NEWS & EVENTS ニュース&イベント

  • プレスリリース
  • 研究
2021.12.08 Wed UP

膵液瘻を予防する新しいハイドロゲル製剤の開発に成功
~既存のポリマーで簡便に作れて薬物投与キャリアにもなる新材料~

研究の要旨とポイント

  • 膵液瘻は、膵臓手術後に高頻度で発生する合併症ですが、これまで有効な予防法はありませんでした。
  • 今回、腹腔内に留置するハイドロゲル製剤を、これまでに既存のポリマーから合成する簡便な手法の開発に成功しました。このゲルを用いることで膵液瘻モデルラットの膵炎症状が改善することを確認いたしました。
  • このハイドロゲル製剤は、分泌液を吸収する機能と、薬物を一定速度で放出する機能があるため、体内だけではなく、がん性皮膚潰瘍、創傷などへの適用へつながる成果です。

東京理科大学薬学部薬学科の花輪剛久教授、河野弥生前講師、儘田大氏(2018年 修士課程修了)、筑波大学医学医療系消化器外科の釼持明医師、田村孝史研究員らの共同研究グループは、身近な水溶性高分子を用いて調製したハイドロゲル製剤が膵臓手術後に高い頻度で発生する合併症である膵液瘻の予防に応用可能であることを見出しました。

花輪教授らの研究グループでは、従来より「患者に優しい製剤の開発」に取り組んできましたが、本研究では既存のポリビニルアルコール(PVA)を材料に、架橋剤を使用せずにより簡便な凍結融解(F/T)サイクル法を用いて、新たなハイドロゲル製剤を調製することに成功しました。さらに、このハイドロゲル製剤に蛋白分解酵素阻害剤であるナファモスタットメシル酸塩(NM)を組み込み、放出させることにも成功しました。これにより、本ハイドロゲル製剤が、急性膵炎などの治療薬であるNMを腹腔内投与するキャリアとなる可能性を示しました。また、このハイドロゲル製剤には膵臓酵素液を吸収する性質があることも示唆され、膵液瘻防止に有効なさまざまな機能を有することが明らかになりました。

吸液能も有することから、今回調製されたハイドロゲルは、体内だけではなく、がん性皮膚潰瘍、創傷などにおいて、分泌液を吸収しつつ、治療の為の医薬品も放出するような製剤への応用が期待されます。

本研究成果は、2021年9月21日に国際学術誌「Polymers for Advanced Technologies」にオンライン掲載されました。

膵液瘻を予防する新しいハイドロゲル製剤の開発に成功~既存のポリマーで簡便に作れて薬物投与キャリアにもなる新材料~

研究の背景

膵液瘻は膵臓手術後に高い頻度で発生する合併症であり、これを予防するためにさまざまな試みがなされてきましたが、まだ有効な予防法は開発されていません。

花輪教授らは、3次元のネットワークで構成され、大量の水を含むことができる性質を持つ、ハイドロゲルに着目しました。ハイドロゲルは、化学的架橋法または物理的架橋法で合成されますが、化学的架橋法では、最終生成物を得るまでに多くの複雑な反応ステップや特殊な機器が必要となる上に、生体に使用するためには合成過程で生じる有害物質の除去などが必要となります。そのため、簡便で安全なハイドロゲル製剤合成法を開発することが課題となっていました。

そこで花輪教授らは、既存の高分子を使用して、医療現場で簡便な方法で手術に使用出来るハイドロゲルの開発を目指し、物理的架橋法である凍結融解サイクル法(F/T法)を採用し、研究を行いました。F/T法は、医療現場で誰もが使える簡便な方法として、医療材料への応用が期待されています。

研究結果の詳細

研究グループは、水溶性のポリマーPoval® と疎水基で修飾されたポリマーExceval®を材料として、F/T法によるPVAハイドロゲルの調製を行いました。凍結融解サイクルを調整してさまざまな強度のゲルを作成し、走査型電子顕微鏡観察により、F/T法のサイクル数やポリマーの濃度の増加に伴って架橋構造の密度が高くなり、ゲルが強固になることを明らかにし、最適な硬さのゲルの作製に成功しました。
いずれのポリマーを用いたゲルでも架橋度を示すゲル分率は高いものの、Exceval®の方が架橋を生じやすかったため、ハイドロゲルの形成が容易であると考えられました。しかし、ゲル状態へ遷移する膨潤は、濃度の増加に応じて著しく遅延しました。一方で、破断強度試験でPoval®より強度が高く、2種のポリマーは、ハイドロゲルの形成能とその物理的特性が大きく異なることがわかりました。これを踏まえ、膨潤度や膨潤挙動などのPVAハイドロゲル固有の物性を維持したまま、強度を向上させることができるExceval®を材料に使用することで、ハイドロゲル製剤の有用性を向上できると判断しました。

次に、ハイドロゲル合成時に色素剤タートラジン(TAR)を添加して、薬剤放出挙動を明らかにしました。いずれの合成条件のハイドロゲルの場合も、時間の経過とともに放出されるTARの量が増加し、120分以内にTARの放出が完了することが明らかになました。また、F/Tサイクル数の多いものほど、放出速度も増加することがわかりました。以上の実験から、取り扱いが容易で、薬物放出挙動もクリアしていることから、F/Tサイクル2回で調製した10% Exceval®ゲルが最適であると結論づけました。

さらに、NMを添加した10% Exceval®ゲルを合成し、物性評価とラット体内での薬効評価を行いました。物性評価の結果、NMの全量が15分以内に放出されることが明らかになり、薬剤キャリアとしての可能性が示されました。薬効評価試験としては、膵液瘻モデルラットを作成し、無処置群、ハイドロゲル適用群、NM含有ハイドロゲル適用群に分け、ゲルの腹腔内留置を行いました。生体内でのハイドロゲルの侵食や分解現象は見られず、生体内での十分な安定性が示されました。無処置群に比べてNM含有ハイドロゲル適用群の腹水と血清中の膵臓酵素値に有意な減少が見られ、膵炎症状が改善されていました。しかし、ハイドロゲル適用群との間に有意差はなく、コントロールおよびNM含有ハイドロゲルの両方が、留置直後の膵液や腹腔内液を吸収し、症状の軽減に寄与していることが示唆されました。

今回の研究では、医療現場で容易に使えるF/T法によるハイドロゲルの調製が実現されました。これにより、医療現場で患部の状態に合わせてハイドロゲルの物理化学的特性を調整してゲルを設計し、作成することができるようになります。ラットを用いた実験からは、このハイドロゲルの膵液瘻予防効果も明らかになりました。また、NMの有意な効果は明らかにできなかったものの、ハイドロゲルが薬剤の腹腔内投与キャリアとなる可能性が示唆されました。

花輪教授は「本研究で調製したハイドロゲルは吸液能も有するため、体内だけではなく、がん性皮膚潰瘍、創傷などにおいて、分泌液を吸収しつつ、治療の為の医薬品も放出するような製剤へ応用可能です」と今後の多岐にわたる創薬展開への期待を述べました。

論文情報

雑誌名

Polymers for Advanced Technologies

論文タイトル

Development and evaluation of novel hydrogel for preventing
postoperative pancreatic fistula

著者

Hiroshi Mamada, Akira Kemmochi, Takafumi Tamura, Yoshio Shimizu, Yohei Owada, Yusuke Ozawa, Katsuji Hisakura, Tatsuya Oda, Nobuhiro Ohkohchi, Yayoi Kawano, Takehisa Hanawa

DOI

10.1002/pat.5496

研究室

花輪研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/hanawa-lab/
花輪教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6653

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
詳しくはこちら