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2022.07.29 Fri UP

短時間のデータから、光電脈波特性の推定誤差の評価に成功
~測定精度の向上により、ウェアラブルデバイスへの応用に寄与~

研究の要旨とポイント

  • 光電脈波法(PPG, ※1)は、心拍や血圧などの生体内情報を非侵襲的に測定できますが、ノイズの影響や、実用的場面で得られる時系列データが短いことなどの課題があり、高い精度が必要とされる高度な分析には不向きでした。
  • PPGによって得られた時系列データ(※2)に対して、非線形時系列解析(※3)の手法を適用することにより、限られた長さの時系列データからPPG特性の推定誤差の評価に成功し、さらに、平均予測時間を推定するための時系列データの長さの下限も推定できました。
  • 本研究をさらに発展させることで、日常の健康管理に有用なウェアラブルデバイス開発への貢献が期待されます。

東京理科大学工学部情報工学科のNina Sviridova助教、池口徹教授、千葉大学学術研究・イノベーション推進機構の中野明正特任教授、新潟食糧農業大学食料産業学科の趙鉄軍准教授の研究グループは、PPGの時系列データを再帰定量化解析(RQA, ※4)することで、短時間の時系列データでも系の特性を1%以下の誤差で推定できることを明らかにしました。本研究成果により、高精度な分析が可能となり、ウェアラブルデバイスへの応用が期待されます。

PPGでは、心拍数や血圧などの健康パラメータを簡単に取得することができます。しかしながら、ウェアラブルデバイスを用いてPPGを行う場合、モーションアーチファクト(※5)や、時系列データの短さなどの影響により、非線形時系列解析などの高度な分析への応用が難しいことが課題でした。そこで、本研究グループは、短時間での時系列データに対する誤差を推定、評価することを目的として研究を進めてきました。

得られたPPG時系列データについて、リカレンスプロット(※6)を作成した後、4種類の値を定義し、RQAによる定量化を行いました。その結果、短時間の時系列データでも、エントロピーや決定論性(時系列データが決定論的であるかどうか)などの特性が1%以下の誤差で推定されることが示唆されました。また、平均予測時間を推定するために必要な時系列データ長の下限値を見積もることができました。以上の結果より、PPGで得られた短時間の時系列データにおいても正確で信頼性が高いデータが得られるため、測定の精度が向上することを実証しました。

本研究成果は、2022年7月9日に国際学術誌「Sensors」にオンライン掲載されました。

研究の背景

PPGとは、指先や耳たぶなどに光を照射し,反射もしくは透過する光の量を計測することによって、生体内情報を取得する方法です。例えば、心拍数、呼吸数、血圧、酸素飽和度、血管の状態評価などに使用され、測定が非常に簡便で非侵襲、安価などの利点があります。一方で、ウェアラブルデバイスを使用して測定を行う場合、測定ノイズやモーションアーチファクトの影響で、PPGからの情報抽出が大きく影響を受けることが知られています。通常、ノイズをフィルタリングすることによって影響を低減する手法が採用されていますが、その場合、系の非線形ダイナミクス特性が保持されず、高度な解析への適用ができませんでした。

また、PPG特性の非線形時系列解析は、時系列データの長さに大きく影響されますが、実用的な応用の場面においては、得られる時系列データの長さに制限があることも大きな課題でした。そこで、本研究グループは短時間の時系列データを利用することを着想しました。時系列データの長さが短い場合、非線形解析の適用と系の力学特性の推定精度が制限されるというデメリットがある一方で、計算コストやデバイスのバッテリー消費量の削減、リアルタイムな信号の処理などの面でメリットがあります。本研究では、短期間のPPGデータに対してRQAを適用し、定量化された各パラメータの値からその妥当性を評価しました。

研究結果の詳細

最初に、健康な被験者を対象に、近赤外光を利用した反射型PPG測定を行いました。次に、得られたデータからリカレンスプロットを作成後、RQAによる非線形時系列解析を行いました。RQAでは以下の4種類の値を定義し、各値の定量化を行いました。

① 決定率(DET): 時系列データが決定論的であるかどうかに関する指標。
② 斜線最大長(Lmax): アトラクタの軌道の安定性に関する指標。
③ 斜線長さの平均(L): 動的システムの平均予測時間に関する指標。
④ エントロピー(ENTR): リカレンスプロットの複雑性に関する指標。

解析の結果、DETENTRなどの値から、短いPPGデータでも1%以下の誤差で推定できることが示唆されました。一方で、Lmaxについては小さい誤差に抑えるために長い時間が必要となること、Lについてはノイズの増加に伴って許容される最小長さが減少することがわかりました。

以上の結果から、短期間の時系列データでも決定論的に推定できることを明らかにしました。また、時系列データが決定論的である場合、ダイナミクス特性はRQAを使用して評価でき、時系列データの長さの関数として推定誤差を計算できることも突き止めました。平均予測時間を推定するために必要な時系列データ長の下限値を見積もることもできました。

本研究の成果について、研究を主導したSviridova助教は「光電脈波のデータ解析をウェアラブルデバイス上で行うことにより、個人に合わせた健康管理システムを構築できる可能性があります。本研究は、そのようなシステムの開発に貢献できると考えています。また本成果は、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスからの健康パラメータの推定を向上させるのに役立ち、WHOの目標の一つである循環器疾患や精神疾患の早期発見にも貢献することが期待されます」と話しています。

※ 本研究は日本学術振興会の科研費(19K14589, JP20H05921, JP20H00596, JP21H03514, JP22K18419)の助成を受けて実施されました。

用語

※1 光電脈波法(Photoplethysmogram, PPG): 光を使って、心拍数や血流量など生体内の情報を得る手法。反射型と透過型の測定法がある。反射型では主に赤色光や近赤外光、透過型では緑色光が使用される。

※2 時系列データ: 気象観測や株価の変動など、時間的な変化を測定・観測したデータ。

※3 非線形時系列解析: 時系列データが非線形力学系から生成されるとみなし、それに基づいて解析する手法。

※4 再帰定量化解析(Recurrence quantification analysis, RQA): 力学系の再帰特性やそのパターンを定量化する非線形時系列解析の手法。

※5 モーションアーチファクト: 写真撮影時のピンボケなど、測定中の動作によって生じるブレ。

※6 リカレンスプロット(recurrence plot, RP): 時系列データを2次元上で表現する方法の1つ。背後にある力学特性を読み取る際に使用される。

論文情報

雑誌名

Sensors

論文タイトル

Photoplethysmogram Recording Length: Defining Minimal Length Requirement from Dynamical Characteristics

著者

Nina Sviridova, Tiejun Zhao, Akimasa Nakano and Tohru Ikeguchi

DOI

10.3390/s22145154

研究室

Sviridova Nina助教のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?714F

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東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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