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2022.02.01 Tue UP

IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功
~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~

研究の要旨

東京理科大学工学部建築学科伊藤拓海教授、森健士郎助教、大学院生・崎山夏彦は、株式会社呉建築事務所、ミサワホーム株式会社、株式会社タカミヤとの制振ダンパー*1・Wutec SFの共同研究において、建物の地震時モニタリングシステムを開発し、IoT*2センサーを製作しました。2020年7月17日に「錦糸町住宅公園」のミサワホームのモデルハウスの制振ダンパーにIoTセンサーを設置し、2021年10月7日首都圏・震度5強地震時の計測に成功し、建物の安全性について遠隔診断の有効性を実証しました。このモニタリングシステムは、構造物が壊れた際に熱を発する特性を利用し、温度計測によって損傷診断を行います。さらに、熱を電気に変換する熱電技術*3を用いており、建物が損傷した際に電気を作ることで、自立型センサーの実現を目指しています。

研究の背景

地震後に建物の状態を把握することで、そのまま建物に居続けて良いのか、避難すべきか、さらに継続的な使用に耐えうるか、あるいは補修や補強が必要か、建て直す必要があるのかを判断することができます。すなわち、地震後の被害調査・診断が、復旧・復興に向けた第1歩となります。
現状は、調査員が被災地へ行き、余震が続く中で壊れた建物の調査・診断を行います。調査員の安全確保や、移動手段・活動拠点の確保が課題となります。また、被災者は、安全診断の結果を受け取るまでに時間を要することがあり、避難生活が長期化して健康被害などが生じたり、都市・建物の復旧・復興の遅れにつながります。
東京理科大学工学部建築学科伊藤拓海教授、森健士郎助教は、株式会社呉建築事務所、ミサワホーム株式会社、株式会社タカミヤと共同して、制振ダンパー・Wutec SFの研究開発を進めてきました。このダンパーは、住宅への設置実績が進む中で、今後の巨大地震発生時の被害調査・診断において、上述のような困難が予想されています。そこで、建物所有者への安全診断結果の通知と地震後対応・指導、建築設計会社・建設会社や保険会社への被害状況の情報提供、調査員派遣の整理と最適化、などを目的として、遠隔での安全診断システムの開発に着手しました。
近年、建物モニタリングの研究開発が様々進められ、実用化されています。高度な計測機器の利用や専門家による操作・解析・判定、診断対象の範囲や精度において、メリット・デメリットがあります。今回の制振ダンパーのモニタリングにあたり、これらの使用性・適用性を検討した結果、ダンパーの状態を直接把握できる方法の導入は困難であったため、新しいIoTモニタリングシステムとセンサーを開発することになりました。

研究成果の概要

本研究は、地震後に建物の状態をいち早く把握するために、IoT(Internet of Things)モニタリングシステムの開発を進めてきました。(図1)株式会社呉建築事務所と株式会社タカミヤが開発した制振ダンパー・Wutec SF(図2)を対象として、IoTモニタリングシステムを設計し、センサーを試作しました。なお、ここでは、温度計測・熱電のペルチェ素子*4の汎用品を使用しています。さらに、錦糸町住宅展示場のミサワホームのモデルハウスのWutec SF制振ダンパーにこのセンサーを設置しました。(図3)
2021年10月7日22時41分頃、首都圏を襲った震度5強地震において、ダンパーの温度の計測に成功し、計測したデータは、東京理科大学の研究室において、遠隔で確認することができました。(図4)取得データの解析の結果、地震時の温度の計測データに依ると、異常は見られず、ダンパーは無損傷で、建物は安全であることがわかりました。更に、地震後実際に、現地でダンパーを観察し、損傷していないことも確認できました。この研究成果により、遠隔で建物の安全が確認でき、調査員は点検のために緊急訪問する必要がなくなります。そのため、被災した建物の詳細調査などへの迅速な対応が可能となります。
このシステムは、建築物で用いられている鉄骨部材について、地震で損傷した際に発熱する特性(図5)を利用し、損傷度を計測します。すなわち、損傷度と発熱温度の関係を利用した、これまでにない損傷度の計測・評価方法です。さらに、熱から電気を作る熱電技術を利用することで、無電源の環境でも起動するセンサーの実現を目指しています。実験室での構造実験では、この制振ダンパーのモデル試験体において、寸法や損傷度に応じて、およそ100~300℃以上まで上昇することを確認しています。また、建物規模や揺れ方によりますが、巨大地震時の揺れにより、およそ50~100℃程度まで温度が上昇した場合、理論的には20~100mWの発電が見込まれます。その場合、センサー(計測、解析、通信)の必要電力の一部をカバーすることが可能です。
なお、このセンサーは「錦糸町住宅公園」のミサワホームのモデルハウスに常設しており、見学が可能です。

IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
(1) システムの概要
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
(2) 構造原理とモニタリングの関係
図1 IoTモニタリングシステムの概要
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
図2 制振ダンパー・Wutec SF
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~

図3 「錦糸町住宅公園」のモデルハウスとセンサー設置の様子

IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
(1) 地震波
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~

(2) IoTセンサーによる観測データ
図4 2021年10月7日首都圏震度5強地震によるモニタリングの結果

IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~
IoTモニタリングシステムによる建物の遠隔安全診断に成功~首都圏・震度5強地震に対する建物の安全の遠隔診断に成功しました~

図5 建築鉄骨部材の損傷時の発熱の様子と温度の時刻歴

今後の展望

「錦糸町住宅公園」のミサワホームモデルハウスでのモニタリングと、来場者への展示を継続します。また、技術的かつ実用化の課題として、以下の研究開発を予定しています。

  • このIoTセンサーは、新築建物への取り付けにとどまらず、既存建物への後付けが可能です。建物の状況(表面仕上げ、形状、スペースなど)に合わせた取り付け方法を複数提案していますが、振動実験や屋外暴露試験により、変形の追従性や耐久性について実証します。
  • 建物規模や建築場所、地震動の種類や特性に合わせて、センサーをチューニングして最適化することができます。引き続き、振動実験を継続し、有効性や適用性を検討します。
  • 現時点では、制振ダンパー・Wutec SF(図3)の形状寸法を具体的な対象としていますが、各種ダンパーや、鉄骨建物の柱・梁・筋交いなどへの適用、さらに木造建物の接合金物などについても検討を進めており、その適用性や有効性を検証していきます。
  • これまでの共同研究成果により、損傷度の評価法と、発熱の予測法を確立しました。

以上の各種状況(建物種類、計測対象、設置方法)に対して、その有効性や適用性を実証していきます。

参考

  • 伊藤拓海、黒川久留美、呉東航、南雲、平田:制振木質軸組架構の振動台実験と終局耐震挙動,日本建築学会構造系論文集,Vol.82, No.733, pp.383-393, 2017年3月
  • Eriko Iwasaki, Kenjiro Mori, Takumi Ito, Wu Donghang, Takashi Nagumo, Haruhiko Hirata: A Fundamental Study on Damage Detection Method of Steel Passive Damper Called Scaling -frame Structures by Thermoelectric Conversion, The 9th International Conference on Engineering and Applied Science (ICEAS2019), 6-8, Aug. 2019
  • 崎山夏彦,岩﨑恵梨子,森健士郎,伊藤拓海:繰返し曲げ応力を受ける鋼材の発熱特性を利用した損傷評価法、日本建築学会構造系論文集、Vol.87, No.796, 2022年6月(掲載決定)
  • https://wutec.jp/

用語

1・・・制振ダンパー:建物の構造骨組に、地震エネルギーを吸収する機構を付与し、地震の揺れを低減させる装置。鋼製ダンパーを犠牲部材として地震エネルギーを集中させ、損傷過程の発熱を利用する。

2・・・IoT:モノのインターネット、Internet of Thingsの略語。すべてのモノがインターネットにつながることで、状況を把握することができる。

3・・・熱電技術:環境中に存在する熱をエネルギー源として、電気エネルギーとして活用する技術。

4・・・ペルチェ素子:素子に温度差を与えることで、電圧を生じさせることができる。

本研究内容に関するお問合せ先

<研究開発に関すること>

東京理科大学 工学部 建築学科 教授 伊藤拓海
Tel:03-3609-7367(FAX共用)
e-mail:t-ito【@】rs.tus.ac.jp

株式会社呉建築事務所
Tel:03-6272-5957
e-mail:wudonghang【@】wu-office.co.jp

ミサワホーム株式会社
Tel:080-3407-5622
e-mail:Jun_Horiuchi【@】home.misawa.co.jp

株式会社タカミヤ 開発本部 建材設計課
Tel:03-3276-3922
e-mail:h-hirata【@】takamiya.co

<報道に関すること>

東京理科大学 広報部 広報課
Tel:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823
e-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp

【@】は@にご変更ください。

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