。この結果は図 9に示す通りで、MPPT制御による出力電力の最大化を行いながら、一定の電力を給電し続けられることが確認されました。モーター駆動ベンチに取り付けられた受電コイルは往復を繰り返しており、受電コイルが来たときに電力が送られています。

屋内基礎実験によって検証されたシステムを実車実験に適用した場合にも正常に動作し得ることを確認するため、実際の電気自動車の床下に受電回路を固定し、本学野田キャンパス生命研裏に用意した走行中給電実験用道路に送電システム及び太陽光発電を設置した実車を用いた実験を行いました(図 5)。屋内実験と比べたとき、実車を用いた実験では電気自動車のボディやアスファルトなどによる給電への影響が懸念されます。しかし本実験では大きな影響を受けることなく屋内基礎実験と同様に動作可能であることが示されました(図 10)。

本研究では、将来の太陽光発電大量導入時代を見据えた、太陽光発電と電気自動車への走行中ワイヤレス給電を融合させたシステムの提案及び検証を行いました。太陽光発電と走行中ワイヤレス給電システムとの間にEDLCを挟み、なおかつインバータの出力を位相シフト制御によって一定に保つことで、MPPT制御と走行中ワイヤレス給電との両立を図りながらも、電力系統に接続されたシステムと同様に一定の給電電力を保てることが屋内実験、実スケール実験の両方で示されました。また、これらの実験により今後の検討すべき事項も明らかとなり、将来のカーボンニュートラルを実現した世界へ一歩近づく重要な研究を行うことが出来たと考えています。

太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(a) コイルとPVと実車
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(b) コイルと回路
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(c) 設置風景
図 5 実車EVを用いたPV×DWPT実験の構成
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 6 DWPT導入によるPV余剰電力吸収量の例(150GW)
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 7 PV+DWPT+Off-grid
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 8 屋内基礎実験装置
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(a) MPPT動作モード
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(b) EDLCの電圧
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(c) 連続DWPT
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
(d) 連続DWPT拡大図
図 9 屋内実験結果
太陽光発電と走行中ワイヤレス給電を組み合わせたシステムの実車実験に成功~PV×DWPT:世界初の実車を用いたシステム開発~
図 10 実車実験結果

今後の展望

本研究によって、太陽光発電と走行中ワイヤレス給電システムとの融合が可能であることが示されました。今後、実際に埋設したコイルでの大電力伝送実験や、雨水、海水の有無による影響の評価などを通し、社会への実装へ向けた詳細な研究が進められていきます。

オングリッドやオフグリッドなど、PV×DWPTの形態は様々であり、多様な価値を見いだせるため、本グループは今後も新たな成果を輩出し続けます。

用語

※1・・・ワイヤレス給電:充電ケーブルなどを用いずに非接触で給電を行う技術。

※2・・・国際規格SAE J2954(2020年10月)

※3・・・DCバス:直流の電圧がかけられた送電路。

※4・・・インバータ:直流の電圧を高周波の交流電圧に変換する装置。

・DWPT導入の経済成立性(補足)

[1] 居村岳広, 佐々木寛太, 山田悠人, 塙昂樹, 阿部長門, "経済成立性からみた高速道路における走行中ワイヤレス給電システムの検討", 自動車技術会春季大会, 2022.5.25(発表予定)

・PV×DWPT

[2] 佐々木寛太, 杉崎正通, 浦野翔伍, 居村岳広, 堀洋一, "太陽電池を電源とした走行中ワイヤレス給電システムの提案", 電気学会, PE-22-007, PSE-22-027, SPC-22-055, 2022.3.10(メイン・実車・オフグリッド)

[3] 浦野翔伍, 杉崎正通, 佐々木寛太, 居村岳広, 堀洋一, "グリッド接続した太陽光発電と走行中ワイヤレス給電の融合に関する基礎実験", PE-22-003, PSE-22-023, SPC-22-051, 2022.3.10(補足・オングリッド)

お問合せ先

【本研究内容に関するお問合せ先】

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科
准教授 居村 岳広
e-mail:imura.wpt.lab【@】gmail.com
Web:https://www.rs.tus.ac.jp/imura.lab/
Twitter:https://twitter.com/Imura_lab_wpt

【報道に関するお問い合わせ先】

東京理科大学 広報部広報課
〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
Tel:03-5228-8107 e-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp

【@】は@にご変更ください。

研究室

研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/imura.lab/
居村准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?71a3

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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