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2020.08.06 Thu UP

青年期から老年期における自尊心の年齢差を解明
~年齢が高いほど、自尊心が高い~

研究の要旨とポイント
  • ●16歳の青年から88歳の高齢者6,113名を対象に、自分自身に対する全体的な評価である自尊心を測定し、その年齢差の傾向を分析しました。
  • ●分析の結果、年齢が高い人ほど自尊心が高く、この傾向に性別や調査時期・自尊心の構成要素(自己好意・自己有能感)による違いはほとんど見られませんでした。
  • ●欧米における先行研究とは異なり、50代以降で自尊心が低いという傾向は見られず、自尊心の発達的軌跡が文化によって異なる可能性を示唆しています。
  • ●様々な心理・行動傾向や心理的帰結との関連が示されている自尊心と年齢の関係を検討した基礎的な知見を提供しており、関連研究や実践への幅広い応用が期待されます。

東京理科大学理学部第二部教養の荻原祐二嘱託助教と京都大学大学院教育学研究科の楠見孝教授は、青年期から老年期における自尊心の年齢差について大規模な調査を実施し、年齢が高い人ほど自尊心が高いことを解明しました。

日本の16歳の青年から88歳の高齢者における自尊心(自分自身に対する全体的な評価)の年齢差について検討しました。自尊心は自己好意(自分自身を受け入れられるという感情的判断)と自己有能感(自分自身が有能で効力があると認められる感覚)で構成されていますが、先行研究では自己好意が小学生で高く、中学生・高校生で低く、その後60代まで年齢が高いほど自己好意が高いことが示されていました。しかし、自尊心の両側面を含めた年齢差は検討されていませんでした。また、70歳以上の高齢者の自尊心についても十分には検討されていませんでした。

そこで、日本における自尊心の発達的軌跡を解明するため、70代と80代の高齢者を含む、大規模かつ多様なサンプルを対象に、自尊心の両側面を測定した6つの調査を分析しました。

その結果、日本の先行研究と一致し、自尊心は青年で低く、その後高齢者まで、年齢が高いほど自尊心も高くなっていました(図参照)。この傾向に性別や調査時期・自尊心の構成要素(自己好意・自己有能感)による違いはほとんど見られませんでした。一方で、欧米における先行研究とは異なり、50代以降で自尊心が低いという傾向は見られませんでした。これらの結果は、自尊心の発達的軌跡が文化によって異なる可能性を示唆しています。

自尊心は、他の心理・行動傾向や心理的帰結との関連が示されている基礎的な心理傾向のひとつですので、今回の研究が、様々な領域の関連研究や、予防・介入を含めた実践に幅広く貢献することが期待されます。

研究の背景

自尊心は、生涯を通して常に一定ではなく、発達と共に変化します。これまでアメリカを中心に多くの研究が行われ、自尊心は児童期に高く、青年期に低下し、成人期に上昇し続け、50代・60代頃にピークを迎えてその後低下することが示されています。日本においても、自尊心の一要素である自己好意が、児童期から60代まで同様の年齢差を示すことが報告されています。

しかし、日本における自尊心の年齢差を検討した先行研究には主に二つの限界点がありました。第一に、先行研究は自尊心の一要素である自己好意を用いて主に検討しており、自尊心を包括的に検討していませんでした。自尊心の発達的軌跡を解明するためには、自己好意と自己有能感の両側面を同時に含んだ包括的な検討が重要です。

第二に、先行研究は70歳以上の自尊心については十分に検討できていませんでした。日本では、69歳まで自尊心が低下しない可能性が指摘されていましたが、自尊心の低下が70歳以降に見られるかもしれません。また、自尊心の低下そのものが、日本では見られない可能性もあります。自尊心の高低が文化によって異なることは一貫して報告されてきましたが、発達的軌跡の傾向が異なることは十分に報告されていませんでした。よって、日本における自尊心の発達的軌跡を明らかにするためには、70歳以降の高齢者の自尊心についても検討することが必要です。

したがって本研究では、70歳以上の高齢者も含めたより幅広いサンプルを対象に、自己好意と自己有能感を両方含めた自尊心の年齢差について包括的に検討しました。

研究結果の詳細

多様で大規模なサンプルを対象に、2009年から2018年に日本で行われた、6つの調査を分析しました。調査はウェブ上で実施し、16歳から88歳までの6,113名(男性2,996名、女性3,117名)から回答を得ました。各調査には、自尊心を測定するために最も利用される自尊心尺度(10項目)を用いました。例えば、自己好意を測定する項目として「全体的に私は自分自身に満足している」、自己有能感を測定する項目として「私は自分が多くの長所を持ち合わせていると思う」が含まれていました。参加者は、これらの項目に「1: あてはまらない」から「5: あてはまる」の5段階で回答しました。

分析の結果、自尊心は青年で低く、成人から高齢者まで徐々に高くなっていました(図参照)。青年期から中年期までの変化は欧米の先行研究と一致していましたが、先行研究とは異なり、50代以降でも自尊心は低下していませんでした。よって本研究は、自尊心の発達的軌跡が文化によって異なる可能性を示唆しています。

欧米における中年期以降の自尊心の低下の一因として、自分の誤りや限界を認めるなど、自己に対する謙虚な見方を取るようになることが挙げられています。一方日本では、人々は中年期以前から自己に対する謙虚な態度を表明することが報告されています。そのため、自尊心の低下が見られなかった可能性があります。他にも、年功序列制度や敬老の文化など、文化差を生み出し得る要因について今後詳細に検討を行う必要があります。

今回の研究は、ある一時点における様々な年齢層の人々を対象に横断的に行われた調査を分析したものであり、分析した年齢差には発達的な変化だけでなく、世代による違いも含まれています。この世代の効果により、日本において中年期以降で自尊心の低さが見られない可能性もあります。今後は、そうした発達的な変化と世代差を切り分けるために、同じ世代の人々を追跡し続ける縦断的な調査を行うなど、更なる検討が求められます。

また、80代のサンプルサイズが小さいため、より多くのデータを収集して分析することや、ウェブ調査以外の方法でも同様の結果が得られるかを検証するなど、更なる研究が求められます。

自尊心の年齢差・発達的軌跡を検討することには、上記のような学術的・理論的意義だけでなく、実践的・社会的な意義も備えています。例えば、自尊心が低くなりやすい時期を把握することで、必要に応じて効果的な予防・対策、そして介入・対応を可能にすることに貢献します。基礎的な心理傾向のひとつである自尊心の年齢差を解明した今回の研究は、様々な領域の関連研究だけでなく、予防・介入を含めた実践にも幅広く貢献することが期待されます。

※ 本研究は、日本グループ・ダイナミックス学会の助成を受けて実施したものです。

青年期から老年期における自尊心の年齢差を解明~年齢が高いほど、自尊心が高い~

日本における自尊心得点の予測値(2017年調査の結果; エラーバーは95%信頼区間)

論文情報

雑誌名 Frontiers in Public Health
論文タイトル The Developmental Trajectory of Self-Esteem Across the Life Span in Japan: Age Differences in Scores on the Rosenberg Self-Esteem Scale From Adolescence to Old Age
著者 Yuji Ogihara and Takashi Kusumi
DOI 10.3389/fpubh.2020.00132
論文リンク https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2020.00132/full

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発表者荻原祐二 東京理科大学 理学部第二部 教養 嘱託助教 <筆頭著者 兼 責任著者>
楠見孝  京都大学大学院 教育学研究科 教授※ 報道原稿のうち、研究内容の事実関係および取材時の発言内容に該当する部分の正確性について、公表前に確認させて頂くことができますと大変幸いです。

荻原 祐二 助教
大学公式ホームページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6fd9
個人ホームページ:https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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