
佐藤 憲一教授
アメリカ文学
野田キャンパス教養部
- 世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに101年目の孤独岩波書店2013年
わたしたちが、弱さや老い、死に向き合うとき、そこにあるのは、例えば、「××に負けるな」「勇気を与える」「自己責任」「社会を生き抜く力」などという、空虚なスローガンでは、ありません。そうではなくてそこには、きわめて個人的で静謐なことばがあります。そのことばは、人々に何かを広く訴えかけることを第一義的な目的とはしていません。それは、弱さに向き合う自己との対話であり、老いや死に直面した自分自身とのやり取りの、静かな――そして確かな――記録です。この書物で紡がれている高橋源一郎のことばは、そのような根源的な力を湛えたものです。「世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに」とは、本文中でとある人物が発する言葉ですが、これはこの書物の正しい読後感でもあります。学生のみなさんには、この手の書物を人生の早い時期に読んでおくことを強くお勧めします。