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2019.10.23 Wed UP

水をめぐる環境遺産の現状について日印の専門家らが議論(10/18・開催報告)

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2019年10月18日、東京理科大学野田キャンパス新7号館講堂で、「日本とインドにおける<水>をめぐる環境遺産の現状」と題する国際シンポジウムが開かれました。水は、私たちにとって大切な資源であるとともに、一方で大きな災いの元凶となっています。水との関係をうまく構築することが人類の義務であり、その役割を担う施設が土木建造物や建築物であるといえます。このシンポジウムでは、利根運河に隣接する野田キャンパスを舞台に、インド各地で創られてきた階段井戸(Step-well)と呼ばれる建築物の紹介と、静岡県三島市の湧水を活かしたまちづくりの事例を取り上げ、水環境の再生について議論を交わしました。

最初に、本学野田キャンパス担当理事の兵庫 明教授より、台風19号の被害と重ねて治水や利水の重要性に関連した挨拶があり、以降、本学建築学科の岩岡竜夫教授の進行のもと以下のセッションの順に報告がありました。

第1セッション「インドの階段井戸の現状」では、まず足利大学の大野 隆司准教授(本学出身者)より、本シンポジウム開催の発端となった、本学とインド・チトカラ大学との共同研究プログラムである<さくらサイエンスプラン2018-2019>の報告がありました。昨年まで大野先生が勤務していたチトカラ大学ではここ数年、インド中部に残存する階段井戸の現況調査を行なっており、一方で本学岩岡研究室では三島市の湧水散策路の景観調査を実施していますが、それらを互いに情報共有するためにこれまで現地視察やワークショップなどを行なってきました。 その成果は会場に隣接する会議室等にてポスターパネルと模型によって同日展示されました。

シンポジウムではさらに、チトカラ大学のヤミニ・グプタ助教より、インド中部のナルナウル市とジュンジュヌ市内に現存する階段井戸の調査研究の成果について詳細な報告があり、さらにステップウェル・アトラス(Stepwell-Atlas)というウェブサイトの製作者であるフィリップ・エリス氏より、ウェブサイトを立ち上げた真の意図と、階段井戸の建築的な魅力や現代建築への影響力についての強いメッセージがありました。

第2セッション「日本における水環境の活用例」では、NPO法人グラウンドワーク三島の専務理事で都留文化大学特任教授の渡辺 豊博氏より、三島の水辺環境の再生に関する報告がありました。三島市中心部を流れる源兵衛川の水は、富士山からの豊かな湧水であり、50年前までは市民の生活用水として欠かせない存在でしたが、高度成長期以降、水量が減少するとともにゴミと油に溢れたドブ川と化しました。その再生に最初に取り組んだ市民団体がグラウンドワーク三島であり、地方行政と民間企業と三島市民の互いの意見を取りまとめつつ、今日の美しい水景観を取り戻した。単に水質浄化の技術に留まらない三島でのこうした水環境再生のノウハウは。他の多くの地域においても大変有効な手法です。

第3セッション「世界遺産として水資源」では、インドから招聘した建築物の保存修復にかかわる2名の専門家と、本学の教員1名によるパネルディスカションが行われました。ディスカションに先立ち,修復保存建築家であるプリヤンカ・シング氏より、ご自身が携わったインド国内の水環境にかかわる歴史建造物の保存修復の3つの事例の解説があり、さらにインド・イコモス代表でチトカラ大学の元建築学部長であるキラン・ジョシ氏より、水環境にかかわる世界文化遺産のいくつかの事例と、インド階段井戸の世界遺産(現状ではまだ1つのみ)としての価値と評価に関してのコメントがありました。最後に、近現代建築史の専門家であり国立西洋美術館の世界遺産登録の中心人物である山名善之本学教授を交えて、世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスの動向や選定基準などについて議論が交わされました。

シンポジウムの最後に、建築史家である三宅 理一本学客員教授より、シンポジウム全体の総括として、インドを中心として世界数多に存在しつつこれまであまりよく知られていなかった階段井戸の顕在化とそれに対する更なる調査研究への期待、三島に見る行政・市民・民間企業を巻き込む形での水景観の再生手法の重要性、すでにポピュラーとなった世界文化遺産登録の有効性と問題点、などについて貴重なコメントがなされました。

水をめぐる環境遺産の現状について日印の専門家らが議論(10/18・開催報告)
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