TUS
Research Highlights
RESEARCH

サイトカインのシグナル伝達と免疫調節
病気の無い世界を心に描いて

久保 允人 教授

私は「病気のない世界」を実現するというビジョンを持っています。それは決して夢物語ではなく、絶対に実現できるものだと信じています。10人ほどが所属する私のチームは、「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質を活用し、この目標を実現するために研究に精力的に取り組んでいます。

イノベーション技術で病気と闘う

現在、私は東京理科大学生命医科学研究所(RIBS) 分子病態研究部門に所属しています。

25年前に創設されたRIBSは、医科学分野の基礎研究に力を注いでいます。RIBSは基礎医科学を研究室から実社会に移行できるよう、臨床科学や創薬に発展させるなどの重要な役割を果たしてきました。

私の研究の中心は、サイトカインです。サイトカインとは、細胞内シグナル伝達分子(小タンパク質の広く緩いカテゴリー)であり、身体が免疫反応を起こす際には細胞間のコミュニケーションを助け、炎症や感染、外傷箇所への細胞の移動を刺激します。

私たちの最終的な目標は、サイトカインの持つ規則の全体像を完全に解明することです。サイトカインを特定の方法で制御できれば、抗体も制御できます。そして、それは病気を抑制する強力な方法になりうるのです。そのため、世界の研究者がサイトカインの制御を目指し、そのメカニズムの解明に取り組んでいます。何千種類も存在するサイトカインは、それぞれが異なる機能を持っており、サイトカインをベースにした医薬品はリウマチ性関節炎やがんに対する治療薬としてすでに市販されています。私の研究室で行っている研究が、より広い範囲で健康増進に応用される道を切り拓くことを願っています。

インフルエンザのない世界

現在、私たちは2つの重要なテーマに取り組んでいます。一つはインフルエンザ感染に対するワクチン投与であり、もう一つは喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に関する研究です。

私のチームはすでに数々の成果を生み出しており、それは教科書の記述を変える可能性があるほど医療にとって大きな意味を持っています。私たちは定説に反して、TH1細胞から放出される、これまでインフルエンザへの抗体反応に関係するとは考えられていなかったサイトカインが、抗体を誘導しインフルエンザウイルスを中和するのに有望なアプローチになりうることを発見しました。この研究は現在、ピアレビュー(査読)が進んでおり、近々発表される予定です。

インターフェロンガンマと呼ばれるサイトカインの抗ウイルス抗体反応に注目したのは、私たちが初めてです。これはウイルスに対する抗体反応の制御を助け、インフルエンザワクチンにつながる可能性があります。

現在のIgG抗体を誘導する全身性ワクチン投与は、インフルエンザの蔓延を防ぐために重要です。しかし、現在のワクチンの有効性は、特定のインフルエンザ株に対する免疫反応のみに依拠しているため、新型のエマージングウイルスやインフルエンザの大流行に対する防御抗体を生成するには十分ではありません。IgA抗体を誘導する「生インフルエンザワクチン」は、いくつかのインフルエンザ株をカバーする、広域ワクチンに近いものになる可能性があります。

成功への道筋

私たちのチームは、アレルゲン誘発性喘息に関する研究でも同様の成果を挙げています。アレルゲン誘発性喘息は慢性炎症性疾患であり、気道閉塞と喘鳴を特徴としています。私たちは研究を通して、好塩基球と呼ばれる一種の免疫細胞がIL-4というサイトカインを放出することを明らかにしました。

IL-4(インターロイキン-4)——それはイエダニによって誘発されるような喘息炎症の発症要因のカギです。この発見を応用すれば、世界中の喘息患者の苦しみを和らげることができるかもしれません。

時間はかかるかもしれませんが、今後数年以内に、サイトカインをベースにした抗体療法や投薬療法を用いて、ウイルス感染やアレルギー性疾患を制御する最適な方法が発見されることを期待しています。

サイトカインがどのように免疫反応を調節するのか。そのメカニズムを解明することにより、私たちの研究が病気を治す助けになり、ひいては私たちが住むこの世界がもっと住みやすい場所になることを願っています。

生命医科学研究所 分子病態学研究部門 教授 久保 允人

Masato Kubo

東京大学医学部で博士号を取得後、トロント大学のInstitute of Immunology にリサーチフェローとして在籍し、その後、米国パロアルトのDepartment of Molecular Immunology of Syntex Discovery Researchにポスドクとして在籍。
専門分野は、感染症、自己免疫性疾患、アレルギーなど、サイトカインに関連する病態のメカニズムを解明すること。現在は、東京理科大学 生命医科学研究所 分子病態学研究部門を率いる。また理化学研究所横浜事業所 統合生命医科学研究センターサイトカイン制御チームの研究所長でもある。

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。