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2021.11.24 Wed UP

キラルなスルホキシドの新規合成法を開発
~薬効の高い光学活性医薬品や機能材料製造に新たな光~

研究の要旨とポイント

  • キラルなスルホキシドは、重要な生理活性化合物であり、化学反応の中間体でもありますが、高価な不斉触媒を用いても基質によっては高い不斉収率が得られないなどの問題点があり、より効率的な合成手法の開発が期待されています。
  • 今回、これまで着目されていなかった光増感剤を用いた迅速な光ラセミ化反応を開発し、さらに反応性を左右する官能基の特性を明らかにしました。
  • これは、不斉源が存在しなくてもキラルなスルホキシドを供給できる新たな合成法の実現につながる成果であり、光学活性な医薬品製造や機能性材料の製造に役立ちます。

東京理科大学薬学部薬学科の高橋秀依教授、牧野宏章助教、斗沢紅美氏(修士課程1年)、田中優希氏(薬学科6年)の研究グループは、光増感剤を用いたキラルなアルキルアリールスルホキシドの光ラセミ化を高速で行える技術を開発しました。

キラルなスルホキシドは、重要な生理活性化合物であり、化学反応の中間体でもあります。通常、その生成には高価な不斉触媒を用いていますが、基質によっては高い不斉収率が得られないなどの問題点があり、より高効率な生成反応の開発が課題となっていました。

今回、高橋教授らは、キラルなアルキルアリールスルホキシドの迅速な光ラセミ化を達成する手法を開発しました。また、スルホキシドの中には、官能基の種類によってラセミ化が進行しないものがあることもわかりました。官能基ごとの光ラセミ化反応の可否を予測するために、それぞれの官能基の酸化還元電位が有用な情報となることも突き止めました。

ラセミ化がキラルなスルホキシドを供給するという話は矛盾するように思われるかもしれませんが、動的不斉誘起反応に組み込むことで可能になります。今回確立した高速光ラセミ化反応を利用すると、不斉源が存在しなくてもキラルなスルホキシドを供給できる新たな合成法が実現し、光学活性医薬品の製造や機能性材料の製造に役立つと期待されます。

本研究成果は、2021年11月20日に国際学術誌「Journal of Organic Chemistry」にオンライン掲載されました。

研究の背景

キラルなスルホキシドは、硫黄原子を中心としたピラミッド型構造をとり、その反転に約200℃というかなり極端な高温条件が必要となることから、高い熱安定性を持ちます。しかし、光照射によってキラルなスルホキシドは容易にラセミ化します。

これまで、光増感剤の存在下でのアルキルアリールスルホキシドのピラミッド型構造の反転がいくつか研究されてきました。この反応は、スルホキシドラジカルカチオンの可逆的な形成を伴う電子移動プロセスによって進行すると言われています。

これらの先行研究を踏まえて、研究グループは、光増感剤の存在下での新規高速光ラセミ化反応の開発を目指しました。スルホキシドの光による高速ラセミ化を確立することで、動的不斉誘起反応へ展開できると期待されます。

研究結果の詳細

研究グループは、初めにアルキルアリールスルホキシドの光ラセミ化反応の最適条件の検討を行いました。最も短い時間でキラルなスルホキシドをラセミ化できる最適な光増感剤及び最適な波長を見出しました。この反応条件を用いて一般的なアルキルアリールスルホキシド20種類の光照射による高速ラセミ化を達成しました。最も早いものは1秒以内でラセミ化します。一方、一部のスルホキシドでは光ラセミ化反応が進行しないということも明らかになりました。すなわち、特定の官能基(ジメチルアミノ、ピロリジル、アニシロキシ)を構造中に含むスルホキシドでは光ラセミ化が妨げられることがわかりました。そこで、サイクリックボルタンモグラムによる酸化還元電位の測定を行い、酸化されやすい官能基を持つキラルなアルキルアリールスルホキシドでは、スルホキシドに先んじてこれらの官能基が酸化され、光ラセミ化反応が進まないことが明らかになりました。また、サイクリックボルタンメトリーで測定した官能基の酸化還元電位は、この光異性化反応における反応性基と非反応性基を予測するのに有用であることが示唆されました。
さらに、ラセミ化のメカニズムを明らかにすべく、重要な中間体であるスルホキシドラジカルカチオンが形成されると仮定して、計算的手法での検討を行いました。スルホキシドのラジカルカチオンの立体構造を計算した結果、スルホキシドが平面性を有するため、光ラセミ化を容易にすることが明らかとなりした。

これらの実験により、1mol%の2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート(TPT+)の存在下で、キラルなアルキルアリールスルホキシドの迅速な光ラセミ化が達成されました。この手法では、一般的なアルキルアリールスルホキシドについてラセミ化反応が極めて高速に進行しました。

研究を行った高橋教授は、「光照射によるラセミ化を高速で行えるこの技術を利用すると、エナンチオマーを効率よく得られる動的不斉誘起反応が行えます。これにより、不斉源が存在しなくてもキラルなスルホキシドを供給できる新たな合成法が実現し、光学活性な医薬品製造や機能性材料の製造に役立ちます」と今後の応用の可能性を示しています。

※本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(19K16454)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Journal of Organic Chemistry

論文タイトル

Rapid photoracemization of chiral alkyl aryl sulfoxides

著者

Kosho Makino, Kumi Tozawa, Yuki Tanaka, Akiko Inagaki, Hidetsugu Tabata, Tetsuta Oshitari, Hideaki Natsugari, Hideyo Takahashi

DOI

10.1021/acs.joc.1c02320

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