全書籍
- 研究室の日常を英語コミックで知るPiled Higher and Deeper教員のコメント
タイトルを略すとPh. D.(博士号)となり、大切だか大切でない何かを高く深く積み上げていくことが学位を意味するジョークです。理工系研究室に生息する大学院生の日常を書き綴った英語で書かれたコミックシリーズで、これまでに6冊刊行されており、知る人ぞ知る人気の本です。研究室の日常は、文化や言語は異なれど、多くの理工系学生が共感をもつ内容が4コママンガとして描かれており、同時に英語やアメリカ文化も学習できる内容です。大学に入りたての頃は謎の世界である研究室がどのようなものなのかを、英語で面白おかしく知ることができ、研究の楽しさやつらさはもちろん、研究以外の何か(deepな人間関係の対処法)も知ることができます。国内の出版扱いはありませんが、Amazonや学内書店等で購入可能です。
- コロナ禍の今、ウイルスの正体を知ることができる一冊ウイルスの意味論 ~生命の定義を超えた存在~教員のコメント
ウイルスは悪魔か天使かと問われれば、多くの人は「悪魔」だと答えるだろう。新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスも、よく知られたウイルスは皆、私たちを病気にするからだ。しかし実は、ウイルスには「天使」の側面もある。私たち人類が今ここにいるのは、じつはウイルスのお蔭であるとも言えるからだ。しかしこのコロナ禍において、ウイルスに対する偏った見方が、さらに大きく「悪魔」へと偏ってしまっている。山内先生は我が国を代表するウイルス学者であり、その識見は非常に深く、本書ではウイルスの悪魔的側面、天使的側面を余すことなく紹介してくれている。いったいウイルスはどのように生まれ、なぜこの地球上に存在しているのか。コロナ禍の今だからこそ、ふと冷静になって、ウイルスの意味を考えていただく。まさに至高の一冊である。
- Sherlock Holmes the scientistThe Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険教員のコメント
シャーロック・ホームズは、ご存じのように科学者であったと言われています。 「シャーロック・ホームズの冒険」は、コナン・ドイルが執筆した12の短編小説の最初の本で、ホームズがさまざまな事柄において紹介されています。 たとえば、・・・いやっ、サプライズを台無しにするので、物語の中で何が起こるかについて語ることは止めておきます。 日常のストレスを忘れ、脳を活性化したいのであればオススメの本です。 1890年代のロンドンを舞台に、約45分(1話あたり)を費やして、あちこちを飛び回り、複雑な謎を解き明かすことに興味があれば、この本はあなたにぴったりです。
- 気軽に読み始めて、泣き、笑う。海をあげる教員のコメント
私は上間陽子の文章が好きだ。彼女は中島みゆき、谷川俊太郎ではない。むしろ、対極的かもしれない。この本の冒頭にあるエッセイ「美味しいごはん」は、私の様々な感覚を覚醒させる。想定外だったが、このエッセイを初めて読んだとき、私はある箇所で泣き、別の箇所では笑ってしまった。また、要所で登場する「ごはん」に、勝手に姿と色と味をつけて、私は一緒に食事をした。韓国では人が出会うと、「ごはん食べましたか?」と聞く習慣があるが、「美味しいごはん」の世界と通じていると思う。それは相手を思いやる挨拶なのだ。今だからこそ、自分の愛する人たち、友人たちに大きな声で言いたいね。「一緒にごはん食べよう」。
- 静けさのうちでしか聞くことのできない声(詩)を読む中島みゆき全歌集(『中島みゆき全歌集1975-1986』として復刊)教員のコメント
私の手元にあるのは、1990年刊行の『中島みゆき全歌集』(長らく入手困難だったらしいが、2015年に復刊した)。反則的かもしれないが、序文にあたる「詞を書かせるもの」を読んだ後、詩人・谷川俊太郎の中島みゆき解剖学(解説)を読んでほしい。私がキャッチフレーズにした言葉は、その谷川の解説文から引用した。私にとって、この二人は1980年代からの先生。先生のことばを読み、静けさに導かれてほしい。そして時間があれば、歌を音楽で、中島みゆきの声で聞いてみるといい。
- 世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに101年目の孤独教員のコメント
わたしたちが、弱さや老い、死に向き合うとき、そこにあるのは、例えば、「××に負けるな」「勇気を与える」「自己責任」「社会を生き抜く力」などという、空虚なスローガンでは、ありません。そうではなくてそこには、きわめて個人的で静謐なことばがあります。そのことばは、人々に何かを広く訴えかけることを第一義的な目的とはしていません。それは、弱さに向き合う自己との対話であり、老いや死に直面した自分自身とのやり取りの、静かな――そして確かな――記録です。この書物で紡がれている高橋源一郎のことばは、そのような根源的な力を湛えたものです。「世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに」とは、本文中でとある人物が発する言葉ですが、これはこの書物の正しい読後感でもあります。学生のみなさんには、この手の書物を人生の早い時期に読んでおくことを強くお勧めします。
- 不確実な未来を考えるにはやはり過去を学びたい古代文明と気候大変動教員のコメント
地球温暖化による気候変動で10年に一度や50年に一度の異常気象が頻発し自然災害の脅威が迫っていると報道され、温室効果ガスの排出削減を待ったなしで迫られている世の中ですが、気候変動で人類に本当にどういう影響が出るのか落ち着いて考えたことがあるでしょうか?
実は人類は氷河期を生き延びてその後に迎えた氷河期明けの長い夏を謳歌してきました。本書は、訳書サブタイトルにある「人類の運命を変えた二万年史」を2004年当時の最新の気象学・生物学・考古学の資料を基に、気候変動が人類史にどういう影響を与えてきたかを語った異色の歴史書です。気象を中心に据えていますので、その記述目線はあくまでその時代を生き抜いた普通の人々の目線です。国家を統一した英雄は登場せず有名な国家統治制度の説明を行っている場面もほとんどありませんので文章内容は地味ですが、世界史の教科書には見られない気候変動が人類にもたらした影響が確実に読み取れます。2021年はシミュレータを用いた予測を含むIPCCの6次レポートが次々と発表されますが、今は落ち着いて確実な過去の歴史を本書で学んではいかがでしょう。
ちなみに、本書の姉妹書として同じ著者の「歴史を変えた気候大変動」、「千年前の人類を襲った大温暖化」があります。前者は直近の小氷期、後者はその前中世の温暖期を扱ったもので、本書の「古代」と併せて3つの本で2万年史が完成します。後者の題名は「トンデモ本」に近いですが内容は極めて落ち着いたものであることを申し添えます。 - 世の中が変なのか自分が変なのか悩んだら開く一冊新編 悪魔の辞典教員のコメント
善意も悪意も綯い交ぜで様々な言葉が溢れ、結局のところ何を拠り所にして生きればよいものか悩んでしまう21世紀の我々にとって、意外にも救いの手は遠い過去から差し伸べられるのかもしれません。19世紀末のアメリカでジャーナリストとして活躍したアンブローズ・ビアスの手による本書は、その仰々しい表題のとおり、太々しくも辞書の形式を模しながら、悪魔的に鋭い批判的観察眼で、世の中に蔓延る偽善や欺瞞を一刀両断します。一つ一つの項目が短いので、ぱっと開いたページを楽しむもよし、一話完結型のダークヒーロー物語として読み込むもよし。「悪魔」との戯れも、魂売らなきゃ大丈夫。
- ひとりになって、音楽を聴くかのようにカフェ・シェヘラザード教員のコメント
読みながら、「まるで音楽を聴いているようだ」と感じる本というのが、あると思いませんか? 私は、このオーストラリアの現代作家の代表作を原語で読んで、最初の数ページ目からずっと、そう感じていました。中身はポーランドのユダヤ難民たちの話なのですが(一部、日本の神戸にも関係しています)、この本の主役は「音」だと思う。自分で訳した本を、このような場で「推薦」するのは烏滸がましいとも思ったのですが、訳しながら、「これは理科大生の皆さんにも読んで欲しいなあ」と感じていましたので、あえて選びます。インターネットとSNSの発達により、ついに私たちは、寝ているとき以外、常に誰かと繋がっており、決して「ひとり」になれない時代を生きるようになってしまいました。でも、このコロナ禍で、人と会えない日々が長引くなか、逆に「ひとり」で、ただ一冊の本とともに、じっと過ごす時間の大切さを思い出してみるのはどうでしょう。情報を得るためではなく、ただ音楽を聴くかのように。
- 科学・学術の世界での「性差」を考えてみたいときにマリー・キュリーの挑戦 科学・ジェンダー・戦争教員のコメント
ネタばれですが、来年度から「科学技術と文化」の授業を「映画に見る科学者の肖像」というテーマでやってやろうと企んでおり、その予習のための参考文献のひとつがこれです。キュリー夫人を題材にした映画には、有名な「キュリー夫人」(1943年、アメリカ)と、本邦未公開の「レディオアクティヴ」(2019年、イギリス)がありますが、これらの映画作品を論じるにあたって、川島さんのこの本は、とても助けになります。同時に、近代(そして現代も)の科学・学術の世界が、いかに男性中心主義によって歪められてきたか(いるか)、深く反省させられます。生理的な条件に関係のない科学、学術、そして大学の世界も、早く、特に「努力目標」などにしなくても、男女半々(もちろんLGBTもそこに含めて)になる日が来るといいなあ、「ジェンダー論」などというものが論じられる必要のないような世界になるといいなあ、と心からそう思います。
- 何だかわからないけど、人生が嫌になったときに吉野葛教員のコメント
大学院生の頃、人間関係とか進路とかのことで、どうしようもなく落ち込んでしまい(今から考えると何でもないことなのですが)、真面目に自死も考えたことがありました。その時、ふと手にしたのが、この谷崎の隠れた逸品です。読んで、居ても立ってもいられなくなり、奈良の吉野へ一人旅に出たくらいです。秋でした。よほど死にたい顔でもしていたのか、泊まった民宿のおじさん、おばさんから、「あんた、早まるじゃなかよ」と声をかけられたのを覚えています。作中、白狐の「恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」の歌が、どういうわけか、私に「もうちょっと生きてみよう」という気を起こさせました。その因果関係は、いまもって不明です。おそらく、「まだ、自分の知らない世界がある」と感じたからではないでしょうか。落ち込んだときは、下手に「ストレス解消」「悩み事Q&A」といったハウツー本に手を出すより、文学の〈名著〉を噛むように読むのも捨てたものではないと思います。
- 落ち着かないコロナ禍だからこそじっくり読みたい一冊Klara and the Sun/クララとお日様教員のコメント
10代の子どもに親が買い与えるアンドロイド(Artificial Friend) であるクララをジョージーが選ぶ。ジョージーは病弱で、彼女の姉の命を奪った病気と同じ病気にかかっている。リックはジョージーの家の近くに住む幼なじみで、ジョージーに献身的につくす。クララはお日さまにジョージーが元気になるように頼む。… 最後のシーンをどう理解すべきかわからず何度か読み返した。ロボットの視点から人間とロボットの関係を考えるという不思議な体験をさせてくれる小説。英語で読んだが、英語で読んでいることを忘れるほどの読みやすい文体と平易な語彙で書かれている。
- 数学者オイラーの業績と生涯に触れようオイラー入門教員のコメント
レオンハルト・オイラーは18世紀の偉大な数学者です。人類史上最も多くの論文を書いたと言われ、スイスの第6次10フラン紙幣にはその肖像が描かれています。本書は膨大なオイラーの業績の中から、数論、対数、級数、解析数論、複素数、代数、幾何、組み合わせ論の8つのテーマに絞り、当時の歴史背景の下、オイラーの天才的なアイデアが分かり易く解説されています。高校レベルの数学で十分楽しく読み進めることができ、またオイラーの伝記としてあるいは数学史の読み物としても楽しめます。数学が好きな人、是非ご一読ください。
- 知識人とは何か教員のコメント
サイードなら『オリエンタリズム』が代表作ではあるが、まずはこちらを。イラク戦争の真っ只中の二〇〇三年から〇四年頃のこと。9.11の同時多発テロ事件後、まさかアメリカがアフガニスタンに報復し、イラクにまで攻め込むなんて、と思っていた私はナイーブでした。中東と西洋の「対立」についての先入観を180度変えてくれたサイードの入門書とでもいうべき本書は、すでにホコリにまみれて久しい知識人なる言葉を磨き直し、魅力的な存在として差し出した。言葉を蘇らせることも、学者や作家の大事な仕事。野球選手よりも、サッカー選手よりも、知識人はカッコいい。