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2021.07.06 Tue UP

近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい
~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~

研究の要旨とポイント

  • 2004年から2018年に生まれた新生児の名前を対象に、各表記の読みの種類数とその割合について分析しました。
  • 分析の結果、例えば、男の子で一般的な表記である「大翔」には18種類、女の子で一般的な表記である「結愛」には14種類の読みが少なくとも存在することが明らかになりました。
  • 近年の新生児の名前は、一般的な表記であっても、個性的なものも含めた多くの読みがあるため、日本語を母国語とする人でも、正しく(命名者によって与えられた通りに)初見で読むのは難しいことが示されました。
  • 本研究結果は、日本だけでなく、東アジアや東南アジアを含めた漢字文化圏における、名前の特徴や名づけの習慣の理解に貢献します。

東京理科大学教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部の荻原祐二助教は、2004年から2018年に生まれた新生児の名前を分析し、近年の新生児の名前は、一般的な表記であっても多くの読みが存在するため、命名者に与えられた通りに初見で読むのは難しいことを示しました(図1)。

近年の日本人の名前は、日本語を母国語とする人でも正しく読むのは難しいことが指摘されていました。しかし、特徴的な名前を例示するのみで、正しく読むことがどの程度難しいのか、どのように難しいのかについては十分に検討されていませんでした。そこで本研究では、2004年から2018年に生まれた新生児の名前約8,000件を分析し、各表記の読みの種類数とその割合を算出し、新生児の名前を正しく読むことがどの程度難しいのかを組織的かつ実証的に検討しました。

その結果、例えば、「大翔」には18種類、「結愛」には14種類の読みが少なくとも存在することが明らかになりました。その読みは、発音や長さ、意味がそれぞれ大きく異なっていました。また、それぞれの漢字がもつ一般的な読みをするだけではなく、本来その漢字にない読みが当てられていたり、表記として存在し意味やイメージを豊かにしていても発音されないといった、個性的な名づけが行われていることも示されました。

本研究は、日本語を母国語とする人であっても、初見で正しく名前を読むのは難しいことを、実際の名前データを用いて示しました。この知見は、日本だけでなく、東アジアや東南アジアを含めた漢字文化圏における、名前の特徴や名づけの習慣の理解に貢献します。

本研究成果は、2021年6月21日に国際学術雑誌 『Humanities and Social Sciences Communications』電子版に掲載されました。

近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~ 近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~

図1 研究結果の概要

研究の背景

日本人の名前は、個性的な表記だけでなく、一般的な表記であっても、正しく(命名者によって与えられた通りに)初見で読むのは難しいことが指摘されてきました。しかし、特徴的な読みの具体例の紹介のみにとどまっていることが多く、実際の名前データを用いて、組織的かつ実証的に検討されていませんでした。そのため、日本人の名前を初見で正しく読むことの難しさの程度や、どういった点で難しいのかは十分に明らかではありませんでした。特に、日本語を母国語としない人にとって、日本で名前を正しく読むことがどの程度難しいのか理解することは困難でした。

この難しさを検証することは、日本だけでなく、東アジアや東南アジアなどの漢字文化圏における名前の特徴や名づけの習慣の理解を深めることに貢献します。そこで本研究では、日本における実際の名前データを分析し、日本人の名前を正しく読むことの難しさを組織的かつ実証的に検討しました。

研究結果の詳細

2004年から2018年に生まれた新生児の名前7,779件(男子:3,762件、女子:4,017件)を分析しました。これらの名前は、明治安田生命保険相互会社が契約の際に使用したものであることから、実際に存在します。まず、各年の人気のある表記ランキングをもとに、近年一般的な表記を男女それぞれ4種類(男子:「大翔」、「陽翔」、「翔」、「颯」、女子:「結愛」、「陽菜」、「愛」、「杏」)選びました。そして、これらの表記の読みを全て網羅的に調査し、それぞれの表記の読み方の種類数と、その割合を算出しました。

その結果、調査した全ての表記で、読みの種類が非常に多いことがわかりました。例えば、「大翔」という表記を持つ新生児は435人おり、その読みは18種類ありました(図2)。そして、その読みは、発音や長さ、意味がそれぞれ大きく異なっていました。同様に、「結愛」という表記を持つ新生児は259人おり、その読みは14種類ありました(図3)。さらに、漢字一文字の名前でも「颯」は52人で7種類、「杏」は125人で5種類の読み方がありました。これらの数値は、あくまで今回分析したデータから得られたものであり、より多くの読み方が存在する可能性が高いと考えられます。

日本人の名前を読むのが難しい理由のひとつとして、名前に使用できる漢字の読みに制限がなく、漢字の一般的な読みや名のりに加えて、自由に読みを与えられる点が挙げられます。これは、日本と同じように名前に漢字を用いている一方で、ほとんどの漢字が決まった読み方をする中国とは異なります。また、文字と音が一対一で対応しているアルファベットのような表音文字を用いる言語圏(英語、スペイン語、ドイツ語など)とも異なります。漢字の読みには多くの選択肢があることが、名前を正しく読むことを難しくしています。

例えば、「大翔」は「つばさ」とも読まれていました。「大」にも「翔」にも「つばさ」という読みは正式にはありません。ここには、ふたつの読みのパターンが含まれています。まず、「翔」が持つ「羽ばたく」「飛ぶ」という意味から「つばさ」と読んでおり、漢字の意味やイメージから連想される読みを与えるパターンが見られます。そして、「大」という漢字が与えられていますが、発音されず、「大きく羽ばたく」というイメージを付け加えており、漢字は加えられているが、イメージや意味のみを加えて、読まれないパターンが見られます。

また、漢字の一般的な読みを短縮するパターンも頻繁に見られました。例えば、「大翔」は「たいし」と読まれていました。「大」には「たい」という読みがあり、「翔」は「しょう」という読みがあります。その「しょう」を「し」と省略し、「たい」と組み合わせていました。

他にも、漢字が持つ意味を外国語(英語、ラテン語、フランス語など)にして読む場合も確認できました。その例として、「結愛(ゆら)」があります。「結」は一般的な読みである「ゆ(う)」から来ている一方、「愛」は一般的には「ら」とは読まれず、「愛」が英語でLove(らぶ)を意味するため、「ぶ」を省略し「ら」として用いられている可能性があります。名前の個性的な読み方については、こちらの論文(https://doi.org/10.4189/shes.13.177)とこちらの論文(https://doi.org/10.3389/fcomm.2021.631907)をご覧ください。

本研究は、新生児に与えられた全ての名前を分析している訳ではないため、読みの種類数やその割合は、母集団の数値を厳密に反映しているとは言えません。今回の研究の目的は、近年の日本人の名前を正しく読むのは難しいことを実証的に示すことであり、読みの種類をすべて集めることではないため、今回の目的は十分に果たされたと言えます。

近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~ 近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~

図2 「大翔」の読みとその割合
(数値は435人全体に占める割合を、括弧内の数値は絶対数を示す)

近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~ 近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~

図3 「結愛」の読みとその割合
(数値は259人全体に占める割合を、括弧内の数値は絶対数を示す)

論文情報

雑誌名

Humanities and Social Sciences Communications

論文タイトル

I know the name well, but cannot read it correctly: Difficulties in reading recent Japanese names

著者

Yuji Ogihara

DOI

10.1057/s41599-021-00810-0

論文リンク

https://doi.org/10.1057/s41599-021-00810-0

※ オープンアクセスですので、どなたでもお読み頂けます。適切な方法に従っていれば、図表の掲載も可能です。

※ 記事や番組等において紹介して頂く際には、論文情報の説明や論文へのリンクを可能な限り掲載して頂くことができますと大変幸いです。

発表者

荻原祐二 東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部 嘱託助教 <筆頭著者 兼 責任著者>

※ 著者には開示すべき利益相反はありません。

※ 報道原稿のうち、研究内容の事実関係および取材時の発言内容に該当する部分の正確性について、公表前に確認させて頂くことができますと大変幸いです。

■ 掲載紙
『毎日新聞』 朝刊一面コラム 「余禄」 2021年8月10日
電子版:https://mainichi.jp/articles/20210810/ddm/001/070/068000c
『東京新聞』2021年9月10日 朝刊
電子版:https://www.tokyo-np.co.jp/article/130109

荻原 祐二 助教

大学公式ホームページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6FD9
個人ホームページ:https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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