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2021.03.17 Wed UP

関節リウマチ治療に対する新たな治療標的分子の候補を発見
~TARM1を介した免疫機能制御を応用した新薬開発に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●関節リウマチは関節の変形や骨破壊を特徴とする自己免疫疾患で、本邦の患者数は約70万人と推計されていますが、既存薬に対して効果を示さない症例も多く、さらなる新薬開発が望まれています。
  • ●本研究では、免疫グロブリンファミリーの一員であるTARM1が、樹状細胞の成熟を促進し、関節炎の発症に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
  • ●これはTARM1が関節リウマチや他の自己免疫疾患・アレルギー疾患の治療標的として有望であることを示す初めての成果であり、今後のさらなる研究が期待されます。

東京理科大学研究推進機構生命医科学研究所の岩倉洋一郎教授、千葉大学真菌医学研究センターの矢部力朗助教、西城忍准教授らの研究グループは、免疫グロブリンファミリーの一員であるTARM1が、2型コラーゲンをリガンドとし、樹状細胞の成熟を促進することで関節炎の発症に重要な役割を果たすことを、マウスを用いた実験から明らかにしました。これは、TARM1が関節リウマチや他の自己免疫疾患・アレルギー疾患の治療標的として有望であることを示す初めての成果です。

関節リウマチは全身に慢性的な炎症が生じる自己免疫疾患で、関節の変形や骨破壊を特徴とします。関節リウマチの有病率は0.6〜1.0%、本邦の患者数は約70万人と推計されています。近年、新たな治療法が開発され、有用性が示されていますが、全ての患者に対して効果があるわけではありません。そのため、既存薬とは異なる作用機序を持つ新薬の開発が望まれています。
そこで研究グループは、関節リウマチの治療標的として、免疫グロブリンファミリーの一員でマクロファージや好中球の細胞膜上に存在するTARM1に注目しました。これまでに行われた試験管内の研究から、TARM1はFc受容体ガンマと会合することにより、マクロファージや好中球に活性化シグナルを入力することが知られていました。しかし生体において、免疫系の制御にTARM1がどのような役割を果たしているかは知られていませんでした。
そこで関節リウマチモデルマウスを用いて実験を行った結果、TARM1の発現が関節リウマチモデルマウスで亢進しており、この遺伝子を欠損させたマウスでは関節炎の発症が強く抑制されることを見出しました。TARM1欠損マウスでは樹状細胞の抗原提示能が障害され、T細胞の活性化が起きていませんでした。また、2型コラーゲンがTARM1のリガンドであること、2型コラーゲンによって樹状細胞の成熟が促進されることも突き止めました。可溶性のTARM1-FcやTARM1-FlagはコラーゲンとTARM1の結合を妨げることで樹状細胞の成熟を阻害し、関節炎の発症を抑制することも明らかになりました。これらの結果から、樹状細胞の成熟においてTARM1が重要な役割を果たしていることが初めて示されました。
TARM1を介した免疫機能を制御することで、関節リウマチや他の自己免疫疾患・アレルギー疾患の治療に有効であると考えられることから、今後、TARM1は有望な治療標的になると期待されます。

【研究の背景】

TARM1は最近同定された白血球免疫グロブリン様受容体ファミリー(※1)の一員で、細胞外に2つの免疫グロブリン様ドメインと膜貫通ドメインを有します。細胞質側末端には情報伝達に関わる一般的なモチーフは存在しませんが、シグナルを入力する際にTARM1は免疫受容活性化チロシンモチーフを持つアダプタータンパク質であるFc受容体ガンマ鎖と会合します。アミノ酸配列解析の結果から、TARM1はOSCARと呼ばれる免疫受容体に近いことがわかっていました。OSCARは線維性コラーゲンの特定のモチーフに結合することで、抗原提示とヒト樹状細胞の活性化、マウス破骨細胞の分化に関わります。
Tarm1遺伝子は骨髄派生顆粒球、単球、好中球、そして顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)によって分化誘導された樹状細胞で恒常的に発現します。また、TARM1シグナルは炎症に関わるサイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン6のマクロファージと好中球からの産生を増加させることも報告されています。しかしながら、TARM1が実際に疾患に与える影響はよくわかっていませんでした。
関節リウマチは滑膜の炎症と骨破壊で特徴付けられる典型的な自己免疫疾患です。関節リウマチの発病のメカニズムは複雑ですが、自己抗原に対する自己免疫反応がTNFやインターロイキン6、1、17などの炎症性サイトカインの過剰な産生を引き起こし、滑膜の炎症と骨破壊に至るということがわかっています。関節リウマチの進行においては、樹状細胞が自己抗原をT細胞に提示し、炎症誘発性サイトカインを産生することによって免疫反応が開始し、増大していきます。樹状細胞は、TLRやC型レクチン受容体といったさまざまな自然免疫受容体を発現しており、こうした免疫受容体は樹状細胞の活性化と成熟に重要な役割を果たします。
関節リウマチの発症機序や薬剤の有効性を調べるために、これまで多くの関節リウマチモデルマウスが開発されてきました。コラーゲン誘導関節炎は、もっとも広く活用されているモデルの一つです。コラーゲン誘導関節炎では、2型コラーゲンに対する抗体が関節炎の進行に重要な役割を果たすことがわかっています。研究グループは、これとは別に関節リウマチに似た関節炎を自発的に生じるモデルを、これまでに2種類開発しました。これらのモデルを用いて関節での遺伝子発現を調べたところ、種々の炎症性サイトカインの他に、Tarm1の発現が強く亢進していることが解りました。
本研究では、新たに作成したTarm1遺伝子欠損モデルを用い、自己免疫性の関節炎におけるTARM1の役割を明らかにすることを目的としました。

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【研究結果の詳細】

研究グループはまず、自ら開発した関節炎モデル2種におけるTarm1遺伝子の発現を調べたところ、対照群に比べて関節における発現が有意に亢進していました。そこで、Tarm1遺伝子欠損マウスを作製し、このマウスのコラーゲン誘導関節炎に対する感受性を野生型のマウスと比較した結果、野生型よりも関節炎の発生率、重症度ともに低く抑えられ、2型コラーゲンに特異的な血漿中のIgG2a、IgG2b、IgG3の濃度も低いことがわかりました。これらの結果は、Tarm1遺伝子欠損マウスがコラーゲン誘導関節炎に対して野生型よりも抵抗性があるということを示しています。
次に研究グループは、成熟した樹状細胞におけるTarm1遺伝子の発現増進を確認したことを踏まえ、樹状細胞の分化におけるTARM1の役割を調べました。その結果、I-A/I-EやCD86、CD80といった樹状細胞の成熟マーカーの発現がTarm1遺伝子欠損マウスでは野生型よりも有意に減少していたことから、TARM1は樹状細胞の活性化と成熟に必要であることがわかりました。
さらに研究グループはTarm1遺伝子欠損マウスでコラーゲン誘導関節炎の進行が抑制されるメカニズムについても研究を進め、樹状細胞の抗原提示能が障害されていることを突き止めました。 次に、TARM1のリガンドの同定を試み、可溶性のTARM1であるTARM1-Fcがコラーゲンに結合することを見出しました。可溶型の2型コラーゲンや培養皿に接着させた2型コラーゲンで樹状細胞を刺激するとTARM1依存的に樹状細胞の成熟が亢進することや、この活性化がTARM1-Fcによって阻害されることから、2型コラーゲンがTARM1の機能的なリガンドであることを示しました。
最後に、関節リウマチモデルマウスを用いてコラーゲン誘導関節炎に対する可溶性TARM1-Fcの治療効果を検証しました。その結果、可溶性TARM1-Fcは2型コラーゲンとTARM1の結合を妨げることで樹状細胞の成熟を阻害し、関節炎の発症を抑制できることが示されました。

本研究から、TARM1を介した免疫機能を制御することで、関節リウマチや他の自己免疫疾患・アレルギー疾患の治療に有効である可能性が初めて示されました。有望な標的分子として、今後TARM1に関する研究のさらなる発展が期待されます。

※ 本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、JSPS科学研究費補助金(24220011)、JSPS特別研究員奨励費(11J09956)の助成を受けて実施したものです。

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【用語】

※1 白血球免疫グロブリン様受容体ファミリー:免疫グロブリンファミリーの一群で、樹状細胞やマクロファージなどの骨髄系細胞に発現し、これらの細胞に活性化シグナルもしくは抑制シグナルを入力する。この受容体ファミリーのメンバーは自己免疫疾患と密接な関係があることから、免疫システムの恒常性において重要な役割を果たしていると考えられている。

論文情報

雑誌名
Nature communications
論文タイトル
TARM1 contributes to development of arthritis by activating dendritic cells through recognition of collagens
著者
Rikio Yabe, Soo-Hyun Chung, Masanori A. Murayama, Sachiko Kubo, Kenji Shimizu, Yukiko Akahori, Takumi Maruhashi, Akimasa Seno, Tomonori Kaifu, Shinobu Saijo & Yoichiro Iwakura
DOI
10.1038/s41467-020-20307-9

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岩倉研究室
研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/iwakuralab/
岩倉教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?657f

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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