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2021.07.01 Thu UP

抗マラリア薬メフロキンは新型コロナウイルスの細胞内侵入を阻害する
〜新たなCOVID-19治療薬となる可能性〜

研究の要旨とポイント

  • 既に承認されている抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象に感染細胞系でスクリーニングを行った結果、抗マラリア薬であるメフロキンが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、ヒドロキシクロロキンよりも高い抗ウイルス効果を示しました。
  • メフロキンはSARS-CoV-2が細胞に吸着した後の侵入過程を阻害することから、ウイルスの複製を阻害するネルフィナビルと併用することで相乗的な抗ウイルス効果が得られることも示唆されました。
  • 数理モデルから、標準治療で用いられる濃度のメフロキン投与により生体からのウイルス排除は6.1日短縮され得ると推定されました。本研究はメフロキンが有望なCOVID-19治療薬候補であることを示しており、今後更なる研究が待たれます。

東京理科大学大学院理工学研究科応用生物科学専攻の塩野谷果歩氏(修士過程2年)、渡士幸一客員教授(国立感染症研究所治療薬・ワクチン開発研究センター 治療薬開発総括研究官兼任)、倉持幸司教授、山崎雅子氏(修士課程2年)、大橋啓史博士(ポストドクトラル研究員)、同大学薬学部生命創薬科学科の青木伸教授、田中智博助教らは、他施設共同研究によって、既に承認されている抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象に行ったスクリーニング試験などの結果から、抗マラリア薬であるメフロキンが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞への侵入を阻害し、ヒドロキシクロロキンよりも高い抗ウイルス効果を示すことを突き止めました。本研究成果は、2021年4月30日に国際学術誌「Frontiers in Microbiology」にオンライン掲載されました。

本研究では、SARS-CoV-2に感染させた細胞を用い、既に承認されている抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象にスクリーニング試験を行いました。その結果、メフロキンがSARS-CoV-2に対して、ヒドロキシクロロキンよりも高い抗ウイルス効果を示しました。メフロキンはSARS-CoV-2が細胞に吸着した後の侵入過程を阻害することで、抗ウイルス作用を示すと考えられます。そのため、ウイルスの複製を阻害し異なる作用機序を持つネルフィナビルと併用することで、相乗的な抗ウイルス効果が期待されます。
さらに、実験で得られた抗ウイルス活性と、臨床での肺組織薬物濃度をもとに作成した数理モデルからは、メフロキン投与によりウイルス排除は6.1日短縮でき得ることが予測されました。

本研究から、SARS-CoV-2に対するメフロキンの実験室レベルでの有効性が示されました。今後、有望なCOVID-19治療薬候補として、メフロキンの有効性と安全性についての更なる研究が待たれます。

研究の背景

SARS-CoV-2感染によって引き起こされる新型コロナイウルス感染症(COVID-19)は世界中で猛威をふるい続けており、治療薬の開発が火急の課題となっています。現在、既存薬の中からCOVID-19に有効なものを見つけ出す「ドラッグリパーパシング(drug repurposing)」というアプローチからの研究が盛んに進められており、もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルが認可され、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン、抗HIV薬ロピナビル、抗ウイルス作用の他に細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有するインターフェロンなどいくつかの薬剤について、臨床試験で有効性評価が進められてきました。

クロロキンとその派生薬剤であるヒドロキシクロロキンは、感染細胞において抗SARS-CoV-2活性を示すことから、COVID-19治療薬として流行初期から強い期待が寄せられてきました。しかし、複数の国で実施された多くのランダム化比較試験からは、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンがCOVID-19に対して十分な効果を示すかどうかのコンセンサスは未だ得られていません。そのため、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2020年6月、ヒドロキシクロロキンをCOVID-19治療に用いることを認めた緊急使用許可を取り消しました。ヒドロキシクロロキンが期待ほどの効果を示さなかった要因の一つには、投与によって実際に認められる体内薬物濃度が、著明な抗ウイルス効果を示すほどのレベルには達しないことが挙げられます。こうした状況から、臨床用量でヒドロキシクロロキンよりも有効性の高い効果を示す薬剤を探し出す必要があります。

本研究では、SARS-CoV-2 Wk-521株に感染させたVeroE6/TMPRSS2細胞を用い、既にFDA、欧州医薬品庁(EMA)、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で承認されている27種類の抗寄生虫薬および抗原虫薬を対象にスクリーニング試験を行いました。

研究結果の詳細

感染細胞を用いたスクリーニング試験から、メフロキンの抗SARS-CoV-2作用が示されました。さらに、VeroE6/TMPRSS2細胞だけでなく、ヒト肺上皮細胞株Calu-3細胞においても同様の抗SARS-CoV-2活性が認められました。この結果を受け、研究チームはメフロキンを潜在的な抗SARS-CoV-2薬候補とみなし、以降の実験を行いました。

いくつかの抗マラリア薬のSARS-CoV-2増殖への影響を調べたところ、メフロキンとCOVID-19治療薬として臨床試験がおこなわれてきたヒドロキシクロロキンに用量依存的な抗SARS-CoV-2活性を認めましたが、メフロキンの方が高い活性を示しました。VeroE6/TMPRSS2細胞での感染実験において、ヒドロキシクロロキンの50%阻害濃度(IC50)は1.94 µM、90%阻害濃度(IC90)は7.96 µM、99%阻害濃度(IC99)は37.2 µMである一方、メフロキンのIC50は1.28 µM、IC90は2.31 µM、IC99は4.39 µMと、同等の抗ウイルス活性を示すために必要な濃度はメフロキンの方が明らかに低いことが示唆されました。

SARS-CoV-2の増殖は主に、ウイルスが細胞に吸着する過程、吸着したウイルスが細胞内に侵入する過程、細胞内でゲノム複製する過程に分けられますが、time-of-addition試験(※1)、ウイルス−細胞吸着測定試験、SARS-CoV-2擬似ウイルス粒子を用いた試験から、メフロキンはSARS-CoV-2の吸着による細胞内への侵入を阻害することが示唆されました。
そこで、メフロキンとは異なりウイルスゲノム複製過程を阻害するネルフィナビルとの併用投与を行いました。その結果、異なる作用機序の2剤を併用することで、単なる加算以上の高いシナジー効果を得られることも示されました。

また重要なこととして、現在の臨床投与量でメフロキンの最高血中濃度は4.58 µM、半減期は400時間以上と、感染細胞実験で抗SARS-CoV-2活性を示す以上の濃度を長時間維持することができます。さらに、メフロキンは、血中よりも肺に10倍以上高い濃度まで分布するデータも報告されています。これは、メフロキンが生体内で高い抗SARS-CoV-2効果を示すことを強く示唆するデータです。本研究で作成した数理モデルからも、累積ウイルス量の明らかな減少と、ウイルス排除にかかる時間の顕著な短縮が達成でき得ることが推定されました。

これらの結果から、メフロキンは有望なCOVID-19治療薬候補であることが示されました。今後、生体内での試験や臨床試験を通じて、さらなる有効性の検討が期待されます。

※ 本研究は、日本医療研究開発機構の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業などの助成を受けて実施したものです。

用語解説

※1 time-of-addition試験
ウイルス感染実験において、感染から薬剤を添加するまでの時間を変化させることにより、ウイルス増殖サイクルにおける薬剤の作用点を推測する試験。

論文情報

雑誌名

Frontiers in Microbiology

論文タイトル

Mefloquine, A Potent Anti-Severe Acute Respiratory Syndrome-related Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Drug as An Entry Inhibitor in Vitro

著者

Kaho Shionoya, Masako Yamasaki, Shoya Iwanami, Yusuke Ito, Shuetsu Fukushi, Hirofumi Ohashi, Wakana Saso, Tomohiro Tanaka, Shin Aoki, Kouji Kuramochi, Shingo Iwami, Yoshimasa Takahashi, Tadaki Suzuki, Masamichi Muramatsu, Makoto Takeda, Takaji Wakita and Koichi Watashi

DOI

10.3389/fmicb.2021.651403

東京理科大学について

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