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2022.01.13 Thu UP

脳動脈瘤の発生要因を世界で初めて発生前のデータから流体力学的に解析
~血流による血管壁への引張力とエネルギー損失が影響~

東京慈恵会医科大学
東京理科大学

東京慈恵会医科大学 脳神経外科 村山雄一 教授と東京理科大学 工学部 機械工学科 藤村宗一郎 日本学術振興会特別研究員PDらによる共同研究グループは、脳動脈瘤の形成過程について新たに動脈瘤発生前の患者データから流体力学的手法で解析を行い、血流による血管壁への引張力とエネルギー損失が影響している可能性を示しました。

脳動脈瘤は脳血管の一部がコブ状に膨らむ病気で、破裂すると発症者の約3分の1が亡くなるくも膜下出血を引き起こします。脳動脈瘤は脳ドックなどで破裂前の状態が偶然発見されることもありますが、発生前の状態に関する情報は殆ど得ることができず、原因については多くの部分が不明となっています。

今回、過去15年以上に渡る定期検診のデータから、初回検査では脳動脈瘤がなく途中から発生が認められた患者10名のデータと、動脈瘤発生が認められなかった34例のデータについて、コンピュータ・シミュレーションによる流体力学的な解析を行い比較しました。その結果、動脈瘤が発生した箇所には血流による血管壁への高い引張力と大きなエネルギー損失がもたらされていたことが判明し、発生要因としてこれら両者が影響している可能性が示唆されました。

将来的にはコンピュータ・シミュレーションにより脳動脈瘤発生が予測可能となることが期待され、脳ドック等における世界初の脳動脈瘤発生リスク予測として社会実装を目指します。
本研究成果は2021年12月22日にJournal of Neurosurgery誌オンライン版に掲載されました。

メンバー:
・東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 教授 村山雄一
・東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 先端医療情報技術研究部 訪問研究員 / 東京理科大学 工学部 機械工学科 日本学術振興会特別研究員PD 藤村宗一郎

お問い合わせ

【本研究内容についてのお問い合わせ先】

東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 教授 村山雄一 電話 03-3433-1111(代)

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E-mail:koho【@】jikei.ac.jp  TEL: 03-5400-1280

東京理科大学 広報部 広報課
E-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp TEL:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823

【@】は@に置き換えてください。

研究の詳細

1. 背景

脳動脈瘤は脳血管の一部がコブ状に膨らむ病気であり、破裂すると発症者の約3分の1が亡くなるくも膜下出血を引き起こす。脳動脈瘤の発生には血管内皮細胞における炎症反応の他に、血流の衝突等によって生じる血行力学的要因が関与しているとされている。コンピュータ・シミュレーションの一種である数値流体力学 (CFD: Computational Fluid Dynamics)解析により血流を解析することで、脳動脈瘤の発生機序を解明しようとする先行研究は行われてきた。しかしながら、その多くは、既に発生した脳動脈瘤を人為的に削除するなどして、脳動脈瘤発生前の血管を人工的に再現しており、再現性という点で大きな疑問が残るものであった(脳動脈瘤発生前の形状を正確に再現できている保証が無いため)。そこで、本研究では定期検診中に脳動脈瘤が発生した症例に対するCFD解析を実施し、脳動脈瘤の発生に関与する血行力学的因子を明らかにすることを目的とした。

2. 手法

2003年1月から2018年12月にかけて診断治療を行った患者のうち、定期検診中に新たな脳動脈瘤の発生を確認した計10名を特定した。この10名に対し、脳動脈瘤発生前に撮影した画像をもとにCFD解析を実施してDeNovo群とした。一方、経過観察期間がDeNovo症例より長く(平均約9年)、その間に新たな脳動脈瘤が発生しなかった10名の脳血管に対するCFD解析を実施し、得られた計34箇所の解析結果をControl群とした。血管壁面の引張力を評価するWSSD (Wall Shear Stress Divergence)及びエネルギー損失を評価するPLc (Pressure Loss coefficient)に対し、DeNovo群とControl群の間で統計学的な比較を行った。

3. 成果

すべてのDeNovo症例において、脳動脈瘤の発生箇所とWSSDの値が高い(上位5%)領域が一致しており、脳動脈瘤の発生には高い引張力が作用していることが示された。また、DeNovo症例群のPLcはControl群と比較して統計学的に優位に高かった(p<0.01)。血流の衝突、あるいは渦を伴う二次的な流れが、血管壁に作用する高い引張力と高い圧力損失をもたらしていた。脳動脈瘤は血管の引張力及び圧力損失の両者が大きい部分で発生する可能性が示唆された。

4. 今後の応用、展開

現在、ラットを用いた動物実験モデルで同様の現象が見られるかについて検証中である。理論が確立されれば、将来的に、脳ドック等の現場においてこの技術を適用していくことで、脳動脈瘤が発生する前であっても、CFD解析の実施により脳動脈瘤の発生を予測できるようになる可能性がある。

5. 脚注、用語説明

数値流体力学 (CFD: Computational Fluid Dynamics)解析:コンピュータを用いて液体や気体などの流れを解析するシミュレーション技法の一種

WSSD (Wall Shear Stress Divergence):壁面が流体の流れによって受ける摩擦力をWSS (Wall Shear Stress)と呼ぶ。WSSDはWSSの発散を評価しており、WSSの方向が広がる(引張られる)場所では高くなる。

PLc (Pressure Loss coefficient):血液がある領域を通過する際に損失したエネルギーを評価したパラメータ。流れが乱れるなどしてエネルギーの損失が大きいと高い値を示す。

研究室

山本研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/~yamamoto/indexj.html

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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