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2021.02.17 Wed UP

メソ多孔性酵素電極とマイクロ流体デバイスを用いて汗中乳酸の連続測定用バイオセンサを開発
~健康管理・トレーニング最適化用ウェアラブルデバイスとしての展開に期待~

研究の要旨とポイント
  • ● 酸化マグネシウムを鋳型として作製されるメソ多孔性炭素は、酵素など巨大分子を吸蔵可能であり、かつ溶媒への高い分散性を示す新規多孔性炭素材料として注目されています。
  • ● メソ多孔性炭素のスクリーン印刷とその表面への乳酸酸化酵素の固定化によって作製した酵素電極と、生体適合性の高い素材を用いて作製したマイクロ流体デバイスを組み合わせて、汗中乳酸測定を連続的に行える非侵襲的・非刺激性バイオセンサの開発に成功しました。
  • ● スポーツ選手や消防士などのトレーニング管理、一般向けの運動プログラム最適化などに用いることが可能な小型・軽量ウェアラブルデバイスとしての今後の展開が期待されます。

東京理科大学理工学部先端化学科の四反田功准教授、大学院理工学研究科先端化学専攻修士課程2年の三本将也氏、理工学部先端化学科のNoya Loewポストドクトラル研究員らの研究グループは、メソ多孔性炭素材料のスクリーン印刷と乳酸酸化酵素の固定化によって作製したメソ多孔性酵素電極と、生体適合性の高い素材を用いたマイクロ流体デバイスを組み合わせて、汗中乳酸濃度を連続的にモニタリングできる非侵襲的・非刺激性バイオセンサを開発することに成功しました。

本研究の成果は、スポーツ選手や激しい作業を伴う職務に就く消防士などのトレーニング、病気や怪我からの社会復帰を目指したリハビリテーション、一般向け健康維持用運動プログラムなどの管理・最適化に用いることが可能なウェアラブルデバイスとして今後展開されることが強く期待されます。

研究の背景

ジョギングなど強度の軽い運動においては、体内では細胞質における解糖系(グルコースを消費してエネルギーを生産)で生じたピルビン酸がミトコンドリアに入り、そこでクエン酸回路・電子伝達系で酸素を消費しながら比較的遅い速度でエネルギー生産が行われます(有酸素運動)。一方、400メートル走など運動強度の高い状態では、迅速にエネルギー生産を行う必要から主に速度の大きな解糖系のみでエネルギー生産が行われます(無酸素運動)。解糖系で生じたピルビン酸は無酸素運動下においては乳酸に変換され、結果として多量の乳酸が生産されて血中乳酸濃度も上昇することが知られています。そのためアスリートのトレーニング管理の目的で、運動前後の血液を採取して乳酸濃度を測定し、有酸素運動と無酸素運動の境となる乳酸性閾値(無酸素性作業閾値)を測定して効果的なトレーニングプログラムを設計することなどが行われています。また、血液中の乳酸濃度と汗中の乳酸濃度の相関が最近知られるようになり、汗を用いた非侵襲的な乳酸濃度測定の試みについても、いくつかのグループから報告されています。それらの多くは、乳酸酸化酵素をカーボンナノチューブなど炭素電極に固定化させた酵素電極を用いて汗中の乳酸濃度を電気化学的に測定する設計となっていますが、電極を皮膚に直接当てる設定になっており、長時間の装着でも皮膚に刺激の少なく、かつ汗を測定部に効率的に集め、さらには運動の妨げにならない小型・軽量デバイスが求められていました。

四反田准教授の研究グループでは、酸化マグネシウム(MgO)微粒子を鋳型として作製されるメソ多孔性炭素(MgOC)がタンパク質・酵素など巨大分子をその細孔に吸蔵できることに着目して、昨年、バイオ燃料電池を志向した酵素電極(末端にグリシジル基を持つポリマーを MgOC の表面でグラフト重合させた GMgOC を作製し、共有結合によりグルコース脱水素酵素を固定化)の作製について報告しました(Bull. Chem. Soc. Jpn. 2020, 93, 32-36)。今回、同様の手法を乳酸酸化酵素に適用することで汗中乳酸濃度モニタリング用ウェアラブルデバイスの開発につながるという着想のもと、MgOC、GMgOC の溶媒への高い分散性に着目したスクリーン印刷、その表面への乳酸酸化酵素の固定化による酵素電極作製、そして三電極式センサおよび生体適合性の高いポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたマイクロ流体デバイスそれぞれの設計・作製を行い、電気化学的測定による評価を行いました。

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研究結果の詳細

本研究ではまず、スクリーン印刷した MgOC と GMgOC のそれぞれに乳酸酸化酵素を固定化した電極をそれぞれ作製し(前者は物理的吸着による固定化、後者は化学反応による固定化)、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定をそれぞれ10サイクル行いました。結果として前者は酵素が徐々に遊離することにより応答電流が約30%低下した一方、後者は電流応答がほぼ一定の挙動を示し、酵素電極としての高い安定性を持つことが分かり、乳酸酸化酵素の場合においても GMgOC の高い有用性が示されました。次に GMgOC をベースとした酵素電極を用いて、バッチ型の反応系で乳酸濃度と応答電流をそれぞれプロットすることで、検出可能な乳酸濃度範囲について検討したところ、乳酸濃度が低い場合には濃度に比例して応答電流が増加し、乳酸濃度が高くなるほど徐々に増加率が低下しつつ応答電流が最大値に収束するというミカエリス・メンテン型の挙動を示し、最大100 mMの濃度範囲まで再現性高く検出可能であることが分かりました。

次に、GMgOC をベースとした酵素電極を作用極、炭素電極を対極、銀電極を参照極とした三電極式センサ(3つの電極ともスクリーン印刷で作製)とPDMSで作製したマイクロ流路を組み合わせたデバイスを人工汗腺と接触させて、乳酸を含むリン酸緩衝液(pH 7.0)を80 μL/minまたは20 μL/minの流速で流しながら応答電流を測定したところ、乳酸濃度の切り替えから応答電流の安定化まで2分(80 μL/minの場合)および6分(20 μL/minの場合)と比較的短時間の応答挙動を示しました。また、乳酸濃度が10 mMまでは乳酸濃度にほぼ比例した応答電流の増加を示し、最大検出可能濃度は50 mMでした。一般的に有酸素運動時の汗中乳酸濃度は4~25 mM、無酸素運動時は50~100 mMと報告されていることから、本研究で開発したバイオセンサは有酸素運動と無酸素運動の間での変化を検出するという目的を十分果たせる機能を有すると言えます(乳酸濃度50 mMまでは濃度上昇に伴って応答電流も増加し、50 mM以上の場合は応答電流が最大値でほぼ一定を示す)。また、本研究においては電極材料を全てスクリーン印刷によって作製していることから、産業化における大量生産にも対応可能という利点も持ちます。

四反田准教授は本研究の今後の展開について、「現在、本センサを着装した実装試験を行っています。このセンサはスポーツ向け、一般健常者の健康管理、熱中症検知などへの応用が期待できます。」と話しています。

※ 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」(JPMJTS1513)、日本学術振興会科研費「基盤研究(B)」(17H02162)、文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」、東京理科大学「学長特別研究推進費(分野横断・連携枠)」の助成を受けて実施したものです。

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論文情報

雑誌名 Electrochimica Acta
論文タイトル Continuous sweat lactate monitoring system with integrated screen-printed MgO-templated carbon-lactate oxidase biosensor and microfluidic sweat collector
著者 Isao Shitanda, Masaya Mitsumoto, Noya Loew, Yuko Yoshihara, Hikari Watanabe, Tsutomu Mikawa, Seiya Tsujimura, Masayuki Itagaki, Masahiro Motosuke
DOI 10.1016/j.electacta.2020.137620

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板垣・四反田研究室
研究室のページ:http://islab.ca.noda.tus.ac.jp/
四反田准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?380c

東京理科大学について
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