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Research Highlights
RESEARCH

ドライボロジーと表面工学
科学と技術を結び、舞台裏から産業を支え、地球に貢献

佐々木 信也 教授

トライボロジーは扱う範囲が非常に広く、文字通り“つかみどころのない科学・技術”とも言われます。そもそも一般には、トライボロジーはあまり馴染みがないものと思います。最先端の科学・技術に比べ際立った進歩もなく地味な印象を与えますが、地球温暖化対策をはじめ、実は今、大変重要な役割を担っています。

東京理科大学はトライボロジーを重要な分野として位置づけ、2015年4月にトライボロジーセンターを開設しました。

科学のルーツに回帰する

最先端の科学・技術では、一般的にひとつのことに焦点を当てます。例えば化学なら、これまでにない特性を発現する新物質を創製することに最大限の価値と評価が与えられます。しかし、トライボロジーに関して、それは当てはまりません。他の先端分野とは対照的に、トライボロジーは華やかな舞台の裏に隠れ、これらを支える役割を果たしています。トライボロジーにおいては、過去に蓄積された知見に基づき既存の技術を洗練させ、広く普及させることが重要となります。今日、トライボロジーの一番の課題は、機械システムのエネルギー損失を低減することです。

その前に、トライボロジーとは何か、またトライボロジーセンターがいったい何をしているのかを理解するには、少し歴史を知る必要があるでしょう。

トライボロジーという言葉は1966年に英国政府の報告書の中で初めて提唱されました。トライボロジーは「相対運動をしながら互いに影響を及ぼし合う、二つの表面の間に起こるすべての現象を対象とする科学と技術」と定義されています。すなわち、「摩擦や摩耗をコントロールする科学・技術」ということです。トライボロジーという言葉こそ新しいですが、実用の歴史は、その言葉よりはるか昔に遡ります。古代エジプトでは、大きな建造部材を運ぶ際、そりの摩擦を下げるために植物油などの天然由来の潤滑油が使われていました。

トライボロジーの今

今日、トライボロジーが扱う範囲は、それよりはるかに拡がっています。事実、トライボロジーは、学際領域分野の学問の典型ともいえます。

今や科学の現場では専門化が進んだことにより、様々な分野の専門知識を利用し、物事を発展させることが難しくなっています。そうした状況が、まだ知られていない改善すべき余地を生み出しています。とはいえ、そこに手をつけるには、従来の学問分野の枠を超える必要があります。

トライボロジーはナノレベルからメーターレベルに至るまで、扱う対象が多岐にわたり、分野の境界を超えた幅広い知識が必要になります。機械工学の基礎知識に加え、物理学、化学、材料工学、電子工学などの知識も必要になってきます。

これこそが、理工系の総合大学である東京理科大学と、新設のトライボロジーセンターが、この分野において卓越した独自の位置にある理由でもあります。現在、センターには理科大の9名の教授と30名を超えるメンバーが所属しており、各々の専門知識を駆使して研究に取り組んでいます。

環境問題に貢献するために

トライボロジーセンターでは、持続的発展可能な社会への貢献を目指し、その応用は、自動車、鉄道、航空・宇宙機器、発電システムなどの輸送、重工業産業から、人工関節をはじめとする医療、橋梁やビルなどの社会インフラなどまで及びます。センターでは、特に摩擦損失低減による地球温暖化対策に焦点を当てています。

日本の二酸化炭素排出の20%は自動車などの輸送機器によるものです。自動車はエネルギーのなんと30%をフリクション(摩擦抵抗)のために失っています。摩擦損失をゼロにすることはできないにせよ、効率を改善し、それを世界的に広げることによって、トライボロジーは地球温暖化対策に多大なるプラスの影響を与えることができます。また、トライボロジーが大きな役割を果たすエネルギーシステムとして、風力発電が挙げられます。風力発電設備では、トライボロジーに起因するトラブルを防ぐためのメンテナンスコストが、運用上の大きな負担となっており、その改善が強く求められています。

トライボロジーセンターでは、金属3Dプリンターを活用して、例えば人間の皮膚のように自己適応性と自己修復性のある表面の開発にも取り組んでいます。こうしたイノベーションによって、産業界のあらゆる機械システムにおいて、エネルギー効率の向上とメンテナンスコストを低減することを目指しています。

長年、舞台裏で縁の下の力持ちとして先端技術を支えてきたトライボロジーは、徐々に脚光を浴びつつあります。技術の進展と科学の細分化、地球環境問題の深刻化などにより、トライボロジーには、そうした問題解決の即戦力として幅広い活躍が求められています。

東京理科大学トライボロジーセンターは、理工系総合大学の特徴を最大限に活かし、各研究分野の英知を結集し持続的発展可能な社会実現に向け、先端技術を支えるイノベーション拠点として社会への貢献を目指します。

工学部 機械工学科 教授 佐々木 信也

Shinya Sasaki

国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)、オックスフォード大学客員研究員などを経て、2007年に東京理科大学工学部の教授に就任。
2015年4月、東京理科大学トライボロジーセンターを開設。現在、センター長を務める。

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