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2020.12.08 Tue UP

染毛に使用したヘアカラーリング製品を毛髪1本から「その場」で識別する手法を開発
~犯罪現場に残された毛髪からの迅速な捜査情報の取得につながると期待~

研究の要旨とポイント
  • ●犯罪現場から取得される毛髪は重要な捜査資料となり得ますが、現場に残された毛髪から個人を特定するには、さまざまな要因から課題が残されています。
  • ●表面増強ラマン散乱法、蛍光X線分析を組み合わせ、それぞれのポータブル装置で毛髪1本の試料から、染色に用いられているヘアカラーリング製品を識別できることを明らかにしました。
  • ●現場に残された毛髪を用いて、有用な捜査情報をその場で迅速に取得する手法として貢献できる可能性があります。

東京理科大学工学部工業化学科の国村伸祐准教授および大学院工学研究科工業化学専攻の堀口桃菜氏(修士課程2年)は、表面増強ラマン散乱(SERS)および蛍光X線分析(XRF)それぞれのポータブル装置を組み合わせて用いることで、毛髪の染色に使用する異なるヘアカラーリング製品を、1本の毛髪を用いて、非破壊(または、ほぼ非破壊)かつその場で識別できることを明らかにしました。

毛髪から個人の識別を行うことは可能であり、犯罪の起きた現場に残された毛髪は犯人を特定するための重要な証拠資料になります。毛髪から個人を特定するためには、一般的には毛根鞘から得られる核DNAや、それが得られない場合には毛幹からミトコンドリアDNAを抽出して検査が行われることがありますが、ミトコンドリアDNA検査のみでは個人識別が完全には行えないことや、その他さまざまな要因から現場に残された毛髪から個人を特定するには課題が残されています。

近年、多種多様なヘアカラーリング製品が国内外の市場にあふれ、普段から毛髪を染色する人も多くなっているのが現状であるため、犯罪現場に残された毛髪についても染色された毛髪であるケースが多いと考えられます。本研究の成果は、現場にて取得した毛髪について、DNA検査を行う前に非破壊(または、ほぼ非破壊)かつ迅速に、有用な捜査情報を取得する手法として貢献できる可能性があります。

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研究の背景

X線分析などの手法を用いて物質の情報を高感度で取得するためには、大型の装置を用いなければならない場合があります。一方で、時間的・コスト的な制約などで、大型装置にアクセスしにくい場合も多く、分析装置に高感度と扱いやすさ、アクセスしやすさを共存させることはさまざまな場面で有用であると考えられます。国村准教授の研究グループでは、高感度分析を「その場」で行える、ポータブル型分析装置を用いた高感度分析技術の開発と応用に関する研究を行ってきました。そのような高感度オンサイト分析技術は科学捜査にも貢献すると考えられることから、本研究を実施するに至りました。

X線分析の中でも、蛍光X線分析(XRF)はそれぞれの元素ごとに固有のエネルギーを持つ蛍光X線を調べる方法で、試料中に含まれる元素に関する情報を得ることができます。本研究ではポータブル型全反射蛍光X線分析装置を用いて、染色した毛髪1本ずつを試料としてXRFを行うこととしました。また、本研究ではさらに表面増強ラマン散乱(SERS)法を分析手法として採用しました。SERSは通常のラマン散乱と比較して非常に強い信号が得られるため、微量試料の測定に威力を発揮することが知られており、特に有機分子の種類や構造を調べるための分析法です。今回、XRFとSERSそれぞれのポータブル装置を用いて、さまざまなヘアカラーリング製品を用いて染色した毛髪1本1本から、用いたヘアカラーリング製品の情報を取得して識別することを試みました。

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研究結果の詳細

本研究では、白色のブタの毛をブラシ製品から取得して毛髪モデル試料として用いて、下記の通り5種類の市販ヘアカラーリング製品A~Eをそれぞれ使用して染色を行いました。

<用いたヘアカラーリング製品のタイプ・含まれる染料または染料の生成に関わる成分>
製品A:永久染毛剤(非酸化型)。2剤式(第1剤:ポリフェノール化合物。第2剤:鉄塩)。
製品B:永久染毛料。1剤式(植物(ヘナ等)由来染料系)。
製品C:永久染毛剤(酸化型)。2剤式(第1剤:p-フェニレンジアミン、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノール、p-アミノ-o-クレゾール、レゾルシン。第2剤:過酸化水素)。
製品D:永久染毛剤(酸化型)。2剤式(第1剤:α-ナフトール、p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン、m-アミノフェノール、レゾルシン、黄色203号。第2剤:過酸化水素)。
製品E:半永久染毛料。1剤式(赤色227号、黄色5号、黒色401号、橙色205号、紫色401号)。

上記5種類のヘアカラーリング製品それぞれで染色した毛髪1本ずつを試料として使用し、SERS、XRFそれぞれのポータブル装置でスペクトルを測定しました。SERSでは参照としてヘアカラーリング製品を水に懸濁させた懸濁液についてもスペクトルを測定し、製品A~Eそれぞれで染色した毛髪から得られたスペクトルと一致したことから、試料として用いた毛髪が間違いなく染色されていることをまず確認しました。また、今回SERSスペクトルを得るために銀を蒸着させた薄膜を毛髪試料に密着させて測定を行いましたが、銀薄膜を使用しないモード(通常のラマン散乱)では信号強度が弱く分析には向かない(すなわちSERSが有用である)ことも確認しました。A~Eそれぞれ、含まれる染料の成分に由来する特徴的なピークが得られたものの、製品Cと製品Dには数種類の同じ成分が含まれるためにスペクトルが似ており、それらをSERSスペクトルだけで識別することは難しいことが分かりました。次にXRF測定においては、毛髪のみ(参照試料)、製品A~Eをそれぞれ用いて染色した毛髪の計6種類の試料について測定を行い、製品Aの場合は鉄に由来する強いピーク、製品Bの場合は植物成分に由来するカリウム、マンガンからのピーク、製品Cの場合は成分として含まれる二酸化チタンに由来するチタンからのピークという、それぞれ特徴的なピークが検出されました。その一方、製品D、製品Eをそれぞれ用いた場合には特徴的なピークは得られず、スペクトルはほぼ一致したものとなりました。これは製品D、製品Eには金属元素が特には含まれていないことに起因するものと考えられます。すなわち、SERS分析では難しかった製品C、製品Dでそれぞれ染色した毛髪をXRFでは明確に見分けることが可能でした。以上の結果から、染料の識別に有用なSERSと金属元素の識別に有用なXRFのそれぞれのポータブル装置を組み合わせて用いることで、毛髪1本から、染色に用いられているヘアカラーリング製品5種類を識別することが可能であることを明らかにすることができました。

染毛に使用したヘアカラーリング製品を毛髪1本から「その場」で識別する手法を開発~犯罪現場に残された毛髪からの迅速な捜査情報の取得につながると期待~

国村准教授は本研究の成果について、「犯罪現場で見つかった毛髪と、被疑者の毛髪が同一か否かを判断した結果は、その人物が犯人であるか否かを判断するための重要な材料となります。本研究で示した分析技術を用い、二つの毛髪が同一のヘアカラーリング製品で染毛されたものであるかどうか明らかにすることは、犯罪者を特定するための有用な情報を得ることに貢献すると考えられます。また、ポータブル分析装置を用いて事件現場において毛髪を分析することにより、迅速に犯人に関する情報を得ることが可能となります。以上のことから、本分析技術は科学捜査に貢献する技術になると期待されます。」と話しています。

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論文情報

雑誌名 Analytical Sciences
論文タイトル Surface-enhanced Raman Scattering and X-ray Fluorescence Analyses of a Single Hair Colored with a Hair Dye Product
著者 Momona Horiguchi and Shinsuke Kunimura
DOI 10.2116/analsci.20P144

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