ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2022.09.15 Thu UP

ニューロンの同期発火を引き起こす入力信号を推定する手法を開発
~観測が難しい入力信号を出力信号から再構成、さまざまな非線形系へ応用可能~

研究の要旨とポイント

  • ニューロンの集合体(アセンブリ)に共通入力信号が送られることで、多数のニューロンが同時に発火する同期発火現象は、脳の情報処理原理を解明する上で重要な現象です。しかし、共通入力信号の観測は困難であり、その全貌はまだよくわかっていません。
  • 本研究では、ニューロンが発する出⼒信号の時系列パターンから共通⼊⼒信号を再構成する⽅法を開発しました。
  • この手法はニューロンの共通発火現象だけでなく、さまざまな非線形力学系にも適用でき、脳における情報処理原理の解明、幅広い分野でのデータ解析に応用が可能になると期待されます。

脳では、ニューロン同士が電気信号をやりとりすることで情報伝達が行われています。特にニューロンの集合体(アセンブリ)に共通入力信号が送られ、足並みの揃った発火が起こる同期発火現象は、脳での統合的な情報処理に非常に重要な役割を果たしていると考えられています。しかし共通入力信号の観測は困難であり、その詳細は明らかになっていませんでした。

東京理科大学工学部情報工学科の池口徹教授、早稲田大学人間科学学術院の野村亮太准教授(研究当時:東京理科大学)、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構の藤原寛太郎特任准教授らの研究グループは、ニューロンが発する出⼒信号の時系列パターンから共通⼊⼒信号を再構成する⽅法を開発しました。

本成果はニューロンの共通発火現象だけでなく、さまざまな非線形力学系にも適用でき、生物学や認知科学のデータ解析に応用可能になると期待されます。さらに、脳の情報処理原理の解明や、実際の脳のはたらきによく類似した新たな脳型コンピュータの開発、神経疾患の発生機序解明に貢献すると期待されます。

本研究成果は、2022年9月12日に国際学術誌「Physical Review E」にオンライン掲載されました。

研究の背景

脳の基本構成要素である神経細胞はニューロンと呼ばれ、他のニューロンと結合してニューロンアセンブリを形成します。ニューロンは、樹状突起に存在する多数のシナプスを通じて隣のニューロンから電気信号を受け取り、処理をしたのち、また別のニューロンに電気信号を伝えます。こうした電気信号のやり取りによって、脳は⾼次の情報処理を行っています。

近年、人工知能が脚光を浴び、ニューロンが情報を処理する仕組みを模倣したニューロンモデルの開発などが盛んに行われています。しかし、現在の人工知能に実装されているニューロンモデルは実際のニューロンが持つ機能のほんの一部しか再現できておらず、私たちの脳で行われている情報処理とは、大きくかけ離れています。そのため、『真の』ニューロンモデルを構築するためには、脳においてどのような情報処理原理が⽤いられているのかを知ることが重要です。

ニューロンが電気信号を発することをニューロンの発火といいます。タスクに取り組む活動時や安静時の脳では、特定のニューロンアセンブリに共通入力信号が送られ、ニューロンの同期発火(*1)が起こります。同期発火は脳での情報処理の上で非常に重要です。

しかし、共通入力信号は通常観測できないため、その詳細はまだ明らかになっていません。一方、出力信号を観測することは比較的容易です。そこで,もし観測された出力信号から、共通入力信号を再構成することができれば、ニューロン発火の集団同期の仕組み、ひいては脳内での情報処理の原理に迫ることができます。

研究結果の詳細

研究グループは、ニューロンの発火パターンを時系列データの表現方法であるリカレンスプロット(*2)として示し、その中から各画素の点の和を利用して決定した点から重畳リカレンスプロットを求め、出力信号から入力信号を再構成する手法を開発しました。本手法を、各ニューロンの発火率のベースラインが異なり、カオス(*3)的な振る舞いを示すニューロンモデルに適用した場合でも、他のニューロンモデルより精度は落ちるものの、共通⼊⼒信号を再構成することができました。

また、本手法は、揺らぎの幅に合わせて発火率を計算するのに十分な時間まだを選択することで、様々なパターンを示す系からも共通入力信号を再構築できることが示唆されました。さらに、発火率が4~7倍も異なるタイプのシステムの組み合わせでも、共通入力信号の再構成が可能でした。

本研究では、ニューロンに対する⼊⼒の推定をテーマに研究を行いましたが、今回開発された手法はニューロンだけではなく、さまざまな⼊出⼒系、複数の⾮線形⼒学系に適⽤が可能です。将来的には、本手法をさらに発展させることで、⽣物学や⼯学、認知科学解析など、広い分野での応用が期待されます。

※ 本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A) (JP20H00596)、基盤研究(B)(JP21H03514)、基盤研究(C)(JP17K00348、JP18KT0076、JP21K12093)、挑戦的研究 (開拓) (JP22K18419) ムーンショット型研究開発基金補助金(JPMJMS2021)の助成を受けて実施したものです。

用語

*1  同期発火
複数のニューロンが同時または一定の間隔を保って発火する現象のこと。脳内で個別の情報を関連づけたり、ワーキングメモリーを活性化したりする働きがあると考えられている。

*2 リカレンスプロット
時系列データを2次元の図にプロットする表現方法。線形現象の解析の強力な手法として現在注目されている。

*3 カオス
非線形性を有する決定論的なシステム(現在の状態が定まれば、未来の状態が一意に定まるシステム)から生じる一見するとランダムで予測不可能な現象のこと。神経系や乱流などに現れることが知られている。

論文情報

雑誌名

Physical Review E

論文タイトル

Superposed recurrence plots for reconstructing a common input applied to neurons

著者

Ryota Nomura, Kantaro Fujiwara, and Tohru Ikeguchi

DOI

10.1103/PhysRevE.106.034205

研究室

池口研究室のページ:http://www.hisenkei.net/
池口教授のページ:https://www.tus.ac.jp/ridai/doc/ji/RIJIA01Detail.php?act=pos&kin=ken&diu=1174

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。