数学・自然科学分野の担当教員がおすすめする本
- 創造する人々の思考に触れてみる「おいしさ」の錯覚教員のコメント
チャールズ・スペンス先生(オックスフォード大学)は、実験心理学を専門とする研究者で、食事を楽しむときの感覚に焦点をあてた新しい食の学問(ガストロフィジックス)を研究トピックスの一つとしています。このガストロフィジックス研究を通じて、おいしさに含まれる要素を分類し、脳で感じるおいしさの複雑な感覚を解き明かすべく、さまざまな実証実験を試みています。その研究成果はおいしさの探求にとどまらず、食にまつわるさまざまなビジネス戦略に応用されています。料理を科学する書籍は多くありますが、これまで重要視されてこなかった対象に着目した本書は、新たな概念の創出に求められる思考変革の重要性に気づかせてくれるでしょう。
- 創造する人々の思考に触れてみる化学者たちの感動の瞬間教員のコメント
本書は、(出版後に)ノーベル化学賞を受賞した日本人研究者を含め、第一線で活躍している有機合成化学者が自ら発表した原著論文の研究内容について、分かり易く解説しています。通常、原著論文では述べられることがない失敗データおよび思考錯誤の過程や研究活動の日常に触れている点も興味深いところです。また、本書は自らのアイデアをかたちにする達成感や実験系研究のワクワク感を共有できる本です。実験レポートを書くことに疲れたときや課題の締め切りが近いのにモチベーションが上がらないときにでも読んでみては如何でしょうか。
- 大河への道教員のコメント
落語家立川志の輔の新作落語を書き下ろした小説である。江戸時代将軍家斉の治世、幕府の命で日本中を歩いて測量した千葉県の偉人・伊能忠敬の業績を、町おこしの一環でNHK大河ドラマのテーマにすべく奔走する現代の市役所の人たちと脚本家候補者の目を通して日本地図作成のその裏側の真実に迫る、というものである。シリアスな物語かと思いきや、そこはさすが落語のネタ。盛大な笑いのオチがあるので、ぜひ本書を手に取って欲しい。なお伊能隊は、歩幅を一定に保って歩いて距離を測り、さらにコンパスと、分度器と望遠鏡を合わせた道具で星の高さから三角比を用いて測量をしていた。観測当時の地図をネットで検索すると、今でもびっくりするほど精緻で美しい曲線を描いているので必見である。
- こわいもの知らずの病理学講義教員のコメント
本書は大阪大学医学部の名物教授が一般人にも正しい病気の知識を身につけて欲しいとの思いを込めて書いた本です。まず病理学が病気の成り立ちを理解する学問であることを解説し、続いて細胞、血液、がんの3つに絞って話が進みます。特にがんについては発症と進化、免疫、ゲノムなどの観点から多くの頁を費やし説明しており、著者の専門分野と密接に関係していることが伺えます。全体を通して講義で語りかけるように話が進み、時折雑談も入るので、最後まで飽きずに読み切れます。本書によってがん対するリテラシーを高めておくと、将来がんを患っても冷静に向き合えそうな気がします。
- あまり病気をしない暮らし教員のコメント
この本は、前掲書『こわいもの知らずの病理学講義』の続編で同じナニワの医学部教授が著者です。食事やダイエット、感染症、遺伝子など病気と関わりが深いテーマを取り上げて時々、脱線しながら話が進んでいきます。最終章では医学部教授の生活に触れ、医学部の研究・教育の裏側も語られています。前掲書の裏表紙に記されている「近所のおっちゃん・おばちゃんに読ませる」という著者の心意気は、本書でも踏襲され分かりやすい内容になっています。病気に興味がある方、病院でお医者さんの言うことをもっと理解したい方は、是非手に取ってみて下さい。
- 形態は機能に従う植物の形には意味がある教員のコメント
“Form follows function”はアメリカの建築家Louis H. Sullivanの言葉です。ポルシェ911のカエルのような車デザインも機能的に意味があり、これは人工物だけで無く、我々が普段目にする生物も同様です。植物の葉・茎・根やその色や形は多様性があるけれど、それを認識するだけで終わるのでは無く、それが何に由来しているのかを仮説をたてて、機能を解き明かしていく内容が記されています。この思考方法は科学に限ったことではないことから、植物に興味が無くても有用な一冊です。内容は専門的で無く、生物を履修していない人も興味深く読み進められます。
- 研究室の日常を英語コミックで知るPiled Higher and Deeper教員のコメント
タイトルを略すとPh. D.(博士号)となり、大切だか大切でない何かを高く深く積み上げていくことが学位を意味するジョークです。理工系研究室に生息する大学院生の日常を書き綴った英語で書かれたコミックシリーズで、これまでに6冊刊行されており、知る人ぞ知る人気の本です。研究室の日常は、文化や言語は異なれど、多くの理工系学生が共感をもつ内容が4コママンガとして描かれており、同時に英語やアメリカ文化も学習できる内容です。大学に入りたての頃は謎の世界である研究室がどのようなものなのかを、英語で面白おかしく知ることができ、研究の楽しさやつらさはもちろん、研究以外の何か(deepな人間関係の対処法)も知ることができます。国内の出版扱いはありませんが、Amazonや学内書店等で購入可能です。
- コロナ禍の今、ウイルスの正体を知ることができる一冊ウイルスの意味論 ~生命の定義を超えた存在~教員のコメント
ウイルスは悪魔か天使かと問われれば、多くの人は「悪魔」だと答えるだろう。新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスも、よく知られたウイルスは皆、私たちを病気にするからだ。しかし実は、ウイルスには「天使」の側面もある。私たち人類が今ここにいるのは、じつはウイルスのお蔭であるとも言えるからだ。しかしこのコロナ禍において、ウイルスに対する偏った見方が、さらに大きく「悪魔」へと偏ってしまっている。山内先生は我が国を代表するウイルス学者であり、その識見は非常に深く、本書ではウイルスの悪魔的側面、天使的側面を余すことなく紹介してくれている。いったいウイルスはどのように生まれ、なぜこの地球上に存在しているのか。コロナ禍の今だからこそ、ふと冷静になって、ウイルスの意味を考えていただく。まさに至高の一冊である。
- 不確実な未来を考えるにはやはり過去を学びたい古代文明と気候大変動教員のコメント
地球温暖化による気候変動で10年に一度や50年に一度の異常気象が頻発し自然災害の脅威が迫っていると報道され、温室効果ガスの排出削減を待ったなしで迫られている世の中ですが、気候変動で人類に本当にどういう影響が出るのか落ち着いて考えたことがあるでしょうか?
実は人類は氷河期を生き延びてその後に迎えた氷河期明けの長い夏を謳歌してきました。本書は、訳書サブタイトルにある「人類の運命を変えた二万年史」を2004年当時の最新の気象学・生物学・考古学の資料を基に、気候変動が人類史にどういう影響を与えてきたかを語った異色の歴史書です。気象を中心に据えていますので、その記述目線はあくまでその時代を生き抜いた普通の人々の目線です。国家を統一した英雄は登場せず有名な国家統治制度の説明を行っている場面もほとんどありませんので文章内容は地味ですが、世界史の教科書には見られない気候変動が人類にもたらした影響が確実に読み取れます。2021年はシミュレータを用いた予測を含むIPCCの6次レポートが次々と発表されますが、今は落ち着いて確実な過去の歴史を本書で学んではいかがでしょう。
ちなみに、本書の姉妹書として同じ著者の「歴史を変えた気候大変動」、「千年前の人類を襲った大温暖化」があります。前者は直近の小氷期、後者はその前中世の温暖期を扱ったもので、本書の「古代」と併せて3つの本で2万年史が完成します。後者の題名は「トンデモ本」に近いですが内容は極めて落ち着いたものであることを申し添えます。 - 数学者オイラーの業績と生涯に触れようオイラー入門教員のコメント
レオンハルト・オイラーは18世紀の偉大な数学者です。人類史上最も多くの論文を書いたと言われ、スイスの第6次10フラン紙幣にはその肖像が描かれています。本書は膨大なオイラーの業績の中から、数論、対数、級数、解析数論、複素数、代数、幾何、組み合わせ論の8つのテーマに絞り、当時の歴史背景の下、オイラーの天才的なアイデアが分かり易く解説されています。高校レベルの数学で十分楽しく読み進めることができ、またオイラーの伝記としてあるいは数学史の読み物としても楽しめます。数学が好きな人、是非ご一読ください。