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2021.04.15 Thu UP

農業用ドローンを用いた害虫防除は、既存技術よりもコストが低い
~日本の水稲栽培におけるスマート農業の更なる普及拡大に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●農業の現場では高齢化や労働者人口の減少により労働者不足が深刻な問題となっており、スマート農業は、こうした問題解決の切り札として期待されています。
  • ●本研究は、スマート農業実現のために不可欠なツールである農業用ドローンは、既存の農業技術であるブームスプレーヤー、ラジコンヘリコプターと比べ、水稲栽培における害虫防除においてコストの面で優れており、経営効率も圃場面積0.5~30ヘクタールの場合は農業用ドローンを用いた方が効率的であることを示しました。
  • ●今後の技術発展と規制緩和により、農業用ドローンのコストや利便性の改善がさらに進んでいくことと予想されます。

東京理科大学理工学部経営工学科の徐維那講師および梅田将太朗氏(修士課程1年)は、水稲の害虫管理作業において、スマート農業実現のために不可欠なツールである農業用ドローンを用いた場合と、既存技術を用いた場合のコストや作業能力、経営効率を比較検討しました。その結果、農業用ドローンは、既存の農業技術であるブームスプレーヤー、ラジコンヘリコプターと比べ、コストの面で優れており、経営効率も圃場面積0.5~30ヘクタールの場合は農業用ドローンを用いた方が効率的であることが明らかになりました。

日本の農業は地域産業の中核的な役割を果たしているにも関わらず、高齢化や労働力不足に直面しており、現在、日本政府の主導によりスマート農業を活用した省力化の取り組みが進められています。本研究の成果は、日本の水稲農家が農業用ドローンを導入する際の判断材料になるだけでなく自治体の農業政策の策定にも活用され、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業の社会実装の推進の一助となることと期待されます。

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【研究の背景】

近年、「ロボット技術」や「人口知能(AI)」、「モノのインターネット(IoT)」の技術を活用した、いわゆるスマート農業がめざましい発展を遂げています。一方、農業の現場では高齢化や労働者人口の減少により労働者不足が深刻な問題となっているという実状があります。スマート農業は、こうした問題解決の切り札になると考えられます。今後10年以内に、ロボットや自動運転のトラクターが人に代わって農作業を行う社会が来ると予想されており、本格的なスマート農業時代の到来はもはやすぐそこまで迫っています。農林水産省は2019年、「スマート農業実証プロジェクト」を立上げ、スマート農業を実際の生産現場に導入し、関連技術の実証実験を進めています。例えば、水稲栽培における自動運転のトラクターや自動運転の田植え機、散水管理機、衛星からのリモートセンシング、防除のための農業用ドローンなどが実証実験の対象となっています。

こうした技術の中でも、農薬散布に使用される農業用ドローンのマーケットが急拡大しています。2016年に農業用ドローンが農薬を散布した耕地面積は684ヘクタールでしたが、2018年にはその45倍の31,020ヘクタールまで拡大しました。また、この期間に登録された農業用ドローンは227機から1552機に増加しました。農業用ドローンには現在、オペレーションの必要人数や飛行高度、搭載重量、散布可能な農薬の種類など様々な規制がありますが、既存のブームスプレーヤーやラジコンヘリコプターに代わる有力な手段と考えられています。農林水産省は2022年までに農業用ドローンによる散布面積を100万ヘクタールまで拡大することを目指して必要な規制緩和を検討しています。


農業の現場では今、スマート農業で活用する技術の検証に続いて、コスト分析や経営効率を含めた農業経営に関わる研究のニーズが高まっています。作物の種類や耕作方法の違いによって使用する農業機械を選別し、より効果的で効率的な農業を目指していくことが求められています。また、農業機械の開発においては、作業能力やコストを含めて農業経営を考える必要があります。作業能力とは、ある期間に処理することができる耕地面積を示し、機械の性能を表す指標として使うことができます。また、コスト分析で必要となる防除費用は、機械の減価償却費や修理費、メンテナンス費からなる固定費と農薬や燃料費、労務費からなる変動費を用いて計算されています。これまでの研究報告の中には、最適な条件を見つけるため、線形計画法による農業機械の最適配置を理想的な農業機械の利用配置として提案しているものが見られますが、こうした方法は既存の農業機械を利用した収益の最大化には役立つ一方、農場間の比較をすることが出来ませんでした。

本研究は、農業用ドローンによる空中散布のコストと性能の妥当性を明らかにするため、トラクターに取り付けたブームスプレーヤ―、ラジコンヘリコプター、農業用ドローンの3つの方法のそれぞれのコスト、作業能力、経営効率を調べました。また、評価をするに当たっては、日本での農業の実状により即した条件を採用すべく農薬は年2回散布することとし、先の3つの散布方法と0.5~30ヘクタールの間にある7つの異なるサイズの農地を組み合わせた合計21のシナリオを準備し、入力指向型モデルに基づいた包絡分析法(DEA)を用いて農場間の相対的な経営効率を評価しました。

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【研究結果の詳細】

日本の農業は、労働者不足の問題を抱えており、作業効率や労力の省力化を求めるニーズがあります。作業効率や省力化のニーズに加え、政府の規制緩和策が後押しもあり、近年、農業用ドローンはビジネスとして成立するに至りました。

本研究では、水稲栽培における農業用ドローンの活用の妥当性について、様々なサイズの農地においてブームスプレーヤーとラジコンヘリコプターと比較しつつ、コストと性能の検証を行ないました。


その結果、防除に掛かるコストは、人件費や燃料費、農薬費用で説明される変動費(円/ヘクタール)よりも機械の減価償却や修理、保守、資本利子により説明される固定費(円)の方が大きく占めていました。農業用ドローン、ブームスプレーヤー、ラジコンヘリコプターの1ヘクタール当たりの防除費用(変動費と固定費の和)は、それぞれ791,724円、925,597円、6,924,455円と推計されました。農業用ドローンとブームスプレーヤーの耕地面積に応じた防除費用には大きな差がなく、耕地面積3-5ヘクタールにおいて両者のコストが40万円前後と推計されました。この計算は、耕地面積に関わらず、機材を1基使用したと仮定したときの結果となります。また、農業用ドローンとブームスプレーヤーをそれぞれ使用した場合、耕地面積3-5ヘクタールにおいて、費用効果が最も良くなると試算されました。

農業用ドローンは、農業の現場において導入の初期段階にあり、今後の技術改善によって販売価格の低下が期待できます。しかしながら、農業用ドローンの保守費や修理費が比較的高いため、導入の足かせになることも危惧されます。他方、ラジコンヘリコプターによる防除費用は、耕地面積に関係なくとても高く、その固定費(約688万円)は農業用ドローンの9倍となっています。これはラジコンヘリコプターの調達コスト(1190万円)がとても高いことと、ラジコンヘリコプターのオペレーターに3名の人員を要することが原因として考えられました。こうした背景から、農家が単独でラジコンヘリコプターを調達することは難しく、ラジコンヘリコプターによる防除を行う際は、専門業者に依頼することが必要となります(相場1.8万円/ヘクタール)。

さらに、防除作業の期間を14日とした場合の作業能力は、農業用ドローン、ブームスプレーヤー、ラジコンヘリコプターでそれぞれ135ヘクタール、120ヘクタール、195ヘクタールでした。入力指向型モデルに基づいた包絡分析法(DEA)の解析によると、耕地面積0.5-5ヘクタールにおいて農業用ドローンがブームスプレーヤーとラジコンヘリコプターより効率的である一方、10-30ヘクタールの場合は農業用ドローンとブームスプレーヤーのどちらも効率が高いことが分かりました。耕地面積10-30ヘクタールにおいては、農業用ドローンの顕著な優位性は見られませんが、今後の技術の進歩や規制緩和によって利便性やコストの改善が図られていくものと予想されます。


また、就農者は、農業用ドローンのコストだけでなく、2名のオペレーターの確保や散布ができる農薬の種類、ドローンの操作性など他の要素についても懸念を抱いていることが、これまでの調査から明らかになっています。そうした就農者の意識も普及拡大の障壁になっていると考えられます。コストの改善や作業効率の向上に加え、誰でも容易に使用できるインターフェースの開発や、単独または無人で操作可能とする規制緩和が、持続的なスマート農業の推進には重要になってくると考えられます。


研究成果の今後について、徐維那講師は、「スマート農業技術の社会への実装に向けて、フィールドテストに加えて近年、その経営評価が求められていました。本研究は、市場拡大が続いているドローンに着目し、水稲栽培の防除作業に導入した場合の経費、作業能力、経営効率を客観的に評価することを試みました。今回の結果は、就農者の経営戦略のみならず自治体における農業政策の指針として活用されることが期待されます」と話しています。

※ 本研究は、農林水産省「2020年農林水産統計」、国税庁「耐用年数(機械・装置)」および農林水産省「2015年農林センサス」において、公開されているデータを利用して実施しました。

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【論文情報】

雑誌名
Sustainability
論文タイトル
Evaluating farm management performance by the choice of pest-control sprayers in rice farming in Japan
著者
Yuna Seo and Shotaro Umeda
DOI
10.3390/su13052618

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■ 徐維那講師
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6F53

■ 東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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