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2020.11.09 Mon UP

ナノインプリント用モールドの寿命測定方法を開発
~ナノインプリント技術開発の加速に貢献~

研究の要旨とポイント
  • ●微小な構造を大量生産できるナノインプリント転写技術は様々な分野で活用が広がっていますが、ナノインプリントの繰り返し転写回数が多くなると離型性が悪くなり、樹脂が付着して鋳型となるマスターモールドが劣化するという問題があります。
  • ●本研究では、レプリカモールド表面の水のぬれ性を示す接触角を測定することで、レプリカモールドの転写寿命を短時間で評価可能な方法を開発しました。
  • ●本技術が確立すれば、ナノインプリントにおける離型剤やレプリカモールドなどの材料開発に役立つと期待されます。

東京理科大学基礎工学部電子応用工学科の谷口淳教授、オーテックス株式会社日和佐伸氏らの研究グループは、レプリカモールド表面の水のぬれ性を示す接触角を測定することで、離型剤や離型性を有するレプリカモールドの転写寿命を短時間で評価可能な方法を開発しました。これは、ナノインプリントにおける離型剤やレプリカモールドなどの材料開発に非常に有効な手法となります。

紫外線硬化樹脂を用いたナノインプリント転写である光ナノインプリントリソグラフィ技術(UV-NIL)は、少ないステップ数でナノスケールの構造を作成できる技術で、低コストでナノ材料を大量生産できる技術としてよく用いられます。しかし、ナノインプリントの繰り返し転写回数が多くなると、離型性が悪くなり、鋳型となるマスターモールドが劣化するという問題があります。そこで、マスターモールドのレプリカであるレプリカモールドを作成し、これを鋳型として使用することでマスターモールドの劣化を防ぐ方法が一般的です。しかし、レプリカモールドの寿命を定量的に評価する方法はこれまでありませんでした。

そこで研究グループは、東京理科大学とオーテックス社が共同で開発した紫外線硬化樹脂を用いてレプリカモールドを作成し、それを鋳型として繰り返しUV-NIL転写を行うことで、レプリカモールドの耐久性を調べたました。その結果、並行な線を転写したパターンでは、線の溝が毛細管現象で広がりが早くなるため、転写を繰り返すと線に平行方向の接触角はすぐに接触角が低くなるのに対し、線に対して垂直方向の接触角は緩やかに低下することを利用し、この2方向の接触角を解析することで、レプリカモールドの寿命予測ができることを突き止めました。

ナノインプリントは幅広い分野で活用が期待される技術ですが、モールドの寿命を定量的に評価する方法はありませんでした。今回研究グループが考案した技術が確立すれば、転写寿命などを予測できるため、研究、開発、量産に役立つと期待されます。

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研究の背景

UV-NILで用いられるモールドは、シリコンなど高価な材料からできていることが多く、その制作には多くの時間と労力が必要とされるため、樹脂の付着による損傷を避ける必要があります。樹脂の付着を防ぐためにモールドには離型剤コーティングが施されますが、繰り返し転写を行ううちに劣化し、最終的にはモールドの損傷に至ります。そのため、マスターモールドのレプリカを作成し、それをレプリカモールドとして使用するなど、マスターモールドの損傷を防ぐための対策を取る必要があります。それに加え、モールドの寿命を知ることも、損傷を防ぐ上では重要になります。これまでのところ、マスターモールドの寿命を予測する方法はなく、代わりにレプリカモールドの耐久性が評価の対象となってきました。そして、レプリカモールドの耐久性を評価する方法として、レプリカモールドの表面自由エネルギーを反映する水の接触角が利用されてきました。

そこで研究グループは、線状のパターンを持つ基材では線に対して並行方向に対しては接触角が小さくなり、異方性を示すことに着目し、レプリカモールドとして樹脂に線状のパターンを転写して、線に対して並行な方向と垂直な方向の接触角を測定しました。この2方向の接触角を解析することで、レプリカモールドの寿命を予測できると考え、研究を行いました。

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研究結果の詳細

まずは100nmもしくは200nm幅の線状パターンを持つシリコン製のマスターモールドを準備し、その上に紫外線硬化樹脂を滴下して1つ目のレプリカモールドを得ました。こうして得られた最初のモールド対して、厚さ10nmのプラチナコーティングを施し、防汚コーティング剤であるオプツールDSX(ダイキン工業(株)製)に24時間浸潤し、85℃で30分加熱してフッ素化炭化水素鎖を作成、そして最後にオプツールHD-TH(ダイキン工業(株)製)で1分間リンスすることで、離型処理を行いました。

この最初のモールドを鋳型として、UV-NILで離型剤を必要としない高硬度樹脂に転写し、これを2つ目のレプリカモールドとし、これを繰り返し転写による寿命推定を行う対象としました。このレプリカモールドを鋳型として紫外線樹脂に繰り返し転写し、その上に2μlの水を滴下して、線状パターンに並行な方向と、垂直な方向の接触角を計測しました。接触角の計測頻度は、転写回数100回以内の場合は20回毎、100-400回の場合は50回毎、400-1000回の場合は100回毎、1000-3000回の場合は200回毎に、3000回以上の場合は250回毎としました。

線幅と線間のスペースが100nmの場合と200nmの場合の共通したパターンとして、線に対して並行方向、垂直方向の両方で転写前の接触角は約140°であり、転写の繰り返しによってどちらの方向からの接触角も減少を続けましたが、線と平行方向の接触角の方が低下速度が速く、約20°で飽和しました。この飽和したときの接触角は、離型性が無くなった状態と考えられます。一方、線に対して垂直な方向の接触角は、平行に比べ高い状態で繰り返し転写とともに低下していき、100nmピッチの場合は転写1800回以降、200nmの場合は転写2400回以降、線形的に減少し、その勾配はそれぞれ-0.316、-0.0154でした(図1)。こうして求めた垂直方向の接触角減少直線と、飽和している水平方向の接触角との交点をもとめると、その時の繰り返し回数が、垂直方向も離型性が無くなったことに相当するため、寿命と考えられます。この方法で計算すると、線幅が100nmの場合は約2600回、200nmの場合は約3400回で寿命を迎えると推定され、実際に転写してモールドに樹脂が付着した回数がほぼ一致しました。

本研究で提案した方法により、実際に樹脂の付着が生じるまで転写を繰り返す必要なく、離型剤や離型性を有するレプリカモールドの転写寿命が推定できるようになります。モールドの寿命を短時間で評価可能にする本手法は、ナノインプリントにおける離型剤やレプリカモールドなどの材料開発において非常に有用な方法になると期待されます。

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ナノインプリント用モールドの寿命測定方法を開発 ~ナノインプリント技術開発の加速に貢献~

図1. ナノインプリント転写回数と水の接触角。
L&S 100nm_x ...パターン幅とパターン間のスペース100nm x方向(線に対して並行方向)から
L&S 100nm_y ...パターン幅とパターン間のスペース100nm y方向(線に対して垂直方向)から
L&S 200nm_x ...パターン幅とパターン間のスペース200nm x方向(線に対して並行方向)から
L&S 200nm_y ...パターン幅とパターン間のスペース200nm y方向(線に対して垂直方向)から

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論文情報

雑誌名 Nanomaterials
論文タイトル Transfer Durability of Line-Patterned Replica Mold Made of High-Hardness UV-Curable Resin
著者 Tetsuma Marumo, Shin Hiwasa and Jun Taniguchi
DOI 10.3390/nano10101956

谷口研究室
https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?2420

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