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2020.06.09 Tue UP

破骨細胞への分化を促進するRNA結合タンパク質を同定
~骨や関節の疾患における病態解明や治療薬開発につながる可能性~

研究の要旨とポイント
  • ●骨の恒常性を維持するための骨リモデリングにおいて重要な役割を担っている破骨細胞への分化が、RNA結合タンパク質の一種Cpeb4によって促進されることを見出しました。
  • ●前駆細胞から破骨細胞への分化については、活性化因子やシグナル経路など明らかになってきていますが、分化のメカニズムについては不明な点が多く残されています。
  • ●本研究で得られた知見を活かして、骨・関節疾患における病態の解明や、治療薬の開発につながることが期待されます。

図_破骨細胞への分化を促進するRNA結合タンパク質を同定~骨や関節の疾患における病態解明や治療薬開発につながる可能性~

東京理科大学大学院薬学研究科修士課程2年生の荒崎恭弘大学院生と同薬学部生命創薬科学科の早田匡芳准教授らの研究グループは、東京医科歯科大学、帝京大学との共同研究により、「細胞質ポリアデニル化エレメント結合タンパク質(CPEB)」というRNA結合タンパク質のうちCpeb4が、破骨細胞の分化において欠かすことのできない重要な促進因子であることを明らかにしました。

骨は、常に破壊と再生がバランス良く行われることによって、全体として形状、量、密度、強度など恒常性が維持されています。骨の破壊を担っているのが破骨細胞で、骨基質を溶かして吸収します。破骨細胞によって吸収・除去された部分を新たに埋め戻すのが骨芽細胞です。この一連の流れを骨リモデリングと呼びます。破壊と再生のバランスが崩れると骨粗鬆症や関節リウマチなどの病気につながることが分かっており、そのメカニズムを詳細に明らかにすることは大変重要な研究課題となっています。

破骨細胞の前駆細胞(骨髄由来の単球・マクロファージ系)は、その表面に膜貫通タンパク質「RANK」を発現しており、骨細胞や骨芽細胞の表面に発現している膜貫通タンパク質「RANKL」が結合することで活性化され、破骨細胞に分化することが分かっています(いくつかの前駆細胞が融合して多核細胞になります)。一般に細胞の分化には、前駆細胞の核にあるDNAから新たに遺伝子が発現される必要があり、まず遺伝情報は核内にてメッセンジャーRNA(mRNA)として転写され、核外にてタンパク質として翻訳されます。破骨細胞への分化において、RANKLによる活性化を起点に様々なシグナル経路や転写因子が分かってきていますが、転写後制御を介した詳細な分化のメカニズムはほとんど明らかになっていません。

本研究の成果は、骨や関節の病気における病態解明や、より効果的な治療薬の開発につながる可能性があり、ひいては今後の超高齢化社会における生活の質(QOL)の向上に寄与すると期待されます。

研究の背景

一般に、遺伝情報が転写されたmRNAは、核外の細胞質に輸送され、そこで翻訳されてタンパク質が生産されます。その過程ではmRNAの核外輸送や分解からの保護、翻訳などを可能にするため様々な調節因子が関わっています。早田准教授らの研究グループではすでに、mRNAの翻訳を調節する因子であるマイクロRNA(miRNA)の合成酵素の一種が破骨細胞への分化を促す調節を行っていることや、mRNA鎖の末端に存在してmRNA鎖を分解から保護する役割を持つ「ポリA鎖」の分解酵素の一種がmRNAの分解を促し、結果として破骨細胞への分化を抑制する調節を行っていることなど、破骨細胞への分化に関わる様々な調節因子の一端を明らかにしてきました。

ある種のポリA鎖分解酵素複合体は、mRNAを取り巻く色々なタンパク質と相互作用していることが知られているため、それらのタンパク質も破骨細胞への分化に関して何らかの役割を担っている可能性があります。その中の一つである「細胞質ポリアデニル化エレメント結合タンパク質(CPEB)」はRNA鎖の安定性に寄与するRNA結合タンパク質で、mRNAの翻訳の活性化や抑制、核内でのRNA鎖の選択的スプライシング(遺伝情報を含まない部分の切り捨てを選択的に行うこと)に関わるなど多くの機能を持つタンパク質ですが、破骨細胞への分化でどのような役割を担っているかは明らかになっていませんでした。

研究結果の詳細

CPEBには4種類(Cpeb1、Cpeb2、Cpeb3、Cpeb4)のファミリーが存在することが知られています。本研究ではそれぞれが破骨細胞分化に関係するかどうかを検討するため、マウス由来マクロファージ様細胞RAW264.7、マウス骨髄由来マクロファージBMMをそれぞれ用いて、RANKLによる刺激から0~4日後のそれぞれの遺伝子発現を定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)によって分析し、タンパク質をイムノブロット法により検出しました。その結果、4つのうちCpeb4のみが分化後期に発現量の増加を示すことが分かり、Cpeb4が破骨細胞分化に何らかの役割があると推定されました。

Cpeb4の細胞内分布を明らかにするため免疫蛍光法による分析を行ったところ、RANKLによる刺激のないRAW264.7細胞ではCpeb4は細胞質のみに分布しているのに対して、RANKLによる刺激から9時間後には、細胞質に加えて一部が核内に移動し、球状や楕円形状に局所的に分布することが示されました。核内で局在化する場所としては、よく知られているクロマチン間顆粒群やカハール体である可能性は否定されたため不明確ではありますが、上述のCPEBのRNA結合タンパク質としての役割や、核内における選択的スプライシングの役割を考慮に入れると、Cpeb4も核内においてmRNAの選択的スプライシングに関わっている可能性があります。RANKLによる刺激後、上述のCpeb4の遺伝子発現の増加(2日後)よりもかなり早い段階の9時間後には一部が核内へ移動することは、RANKLによる刺激が最終的にはCpeb4のさらなる増加を促して破骨細胞への分化の過程の最終段階(おそらく前駆細胞同士の融合)に寄与すると示唆される一方、その前にすでに細胞質に存在しているCpeb4の一部が核内に移動して核内で(mRNAへの転写に関わる)何らかの役割を担っていると考えられます。

このCpeb4の核内への局在化に関わるシグナル経路を調べるために、RANKLによって活性化されることがすでに知られている分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK・JNK)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/プロテインキナーゼB(PI3K-Akt)、カルシウム依存性T細胞活性化転写因子(NFAT)のそれぞれのシグナル経路を阻害する阻害剤をRANKLと共にRAW264.7細胞に与えて培養した結果、MAPK経路の阻害剤以外ではCpeb4の核内への移動が強く阻害されると分かりました。すなわちCpeb4の核内への移動は、PI3K-Akt経路およびNFAT経路に依存すると示されました。一般的にタンパク質の核内への移動にはタンパク質のリン酸化が伴います。そしてAkt経路はタンパク質のリン酸化に関わっていると知られており、通常はリン酸化から数十分以内でタンパク質の核内への移動が起こります。今回、Cpeb4についてRANKLによる刺激から9時間が必要だったことから、何らかの前段階のステップがあると類推されるものの、これらのシグナル経路によるCpeb4の核内への移動のプロセスが強く示唆されました。

次に遺伝子サイレンシング(遺伝子発現のスイッチを切る)のために使用されるshRNA(短鎖ヘアピンRNA)を導入してCpeb4の発現を抑制したRAW264.7細胞を用いたところ、破骨細胞への分化が劇的に抑制されるという結果となり、Cpeb4が前駆細胞から破骨細胞への分化に必須であることが確認されました。また、破骨細胞への分化に伴って発現する数種類の遺伝子発現をマーカーとして分析したところ、Cpeb4発現を抑制したRAW264.7細胞においてはRANKLによる活性化と関係する遺伝子発現は全て抑制されました。すなわち、Cpeb4の存在がRANKLによって活性化される破骨細胞分化へのシグナル経路に必須であることが分かりました。研究グループでは今後、Cpeb4の細胞質、核それぞれにおける詳細な役割と破骨細胞への分化メカニズムを解明することを目指して研究を続けています。

早田准教授は今回の成果について、「Cpeb4が破骨細胞分化を促進する詳細なメカニズムが今後さらに明らかになれば、骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨や関節の病気の病態の解明につながり、さらにはこれらの病気に対する治療薬の開発が期待されます。特に骨粗鬆症に悩む高齢者にとってQOLの向上につながる可能性があるのではないかと考えています」と話しています。

※本研究は、日本学術振興会科学研究費の基盤研究C(18K09053)、東京医科歯科大学難治疾患共同研究拠点活動の支援(2019年)、中冨健康科学振興財団研究助成、アステラス製薬株式会社アステラスアカデミックサポート、ファイザー株式会社Academic Contributions、第一三共株式会社第一三共奨学寄付プログラム、帝人ファーマ株式会社医学・薬学に関する研究活動への支援、日本イーライリリー株式会社教育・研究助成金制度、大塚製薬株式会社学術研究支援、塩野義製薬株式会社奨学寄附サポート、中外製薬株式会社研究活動への支援の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名 Biochemical and Biophysical Research Communications
論文タイトル The RNA-binding protein Cpeb4 is a novel positive regulator of osteoclast differentiation
著者 Yasuhiro Arasaki, Masamichi Li, Takuro Akiya, Iori Nozawa, Yoichi Ezura, Tadayoshi Hayata
DOI 10.1016/j.bbrc.2020.05.089

早田研究室
早田准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?7014
研究室のページ:https://sites.google.com/view/thehayatalab/home

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