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新型コロナウイルス治療薬候補となる既承認薬の発見
~ネルフィナビルとセファランチン薬剤併用による新型コロナウイルス排除効果~
研究の要旨
東京理科大学大学院理工学研究科応用生物科学専攻 渡士幸一客員教授のグループは、国内外25研究室・プロジェクトの共同研究により、国立感染症研究所で開発されたウイルス培養技術を利用して、既承認薬より新型コロナウイルス増殖を効果的に排除する多剤併用を見出しました。
研究の背景
今般、中国武漢に端を発する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2020年4月20日時点で世界213の国/地域で、220万人以上の感染者、15万人以上の死亡者(WHO)をもたらしています。現在なお世界で人的、社会的、経済的に大きな損害を与えるこの新興感染症の制圧は人類喫緊の課題となっています。新規治療薬・ワクチンの開発には相応の時間を要することから、既になんらかの疾患に対して承認されている治療薬を利用してCOVID-19に対する治療法を見出すことが今まさに求められています。
研究成果の概要
東京理科大学大学院理工学研究科応用生物科学専攻 渡士幸一客員教授(国立感染症研究所ウイルス第二部主任研究官)、大橋啓史ポストドクトラル研究員(国立感染症研究所ウイルス第二部協力研究員)らのグループは、国立感染症研究所ウイルス第三部、同第一部、同感染病理部、同エイズ研究センター、東京理科大学薬学部生命創薬科学科、九州大学、産業技術総合研究所、筑波大学、長浜バイオ大学、奈良先端科学技術大学院大学、インディアナ大学、国立国際医療研究センター、北海道大学、東京大学、オックスフォード大学等との共同研究により、COVID-19の原因となる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を培養細胞から効果的に排除できる薬剤を見出しました。
研究グループは国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスと、これを実験室で感染増殖できる培養系技術を利用し、既になんらかの疾患に対して臨床で使用認可されている約300の承認薬のウイルス増殖への効果を検証しました。調べた承認薬の中で5剤がウイルス増殖による細胞傷害を抑えることを見出し、この中から特にネルフィナビル、セファランチンに着目しました。
ネルフィナビルは抗HIV(ヒト免疫不全ウイルス)治療薬、セファランチンは白血球減少症や脱毛症、マムシ咬傷にもともと使用される薬剤です。これらはそれぞれ感染細胞から放出されるウイルスRNAを1日で最大0.01%以下にまで強く減少させ、現在治療薬候補となっているロピナビルやクロロキン、ファビピラビルよりも強い活性を持っていました。またネルフィナビルとセファランチンの併用により、1日で感染細胞からのウイルスを検出限界以下に排除することができました。
作用機序としては、薬剤ドッキングシミュレーションによって、ネルフィナビルは新型コロナウイルス複製に必須のメインプロテアーゼ、セファランチンはウイルスと細胞の吸着に必要なウイルススパイクタンパク質にそれぞれ結合する可能性が示されました。
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薬剤併用によって強い抗ウイルス活性が示されましたので、実際に臨床で使用される投与量でどの程度ウイルス排除に有効かを数理解析で予測しました。その結果今回の解析では、ネルフィナビル(経口投与)単独治療で累積ウイルス量が約9%に減少し、ウイルス排除までの期間が約4日短縮されました。またネルフィナビル(経口投与)とセファランチン(点滴投与)の併用治療ではさらに効果が増強し、累積ウイルス量が約7%に、ウイルス排除までの短縮期間が約5.5日となりました。
ちなみに、セファランチンはツツラフジ科植物であるタマザキ(玉咲)ツツラフジ(Stephania cephalantha Hayata)やコウトウツズラフジ(Stephania sasakii Hayata)、ハスノハカズラ(Stephania japonica)などの根に含有されているアルカロイドで、白血球減少症などの治療に使われています。1934年、つまり今から80年以上前に、日本の薬学者である近藤平三郎によって抽出、単離されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、同創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)等の支援を受けておこなわれたものです。
今後の展望
このように今回の結果は、ウイルス感染実験、インシリコ解析、数理解析など様々な技術を用いることにより、COVID-19に対する新たな治療法を提案し、ウイルスの新規伝播の抑え込みに有用な知見を提供するものです。
論文情報
BioRxiv | ||
---|---|---|
論文タイトル | : | Multidrug treatment with nelfinavir and cepharanthine against COVID-19 |
著者 | : | Hirofumi Ohashi, Koichi Watashi, Wakana Saso, Kaho Shionoya, Shoya Iwanami, Takatsugu Hirokawa, Tsuyoshi Shirai, Shigehiko Kanaya, Yusuke Ito, Kwang Su Kim, Kazane Nishioka, Shuji Ando, Keisuke Ejima, Yoshiki Koizumi, Tomohiro Tanaka, Shin Aoki, Kouji Kuramochi, Tadaki Suzuki, Katsumi Maenaka, Tetsuro Matano, Masamichi Muramatsu, Masayuki Saijo, Kazuyuki Aihara, Shingo Iwami, Makoto Takeda, Jane A. McKeating, Takaji Wakita |
DOI | : | 10.1101/2020.04.14.039925 |
お断り:現在、学術雑誌へ投稿されたCOVID-19に関する論文は審査前にpreprintとして"BioRxiv"サーバへ登録、公開されるよう推奨されています。今後、学術雑誌での審査により論文内容や記載の一部が修正される可能性があります。
Newsweekのwebsiteでも紹介されました(2020年4月17日)。
https://www.newsweek.com/nelfinavir-cepharanthine-laboratory-tests-coronavirus-1498512
東京理科大学大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻
客員教授 渡士 幸一
Tel: 03-5285-1111(国立感染症研究所)
e-mail:kwatashi[@]nih.go.jp
※[@]を@に変更してください。
東京理科大学 理工学部 応用生物科学科
教授 倉持 幸司
Tel:04-7124-1501(東京理科大学野田キャンパス)
e-mail:kuramochi[@]rs.tus.ac.jp
※[@]を@に変更してください。
倉持研究室
研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/kuramoch/
倉持教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?3bd3
東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
ABOUT:https://www.tus.ac.jp/info/index.html#houjin
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