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2022.07.25 Mon UP

争点とする政策によって、政党の分裂は左右される
~⽇本の政党政策の対⽴構造を理解する新たな視点~

研究の要旨とポイント

  • ⽇本政治における度重なる野党の分裂は、有権者の政党政策判断に混乱をきたす原因となっています。
  • 日本政治の専門家を対象に調査を実施し、特に2017年の民進党の分裂に着目して、回答者の個性を加味し、補正する新たな手法で解析を行いました。
  • その結果、民進党は、急速に争点化した防衛政策の不一致が結束を弱めることになった一方、環境や地方分権などの政策については政党の立場として一致していたことがわかりました。
  • これは、どの政策が争点として政治化されるかによって、党の分裂が左右されることを示唆しています。この成果は、有権者が今後の国政選挙での投票を考える上で、与野党の対⽴構図を理解する一助になると考えられます。

東京理科大学教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部の松本朋⼦講師、北海学園⼤学法学部の⼭本健太郎教授、明治学院⼤学法学部の久保浩樹准教授の研究グループは、日本政治の専門家を対象に調査を行い、回答者ごとの個性や偏りを補正する新たな手法で解析した結果、2017年当時の主要野党であった民進党の分裂では、防衛政策の不⼀致が強調されましたが、環境政策や地⽅分権化政策では⼀致していたことが明らかになりました。この結果は、今後の与野党の対⽴構図を理解する上で助けになる視点であると考えられます。

日本で採用されている議会制民主主義において、政党は競争の重要な単位ですが、他の先進民主主義国に比べて、日本では例外的に議会で継続的かつ大規模な政党間移動が行われる頻度が高いことが知られています。政党間移動は、政党システムのダイナミクスにも変化をもたらし、野党の分断など大きな政党間関係の変化をもたらします。

政党間移動の動機として、党内における政策の不一致や政策追求が重要であることが知られています。2017年に、防衛政策の不一致が引き金となり、民進党が分裂に至ったことは、まだ記憶に新しい出来事です。

今回、松本講師らの研究グループは、2017年の選挙に対する専門家調査の解答結果を再分析し、政党間移動の争点について検討しました。その結果、党内に潜在していた防衛政策に対する不一致が急速に政治問題化したことが党分裂に寄与した一方で、環境や地方分権などの政策においては党内で一致していたことが示唆されました。

本研究の成果は、国政選挙に際して起こりうる政治家の政党間移動や政党の分離・統合などを理解する上でも示唆に富んでおり、政党や政策の関係性と政治家の流動性を理解する上で重要な知見となると考えられます。

本研究の成果は、2022年7月21日に国際学術誌「Japanese Journal of Political Studies」にオンライン掲載されました。

研究の背景

議会制民主主義において、政党は競争の重要な単位であり、従来は党員の結束を強化するものと考えられていました。政治家が政党を変更することはまれですが、党に異議を唱える意味で、こうした移動は重要な役割を持ちます。一方で、党の変更が大規模に集団で行われれば、党の分裂や合併をもたらし、党の競争力や政党システムの構造を変える可能性があります。

日本は、先進民主主義国の中では例外的に、国政の議会で継続的かつ大規模な政党間移動が行われ、政党システムのダイナミクスに変化をもたらすことが知られています。

このような大規模な政党間移動による度重なる野党の分裂は、有権者が政党政策を判断する上で、混乱をきたす結果になっています。政党間移動の主要な動機は政策追求であることから、研究グループは、専⾨家を対象として政党政策についてのアンケート調査を行い、その結果を解析することで、⽇本の政党政策の対⽴構造を明らかにしたいと考えました。

研究結果の詳細

民進党は2017年当時、最大の野党陣営でしたが、大規模な政党変更により分裂しました。このときの争点となったのは防衛政策でしたが、これは以前から潜在していたものでした。なぜ、以前から存在しながらも不活発だった防衛政策の不一致が、大きな分裂につながる争点となったのかという疑問に答えるため、専門家調査の結果を分析しました。

政策の重要性と各政党の立場に関して専門家を対象にアンケート調査を実施し、その回答に対して特異項目機能(DIF、※1)分析を適用し、さらに、Blackbox transpose scalingsと呼ばれる空間分析(※2)手法を用いて、解析対象とした課題の空間上の位置や、政党政策の際立った特徴について分析しました。また、専門家の回答の分散を調べることで、政党が一貫した、かつ明確政治的ポジションを堅持しているかどうかを検討しました。

まず、政党の位置づけについての解析からは、専門家によって異なるという結果が得られ、日本の政治において政党の結束/分裂と、政党の政策競争が相互に関連していることが明らかになりました。そして、2017年当時の民進党においては、防衛政策に対する立場が明確に区別され、分党化が進んでいることが示されました。しかし一方で、環境、地方分権などの政策については、政党の立場を表す空間上の位置が明確に収斂しており、党内で一致していることがわかりました。さらに、特異項目機能(DIF)分析からは、党分裂直前に、防衛政策が争点として政治化したことを示唆するデータを得ることができました。

本研究の成果により、各政策の持つ重要性や政党における位置づけを多元的かつ複合的に解釈し、政党変更や政党の分離などの政党システムの構造変更について、新たな視点から、より俯瞰的に理解することが可能となりました。

さらに、本研究では、回答者の個性を加味し、補正する新たな手法を提案し、その有用性を示すことにも成功しました。アンケート調査の際には、回答者は返答を「とても反対」、「反対」、「どちらかといえば反対」といった何段階かの選択肢から選択するように要求されます。しかし、回答者によっては「とても反対」から「とても賛成」までの選択肢を全て使う⼈もいれば、「どちらかといえば賛成」から「どちらかといえば反対」の間の選択肢しか使わない⼈もいます。こういった回答者の個性を補正する⼿法が今回用いられた手法であり、この補正を行ったところ、回答から得られた⽣データの平均値とは異なる補正値が得られました。つまり、結果を適切に理解するためには、回答者の回答をそのまま⽤いるのではなく、回答者の個性を廃し、補正したデータを⽤いることの重要性が示されました。

この結果は、本研究で取り組んだ政党変更の要因解析に限らず、社会調査における手法の一つとして現在、オンラインを含めたアンケート調査が増えている中で、結果を正しく解析するためにも重要な知⾒であると言えます。

松本講師は、「⽇本の政治で度重なる野党の分裂は、有権者が政党政策を判断する上で、混乱をきたす結果になっています。本研究は、与野党の対⽴構図を理解する助けになると考えられ、国政選挙の投票に臨む全ての有権者にとって、示唆に富む成果であると言えます」と、本研究の社会的インパクトを強調しました。

用語

※1 特異項目機能(DIF):同じ強さの意見を持つ個人でも、ある意見を測定する同一の項目を提示したとき、その項目を肯定する確率が異なること。

※2 空間分析:イデオロギーや社会的立場などに対応する意味をもった複数の次元によって構成される空間上に、政策や政党、議員などの任意の対象を配置して分析すること。

論文情報

雑誌名

Journal of Japanese Political Studies

論文タイトル

Party Switching and Policy Disagreement: Scaling Analysis of Experts’ Judgement

著者

Tomoko Matsumoto, Kentaro Yamamoto, Hiroki Kubo

DOI

10.1017/S1468109922000160

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