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東京理科大学野田キャンパスから新種のバクテリアを単離
〜Dependentiae門のバクテリアとしては日本初、世界で4例目〜
研究の要旨とポイント
- Dependentiae門のバクテリアは宿主の細胞外では増殖することができないため、これまでに世界で3例しか単離されていませんでした。
- 今回、東京理科大学野田キャンパス理窓公園内の池の水から単離に成功したNoda2021株はDependentiae門としては日本で初めて、世界では4例目の単離株となります。
- このバクテリアの宿主であるVermamoeba vermiformis(ヴェルムアメーバ)は、巨大ウイルスの宿主としても知られており、巨大ウイルスならびにDependentiae門双方の起源や生態学的位置付けに新たな知見をもたらすことが期待されます。
東京理科大学教養教育研究院・大学院理学研究科の武村政春教授は、東京理科大学野田キャンパス・理窓公園内の池から、Dependentiae門のバクテリアとしては日本初、世界で4例目となる新種のバクテリアを単離し、ゲノム解析によりその塩基配列を決定したことを発表しました。
本研究成果は、国際的なオンライン微生物学雑誌Microbiology Resource Announcementsに2022年2月3日付で掲載されました。

研究の背景
Dependentiae門のバクテリアは、環境中の微生物を単離せずに網羅的に解析したメタゲノム情報(※1)から泥炭湿地、病院のシンクのバイオフィルム、土壌、排水などの多様な環境に広く分布していることが知られています。一方で、宿主の細胞外で増殖できない特徴をもつため、これまでにVermiphilus pyriformis、Chromulinaborax destructans、Babela massilensisの3例しか単離されていませんでした。
研究結果の詳細
武村教授は、当初、東京理科大学野田キャンパス理窓公園の水から巨大ウイルス(※2)を単離することを目的としてこの実験を行いました。池の水をサンプリングし、その中からヴェルムアメーバに感染するウイルスのスクリーニングを行っていたところ、偶然、ヴェルムアメーバに感染するバクテリアNoda2021株を発見しました。
ヴェルムアメーバ細胞にNoda2021株を感染させ、固定、染色し透過電子顕微鏡で観察したところ、このバクテリアによる細胞変性効果により細胞が紡錘状になったヴェルムアメーバが確認できました。これらの細胞の培養上清からNoda2021株を精製し、その細胞からゲノムDNAを抽出し、シークエンシングを行い1,222,284塩基の配列を決定しました。配列には1,287の遺伝子、38の転移RNA(※3)、3つのrRNA(※4)が同定されました。さらに、16S rRNA配列を用いた分子系統解析を行った結果、本研究で単離したNoda2021株はDependentiae門のバクテリアでVermiphilus pyriformisに比較的近縁であることが明らかになりました。この度、武村教授が単離に成功したNoda2021株はDependentiae門における4例目の単離株となります。
今後の展望
今回単離したバクテリアはゲノムサイズや遺伝子数、ヴェルムアメーバに感染し増殖するという特徴が巨大ウイルスと類似していることから、バクテリアと巨大ウイルスの境界領域に位置するものである可能性が考えられ、双方の起源や生態学的位置付けに、新たな知見をもたらすと期待されます。
※本研究は、JSPS科研費(JP 20H03078)の助成を受けて実施したものです。
用語
※1 メタゲノム情報:サンプル中の微生物群衆から特定の微生物を単離、培養してからシークエンスするのではなく、サンプル自体からゲノムを抽出しシークエンスする方法をメタゲノム解析、それにより得られた情報をメタゲノム情報とよぶ。この方法では、培養方法が確立されていない環境中の微生物のゲノム配列を得ることができ、未知の細菌やその存在比率を推定することができる。Dependentiae門のバクテリアはこのメタゲノム情報により様々な環境中に存在することが推定されているが、実際にバクテリアを単離できたのはこれまで世界で3例しかなかった。
※2 巨大ウイルス:一般的なウイルスよりも粒子サイズ、ゲノムサイズ、遺伝子数が大きいウイルスの総称。2003年に最初の巨大ウイルス「ミミウイルス」がヨーロッパで発見されて以来、数多くの巨大ウイルスが単離されている。日本では武村教授らにより「メドゥーサウイルス」をはじめ複数の巨大ウイルスが発見されている。
※3 転移RNA: DNAから転写されたmRNA上の遺伝暗号と対応するアミノ酸を結びつけるアダプター分子。
※4 rRNA:細胞内のタンパク質合成反応において中心的な役割を果たすリボソームを構成するRNA。rRNAはタンパク質合成に関わる重要な分子であるため、種のレベルにおいて高い相同性を持つことから、その配列が分子系統解析に用いられる。
論文情報
雑誌名
Microbiology Resource Announcements
論文タイトル
Genome Sequence of New Candidatus Phylum Dependentiae Isolate from Chiba, Japan
著者
Masaharu Takemura
DOI
研究室
武村研究室のページ:https://takemura-lab.azurewebsites.net/main/index
武村教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?4d94
東京理科大学について
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