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2019.11.19 Tue UP

機械学習を用いた太陽光発電所の異常検知
~正常時の太陽電池パネルの電圧データを収集するだけで高精度な検知が可能~

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東京理科大学
太陽誘電株式会社

研究の要旨とポイント

東京理科大学理工学部電気電子情報工学科の片山昇講師と、大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程の五井雅登は太陽誘電株式会社との共同研究により、太陽光発電所の異常を機械学習によって検知する技術を開発しました。本技術では、太陽光発電所が正常に発電している一定期間蓄積された一部の太陽電池パネルの電圧データ(太陽誘電株式会社の製品であるPV無線ストリング監視システム"solmivTM"を使用して収集*2)のみを学習することで、高精度の異常検知を実現します。この技術により従来は正確に検知することが難しかった太陽電池パネルのガラス割れなどによる非常に小さな発電量低下を検知することが可能になります。従来の異常検知では日射量や温度から算出される発電量の予測値と実際の発電量を比較することによって、異常の有無を判定していたため、実際の発電量と予測値のずれなどが原因で誤検知や検知不良が発生することが問題となっていました。機械学習を用いてデータの正常と異常を分別するためには一般的には正常時と異常時それぞれのデータが大量に必要でした。本技術では正常時のデータのみによって学習ができるOne-Class Support Vector Machineという機械学習のアルゴリズムを採用し、独自のデータ処理を施すことよって精度の向上に加えて、異常が起きているストリング*1の推定も実現しました。本技術により、太陽光発電所の異常の早期発見や、誤検知低減による保守コストの削減に貢献することが期待されます。

*1ストリング: 太陽電池パネルが直列に接続されたもの。一般的な太陽光発電所では複数のストリングがさらに並列接続されていることが多い。

*2「solmiv」(https://www.yuden.co.jp/jp/solutions/pv/system/)は日本およびその他の国における太陽誘電株式会社の登録商標または商標です。

【研究の背景】

近年、世界的に太陽光発電の導入が進み、日本国内でも固定価格買取制度により急速に普及しています。それに伴い、発電所の不具合の事例も増加傾向にあり、想定していた発電量が得られず設置にかかった費用が回収できないケースが発生するなど問題となっています。このような背景から太陽光発電所における異常の早期発見に大きな関心が寄せられています。太陽光発電所では現場で定期的な点検が実施されるほか、時間ごとの実際の発電量をその時間の日射量や温度から算出される予測値と自動で比較することで、異常の有無を遠隔で監視するなどの手法が一般的には採用されています。しかしながら、実際の発電量と予測値には誤差があるため、誤検知が頻繁に発生しないように異常判定の閾値を低めに設定することなどが原因で、僅かな異常の検知不良が発生することが問題となっていました。特に太陽電池パネル表面のガラス割れは比較的頻繁に発生し、雨水が入ることで大きな故障に繋がる可能性があるものの、ガラス割れそのものは発電量を直接的に大きく低下させるものではないため、自動で検出することは難しく、現場で点検員が目視で確認する方法しかありませんでした。

【研究成果の概要】

太陽誘電株式会社の製品であるsolmivTMでは、太陽光発電所の各ストリング中の一枚ずつの太陽電池パネルに対して監視ユニットを取り付け無線通信によって電圧データを収集することによって、太陽光発電所の監視を行っています。東京理科大学と太陽誘電株式会社は共同で、収集された電圧データに対して、One-Class Support Vector Machine(OCSVM)という機械学習アルゴリズムと独自のデータ処理により異常検出の精度を向上し、異常の有無の判定だけでなく、異常ストリングの特定が可能な方法を開発しました。 OCSVMは画像認識などのクラス分け問題に用いられるSupport Vector Machine (SVM)から派生したアルゴリズムで、SVMは2クラスの入力データを分類するのに対して、OCSVMは1クラスのデータのみから学習することができます。異常検知に用いる場合には正常データのみで学習することができるため、太陽光発電所のような異常が稀にしか発生しないような場合においても適用できます。具体的には、OCSVMはカーネルトリックという手法により写像空間中で正常データを原点から遠ざけ、異常データを原点付近に配置されるようにします。本技術では監視ユニットから収集された各太陽電池パネルの電圧データに、データ処理を施すことで、以下のことを実現しました。

1.相対値を用いた精度向上
OCSVMでは日射量や温度に伴って各ストリングの電圧が一斉に変化する場合に対する異常検知も原理的には可能ですが、得られた電圧データをそのまま学習に利用せずに、相対値に変換することで各電圧の変化を強調し、異常検出の精度向上を実現しました。

2.スライド学習
太陽電池パネルには固有の経年劣化があり、異常検出に影響を及ぼすことがあります。学習時に利用するデータの期間をスライドさせることで、直近の傾向に近い電圧データのみを正常とし、長期的な変動については異常判定しないような手法を導入しました。

3.異常ストリングの特定
本来、OCSVMは異常の有無しか判定できませんが、計算に含めるストリングの組み合わせを変化させることで、異常ストリングの特定を可能にしました。これらにより、試験用の太陽光発電所から得られた実際の不具合のデータ(太陽電池パネルのガラス割れ、鳥糞による受光量の低下)や模擬的に作り出した異常(パネルの一部の遮蔽)を高精度で検出することが可能であることがわかりました。

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図1:太陽光発電所の概要と監視ユニット

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図2:本技術の適用例(太陽電池パネルのガラス割れ(左)と鳥糞(右)による電圧低下の異常検知)

【今後の展望】

本研究の成果は太陽光発電所以外の発電所をはじめ長期的に保守が必要な設備に対して適用できる可能性があるため、様々な適用例について検討するとともに、異常検知の精度そのものの向上や、異常原因の特定方法の検討を進めていく予定です。

学術論文

M. Goi, K. Noboru, K. Morita, H. Okawa, and Y. Imai, "Anomaly Detection of Photovoltaic Power Plants Using One-Class Support Vector Machine," Proceedings of the International Council on Electrical Engineering Conference, 2019, pp. 1-6.

片山研究室
研究室のページ:http://www.energylab.jp/
片山教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6534

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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