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2022.09.01 Thu UP

泡タイプのエタノール消毒剤、抗菌剤の実現に光
~高濃度エタノール水溶液によって形成される泡の安定化に成功~

研究の要旨とポイント

  • 陰イオン界面活性剤、高級アルコール、無機塩を組み合わせて添加することにより、高濃度エタノール水溶液が形成する泡を安定化させることに成功しました。
  • ステアロイルメチルタウリンナトリウム(SMT)と1-テトラデカノールの共添加が最も良い起泡性(泡立ち)を示すことを見出しました。この溶液は、非加圧式のポンプフォーマーからも泡の状態で吐出することができました。
  • 本研究をさらに発展させることで、高濃度のエタノールを含有する水溶液でも泡状に吐出できる薬剤開発への貢献が期待されます。

東京理科大学理工学部先端化学科の酒井健一准教授、酒井秀樹教授らの研究グループは、日油株式会社と共同で、高濃度エタノール水溶液に添加する化合物の種類や添加割合と、形成される泡の状態を詳細に調査することにより、泡の安定性を高めることに成功しました。本研究をさらに発展させることで、高濃度でエタノールを含有し、泡タイプとして使用可能な消毒剤や抗菌剤の開発が期待されます。

近年、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、衛生管理への意識が向上しています。特に、手指消毒剤の使用は私たちの生活の一部になっており、より使いやすい製品が求められてきました。エタノールを含有する消毒剤は、細菌やウイルスに対して一定の効果を示すことは知られていますが、エタノールの性質上、その多くはジェルタイプやミストタイプに限定されてきました。そこで、本研究では泡タイプのエタノール消毒薬の実現を目的として、陰イオン性界面活性剤、高級アルコール、無機塩などの化合物を組み合わせた高濃度エタノール水溶液を新たに調製し、形成される泡の安定性を評価しました。

研究の結果、ステアロイルメチルタウリンナトリウム(SMT)、1-テトラデカノールを混合したエタノール水溶液(60vol%)が最もよい泡立ちを示すことがわかりました。また、硫酸マグネシウムの添加によって、水溶液の表面張力が低下、表面粘度が増加することで泡の安定性が向上することを確認しました。特筆すべきは、シリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を使用せず、優れた泡の安定性を実現できたという点です。

本研究成果をさらに応用することで、エタノール濃度が高く、泡状に吐出可能な消毒剤を処方するための新たなプラットフォームを提供することが期待されます。

本研究の成果は、2022年8月4日に国際学術誌「Chemistry Letters」にオンライン掲載されました。

泡タイプのエタノール消毒剤、抗菌剤の実現に光
~高濃度エタノール水溶液によって形成される泡の安定化に成功~

研究の背景

市販されている手指消毒剤には、液体タイプ、ミストタイプ、ジェルタイプなどさまざまな製品があります。その中でも泡タイプの製品は、吐出した薬剤を目視で確認しやすい、容器から液だれしにくい、周囲に飛び散らない、使用時の肌感が良いなど、多くのメリットがあります。

泡は空気と液体の界面に界面活性剤が吸着することで安定化されます。しかしながら、水溶液内にエタノールが多く存在すると、界面活性剤が気液界面に吸着しにくくなるので、安定な泡を形成することが難しくなります。そのため、高濃度エタノールを含む水溶液を泡状に吐出することは困難であると考えられてきました。

本研究グループは、過去の研究で、高濃度エタノール水溶液にドデシル硫酸ナトリウムと高級アルコールを共添加すると、泡の安定性が向上することを見出していました。そこで今回、過去の知見を活かし、添加する化合物の種類や組成を変化させた新たな高濃度エタノール水溶液を調製し、各水溶液の泡の安定性を評価しました。

研究結果の詳細

本研究では、陰イオン界面活性剤、高級アルコール、無機塩を組み合わせたエタノール水溶液を設計しました。陰イオン界面活性剤としてステアロイルメチルタウリンナトリウム(SMT)、高級アルコールとして1-ドデカノール(炭素数12)、1-テトラデカノール(炭素数14)、1-ヘキサデカノール(炭素数16)、無機塩として硫酸マグネシウムを使用しました。

まず、SMTと各高級アルコールを1:1のモル比で混合した60vol%エタノール水溶液を調製した後、水溶液が入った容器を手で10秒間激しく振り、形成された泡の状態を視覚的に評価しました。その結果、いずれの水溶液でも泡立ち、高級アルコールの炭素鎖が長いほど泡の安定性が良好になることを発見しました。一方で、1-ヘキサデカノールのように炭素鎖が長くなりすぎると、沈殿が生じることもわかりました。

次に、調製したエタノール水溶液の表面張力と表面粘度を測定しました。その結果、SMTと高級アルコールの共添加により、表面張力が低下し、表面粘度が増加することが明らかになりました。この結果から、気液界面に密な吸着膜が形成されて表面粘度が増加し、泡の安定性が向上することが示唆されました。

さらに、本研究グループはエタノール水溶液への硫酸マグネシウム添加の効果を調べました。実験の結果、すべての水溶液で泡の形成が確認されました。また、硫酸マグネシウムのモル比が増加すると、水溶液の表面張力の低下、表面粘度の増加につながり、泡の安定性が向上することがわかりました。

最後に、調製した高濃度エタノール水溶液を実際に市販のポンプフォーマーから泡として吐出し、その状態を確認しました。その結果、SMTと1-テトラデカノールを共添加したエタノール水溶液で、最も良好な起泡性を示すことが明らかとなりました。

今回の研究成果について、研究を主導した酒井健一准教授は「新型コロナウイルス感染症の流行は、人類の生命や社会活動に深刻な影響を与えています。日本国内のみならず、欧米やアジアの諸外国においても、手指を清潔に保つことの重要性が認識されており、手指消毒剤のニーズは今後ますます高まることが予想されます。本研究成果はそのようなニーズに大きく貢献することが期待されます」と話しています。

※ 本研究は科学技術振興機構(JST) のA-STEPトライアウト(課題番号:JPMJTM20CF)の助成を受けて実施されました。

論文情報

雑誌名

Chemistry Letters

論文タイトル

Enhancing the Foam Stability of Aqueous Solution with High Ethanol Concentration via Co-Addition of Surfactant, Long-Chain Alcohol, and Inorganic Electrolyte

著者

Kenichi Sakai, Risa Muto, Masao Hara, Rina Hattori, Eiji Harata, Masaaki Akamatsu, and Hideki Sakai

DOI

10.1246/cl.220306

研究室

酒井秀樹・酒井健一研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/sakaisakailab/
酒井秀樹教授のページ:https://www.tus.ac.jp/ridai/doc/ji/RIJIA01Detail.php?act=pos&kin=ken&diu=21f8
酒井健一准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/ridai/doc/ji/RIJIA01Detail.php?act=pos&kin=ken&diu=3a63

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