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2020.11.05 Thu UP

高い反射防止性能を持つモスアイフィルムの大面積化に向けた基礎技術を開発
~ディスプレイや太陽電池パネルなど、様々な分野への応用に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●スマートフォンやタブレット端末などのディスプレイの視認性向上のため、高い反射防止性能を持つ構造としてモスアイ構造が注目されていますが、大面積化が難しいという問題がありました。
  • ●本研究では、スパッタ成膜法でGC薄膜をガラス基板上に堆積させ、この基板に照射面積の広い酸素プラズマを照射することでモスアイ構造を作製する方法を確立しました。
  • ●今回開発した方法はモスアイフィルム大面積化を可能にする基礎技術であり、今後ディスプレイ、デジタルサイネージ、太陽電池パネルなどへの応用が期待されます。

東京理科大学基礎工学部電子応用工学科の谷口淳教授、ジオマテック株式会社の菅原浩幸氏らの研究グループは、スパッタ成膜法でグラッシーカーボン(GC)薄膜をガラス基板上に堆積させ、この基板に酸素プラズマを照射することで、反射を防止するモスアイ構造を作製する方法を開発しました。これは大面積のモスアイ構造の作製を可能とする基本技術であり、ディスプレイ表面、デジタルサイネージの表面、透明仕切り板の表面などにこの技術を適用することで、反射がない視認性の良い環境を提供できるようになると期待できます。

表面の反射は、スマートフォンやパソコンなどのディスプレイの視認性や、太陽電池パネルの発電効率を低下させるため、反射を防止する技術が重要となります。反射を防止する構造の代表的なものとして、モスアイ構造が挙げられます。モスアイ構造は、光をあまり反射しない蛾の目(モスアイ)を真似た構造で、微細な凸凹構造により連続的に屈折率が変化することで、反射が抑えられます。これまでモスアイ構造を作成するさまざまな方法が提案されており、研究グループもこれまでにグラッシーカーボン(GC)基板に酸素イオンビームを照射することで、モスアイ構造を形成する手法を開発しています。しかし、GC基板は、大面積化が難しいという欠点がありました。
そこで本研究ではモスアイ構造の大面積化を実現するために、スパッタ成膜法でGC薄膜をガラス基板上に堆積させ、この基板に照射面積の広い酸素プラズマを照射することでモスアイ構造を作製するという新たな方法を見出しました。この方法により大面積のモスアイフィルムの作製が可能となれば、ディスプレイ、デジタルサイネージ、太陽電池パネルなどへの適用が期待されます。

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研究の背景

基板上に紫外線硬化樹脂を滴下し、その上にテンプレート(鋳型)となる型を押し当てて紫外線を照射して紫外線硬化させた後、型をはがすことでパターン構造を形成する光ナノインプリントリソグラフィ技術(UV-NIL)は、大面積のモスアイ構造を作成するのに有望な技術です。
これまでに研究グループは、GC基板に酸素イオンビームを照射することで、モスアイ構造を形成する手法を開発して、このモスアイ構造を鋳型として、樹脂に転写することで低反射率のモスアイ構造フィルムの作製にも成功しました。しかし、この手法で用いるGCは金属の粉末を金型に入れて圧縮して固め、高温で焼結して目的の構造を得る粉末冶金と呼ばれる方法で作られるため、大面積化が難しいという問題がありました。
そこで研究グループは、スパッタ成膜法でGC薄膜をガラス基板上に堆積させ、この基板に酸素プラズマを照射することでモスアイ構造を作製しました。これまでの方法では酸素イオンビームの照射範囲が狭かったことから、今回は照射範囲が広い酸素イオンビームを有する誘導結合プラズマ装置を使用しました。そして得られたモスアイ構造を鋳型としてUV-NILで樹脂に転写することで、モスアイ構造を持つ大面積フィルムを得ることができます。

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研究結果の詳細

モスアイ構造を形成するため、まずはスパッタ成膜法でチタンをガラス基板上に堆積させることで、接着層として厚さ約100nmのチタン層を作成しました。このチタン成膜されたガラス基板上にスパッタ成膜法でGC薄膜を堆積させ、誘導結合プラズマ装置を用いて酸素イオンビームを照射することで、モスアイ構造を得ました。
こうして得られたモスアイ構造にクロム蒸着を行った後、これを大気中に24時間曝露することで酸化クロム層を生成しました。これをシランカップリング剤に1時間浸し、30分間かけて60℃に温めた後、120℃で15分加熱し、1分間フッ素化溶媒に浸けました。以上の手順により、型から転写した樹脂をはがしやすくするための離型処理が終了しました。
次に、上記のモスアイ構造に紫外線硬化樹脂を滴下し、ポリエステルフィルムで覆いました。これに圧力を加え、紫外線照射することで、モスアイ構造を樹脂に転写しました(図1)。
モスアイ構造による影響を調べるため、表面が平滑な光硬化樹脂を準備し、光学的な特徴を比較しました。その結果、550nm付近の透過率は平滑な光硬化樹脂で約86%であったのに対し、作成したモスアイ構造の約94%といずれも良好な透過性を示しました(図2左)。一方、可視光域における反射率は平滑な光硬化樹脂で約4%であったのに対し、作成したモスアイ構造の約0.4%と、優れた反射防止性能を示しました(図2右)。

本研究により、これまで難しかった大面積(1m級)のモスアイ構造の作製が可能となる基本技術が確立できました。研究を主導した谷口教授は「大面積ロールにモスアイ構造が作製できれば、フラットパネルディスプレイ、デジタルサイネージ、コロナ対策で使用が広がる透明アクリル仕切り版など様々なものに応用でき、反射がなく視認性の良い環境が提供できるようになります」として、今後の応用に期待を寄せています。

高い反射防止性能を持つモスアイフィルムの大面積化に向けた基礎技術を開発~ディスプレイや太陽電池パネルなど、様々な分野への応用に期待~

図1. 光硬化樹脂に転写されたモスアイ構造。

高い反射防止性能を持つモスアイフィルムの大面積化に向けた基礎技術を開発~ディスプレイや太陽電池パネルなど、様々な分野への応用に期待~

図2. 作成されたモスアイフィルムと、モスアイフィルムと同じ素材で作成された平滑な表面構造の樹脂フィルムにおける透過率(左)と、作成されたモスアイフィルムと、鋳型となったモスアイ構造、そしてモスアイフィルムと同じ素材で作成された平滑な表面構造の樹脂フィルム反射率(左)。

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論文情報

雑誌名 Micro and Nano Engineering
論文タイトル Moth-eye structured mold using sputtered glassy carbon layer for large-scale applications
著者 Tomoya Yano, Hiroyuki Sugawara, Jun Taniguchi
DOI 10.1016/j.mne.2020.100077

谷口教授のページ
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?2420

東京理科大学について
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