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2022.02.28 Mon UP

本学学生らの論文が国際誌『Energy and Buildings』に掲載
~商業ビルの消費電力を低コストかつ高精度で推定し
カーボンニュートラルな社会に向けた設備運用に貢献~

研究の要旨とポイント

  • 『Energy and Buildings』誌に掲載されたこの手法は、消費電力の計測器の数が限られ、休日と平日の運用パターンが異なる場合でも、商業ビル内各設備の消費電力を高精度で推定できます。
  • 既にビル内に設置されている計測器のデータを利用することで、追加の費用的・物理的なコストをかけずに、各設備の電力消費量を従来の手法よりも正確に推定・特定できます。
  • 本手法は商業ビルの省エネルギー化促進に資する技術であり、環境に配慮した社会の実現に大きく貢献すると期待されます。

カーボンニュートラルな社会の実現へ向けて、大量のエネルギーを消費する商業ビルをはじめとした建物内のエネルギー消費を正確に把握し、設備や投資の再検討が必要とされています。しかし、エネルギー消費の調査には多くの計測器や現場調査など、費用的・物理的なコストが必要となることから高精度の推定は難しく、これまでは経験則からエネルギー消費を見積もらざるを得ませんでした。

本論文で提案された手法は、計測器の設置箇所が限られ、運用パターンが平日と休日で異なる場合でも、各電気設備の消費電力を推定することができます。この手法は、複数の電気設備の消費電力を一か所で計測し、1つの計測値を複数の電気設備の電力需要に分解する「ディスアグリゲーション(分解)」という技術を応用しています。

実際に商業ビルに本手法を適用したところ、ビルの煩雑な設備運用カレンダーや実際の消費電力とは異なる定格電力を参照することなく、従来の手法よりも低いコストかつ高い精度で各設備の電力消費量を推定することができました。

本手法を活用することで、エネルギー管理者の経験や試行錯誤に頼ることなく、客観的で信頼性の高いデータに基づいた省エネルギー対策の検討が可能になり、環境に配慮した施策の促進に貢献すると期待されます。

本研究成果は、国際学術誌「Energy and Buildings」の第255巻(2022年1月発行)に掲載されました。

研究の背景

地球温暖化対策としてカーボンニュートラルな社会の実現が必要とされています。日本における業務部門の消費電力は、その40%以上が事務所・ビル、卸小売で消費されており(注1)、より効率が高い設備への交換や既存設備の運用見直しなどの商業ビルにおける省エネ対策は、エネルギー管理者だけでなく社会全体にとって喫緊の課題です。

設備への投資や運用見直しには、エネルギーの効率化・節約効果の推定が不可欠です。しかし、建物全体の消費電力を見積もろうとしても、実際の建物と図面が異なったり、定格電力よりも低い消費電力で設備が運転されたりすることが多く、現地調査による物理的なコストが必要です。ビルの設備ごとに個別に計測器を設置するというアプローチもありますが、費用面から現実的ではなく、消費電力の高精度なデータ取得は難しい現状です。結果として、従来は経験と試行錯誤によって消費電力の推定が行われてきました。

近年、商業ビルの省エネ効果を正確に推定するための方法として、1つの計測値を複数の電気設備の消費電力に分解する「ディスアグリゲーション」という技術が研究されてきました。しかし、商業ビルなどの建物には平日と休日など複数の運用パターンがあります。これまでのディスアグリゲーション技術は、複数の運用パターンには対応しておらず、休日の各設備の消費電力を推定するためには、煩雑な設備運用カレンダーを調査する必要があるというコスト面の課題がありました。

研究結果の詳細

本論文では、計測点が限られている商業ビルを対象として、複数の運用パターンに対応できる新しいディスアグリゲーション技術が提案されました。

測定器のない設備の電力消費量は、平日ではある周期性を示しますが、休日になると大幅に減少します。この変動に合わせ、電力消費のパターンが平日か休日かによって、複数のモデルを用意しました。

電力消費パターンモデルの選択には、すでに測定器が設置されている設備の情報を利用します。あらかじめ測定器のある設備の情報に、測定器のない設備の電力消費と相関のある成分が含まれていると仮定しました。この成分の情報に応じて休日パターン、平日パターンのモデルを選択することで、精度の高い推定が可能になりました。

実際に本手法を商業ビルに適用したところ、測定器を増やしたり設備の運用カレンダーを確認したりするコストをかけず、機器の定格電力といった実際の消費電力とは異なる情報を用いることなく、従来手法よりも正確に各設備の消費電力を推定できることが確かめられました。

本成果は、エネルギー管理者に建物の効率的なエネルギー管理を行う際の有益なデータを提供します。高精度なデータに基づいた建設的な設備投資を行うことで、エネルギーを適切に管理する施策を促し、カーボンニュートラルな社会の実現に大きく貢献すると期待されます。

(注1)環境省 ZEB PORTAL「建築物のエネルギー消費状況」より
(URL: https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/04.html)

論文情報

雑誌名

Energy and Buildings

論文タイトル

Power disaggregation in commercial buildings considering unmonitored facilities and multiple routines

著者

Fuyuki Sato, Nobuyuki Yamaguchi

DOI

10.1016/j.enbuild.2021.111606

研究室

山口研究室のページ:https://www.yamaguchilab.info/
山口准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6ba8

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