英語分野の担当教員がおすすめする本
- ディス・イズ・ザ・デイ教員のコメント
日本国内のサッカー2部リーグの最終節をめぐる、各チームのサポーターの様子を描いた群像劇です。架空のチームを描く小説ではありますが、地域に根づいたサッカークラブが文化やコミュニティーを形成し人々の日常に溶け込んでいる様子が見事に表現されています。Jリーグなどのサッカーチームを応援する人であれば、自分たちのことがこんなふうに表現され得るのだと驚き、また胸を揺さぶられるかもしれません。2018年のワールドカップを前に新聞で連載されていたこの小説が、国内の2部リーグを扱ったことの意味を考えながら読むのもおもしろいでしょう。サッカー好きのみならず、別のスポーツのファンの人、何かを「推す」人、またそれとは距離を置く人にも、是非読んでもらいたい作品です。
- なぜ科学はストーリーを必要としているのか──ハリウッドに学んだ伝える技術教員のコメント
君は、東京理科大学に入ってきて「ここは科学の最先端を担う大学だから、もう文章を書く必要なんてないよなー」と思ってはいませんか?その感覚は間違っていますよ。科学こそ「伝える努力」をしないと正しく伝わらないんです。じゃあ「伝える努力」とはなんでしょう?それは自分の研究を他の人が退屈しないように、でも誇張しないように伝える努力です。え?そんな難しいことよく分からないって?大丈夫です、それは「ストーリー」の力を借りればできるんです。この本は科学を伝えるためになぜ「ストーリー」が必要なのか、そしてそのストーリーの構造(テンプレート)を教えてくれます。このテンプレートに合わせて語ることで、あなたの科学を伝える力は倍増します。ハリウッドを拠点に映画製作に携わっている筆者(ハーバード大学で生物学の博士号取得)の快活な喋り口調のこの本、ぜひこの機会に読んでみてはいかがですか?英語版もおすすめです(Houston, We have a Narrative: Why science needs story)。
- 数学者でありながら行動に難がある夜中に犬に起こった奇妙な事件(The Curious Incident of the Dog in the Night-Time)教員のコメント
この本はあなたの記憶に残ります。ひねりの効いた探偵小説です。そのひねりは、探偵が15歳の少年であり、数学者であるということだけでなく、彼がコミュニケーションをとるのが難しいからである。クリストファー・ブーンは近所の家の飼い犬がどのように殺されたかを突き止めたいのですが、そのためには探知能力だけでなく、とても勇敢である必要があります。この作品は、自閉症スペクトラムの少年探偵がどのような存在であるかということを教えてくれます。
- 自己決定のための教養属国民主主義論—この支配からいつ卒業できるのか教員のコメント
「属国民主主義」だなんてぎょっとするタイトルでしょ?現代日本—その政治・社会・教育・文化—を動かしているのがどんな原理なのか、論じている対談本です。2016年に出た本に新たに1章を加えた増補版として出版された2022年版が本書です。目次には「加速する属国化」、「劣化する日本」、「コスパという病」などという気になる言葉が躍っていますが、決していたずらに不安を煽ったり、自虐的に現状を嘆くだけの本ではありません。「自分たちの運命を自分たちで自己決定できない」ところへ追いつめられつつある日本(人)が、今後どう生き抜いていったらいいのか考えるきっかけやヒントを提供してくれる、鋭い洞察に富む本です。私見では、「自分たちの運命を自分たちで自己決定」できる自由や力を与えたり、援けてくれるものこそが「教養」ですので、本書を現実的かつ実践的な教養(リベラル・アーツ)的考察の好例としてお薦めします。
- 二十一の短篇教員のコメント
作者は映画『第三の男』の原作者、と聞くと親しみがわくでしょうか。本書には、詩情をたたえた作品からコメディやホラーのような作品まで多様な短篇が収録されており、趣きの異なる小説を次々と楽しめる短篇小説集の醍醐味が堪能できます。おすすめは「無垢なるもの」です。在学中に、中学・高校時代はこうだったな、と過去を振り返る場面は何度かあると思います。適度に振り返るのなら別ですが、度が過ぎると少々厄介です。苦しい思いを伴う場合があるからです。「ローラをここに連れてきたのは間違いだった」という強い後悔を表すセリフで始まるこの小説は、「ローラ」を「ここ」に連れてきたことで過去に憑りつかれた中年男性の物語です。現実の時間の流れと、それに逆行する胸の内の時間との板挟みになった彼の苦悩は、程度の差こそあれ誰もが経験し得る苦悩です。暗そう、と感じるかもしれませんが抑制のきいた静かな語り口と情感あふれる描写は、この小説を明るい、暗いの区別を超越した美しい文学作品へと昇華させています。本書が文学に興味をもってもらえる一助となればなによりです。
- 食べものから学ぶ世界史——人も自然も壊さない経済とは?教員のコメント
コロナ禍の影響でしょうか、英作文の授業で受講生に好きなトピックを自由に選んで書いてもらうと、ブルーライトやアルコールが身体に与える影響、睡眠の質など、健康に関する興味が高まっていると感じます。ここで私がおすすめする本は、そのなかでも特に「食」に関わるものです。この本は、いま私たちの多くがなんの疑問も持たず食べている食事が経済(資本主義)と密接な関係のもとでどう変化してきたかについて、驚くような歴史を提示してくれます。副題に「人も自然も壊さない経済とは?」とあるように、現代の工業的な農業や食のあり方が環境や人間の身体に与える影響についても教えてくれます。好むと好まざるとにかかわらず、食と無関係でいられる人はいませんし、より広い視野を持って遺伝子操作などのテーマを考えるきっかけにもなると思います。この機会に身近な食を通して歴史や経済に関する理解を深めてみてはいかがでしょうか?
- オスとは何で、メスとは何か?——「性スペクトラム」という最前線教員のコメント
私は幼い頃から「男だから」と言われると違和感がありました。こういった違和感を精緻に考えるにはフェミニズム、ジェンダー論、クィア・スタディーズ、男性学といった人文系の学問がありますが、この本は生物学の視点から思考のヒントを与えてくれます。著者は、生物のメスとオスが全く別個に存在するわけではなく、両者が連続して存在することを「性スペクトラム」という概念を用いて示していきます。たとえば、魚のカクレクマノミは別の性に変わることがあり、人間の性は生涯の中で変化していくというのです。人文学では以前から性別(sex)がそもそも社会の取り決めによってつくられると議論されてきましたが、生物学においても性別を確固として二分できないと見るのが新たな通説になりつつあるのは興味深いです。依然として男女間の不平等や強固な性別役割の規範が残る現代において、おすすめの一冊です。
- テーリー・ガーター——尼僧たちのいのちの讃歌著教員のコメント
私が尊敬する人物の中に、ビームラーオ・アンベードカルという人がいます。彼はインド社会の最下層に置かれる不可触民の出身で、カースト制度という抑圧的な社会の仕組みを廃絶すべく社会運動を牽引しました。ヒンドゥー教がカースト制度を支えているという考えから、晩年には集団で仏教に改宗し、差別批判の立場から釈迦の生涯とその教えを『ブッダとそのダンマ』として書き遺しました(光文社新書に邦訳があります)。専門家ではありませんが、私はこのような差別批判が、釈迦が生きていた当時の「原始仏教」の根本にあると思います。釈迦の死後、権威主義化した小乗仏教は女性を排除していくのですが、それ以前には女性も悟りを開いていました。彼女らの手記は残っており、その翻訳がここで紹介する『テーリー・ガーター』です。植木雅俊さんの充実した解説では釈迦の平等思想がその後歪曲されていく歴史について明快に書かれています。一読をおすすめします。
- Because of Winn-Dixie教員のコメント
“Because of Winn-Dixie” is the poignant story of Opal, an angry and lonely young girl who hasn’t seen her mom since she was three. After moving to a small town in Florida with her preacher dad, she befriends a stray mutt at the local supermarket, naming him after the shop. Winn Dixie becomes her best friend; through him, life starts to change in many wonderful ways. Loneliness, sadness, friendship, courage, and growing up are some of the most important themes. When Winn-Dixie disappears, an entire town comes together to search for the beloved dog. This story is young adult literature that resonates with all ages.
- Rocket Boys教員のコメント
This coming-of-age memoir by Homer Hickam is the true story of a young man with big dreams. Set in 1957, the year the Soviet Union launched Sputnik, Homer is a high school boy living in a small coal mining town in West Virginia. With an almost certain fate of following his father’s footsteps into the coalmines, Sputnik sparks Homer’s imagination as he sees his future written in the stars rather than the coal dust deep underground. An inspirational story of a boy’s journey, with friends, family, and a community supporting his quest. Overcoming many hardships, Homer’s story is one of hope, perseverance, and determination. This is a story of what is possible when quitting is never an option.
- Charlotte’s Web教員のコメント
This timeless story has won over readers for generations. When Fern, a young girl living with her family on Zuckerman’s Farm, realizes her beloved pig, Wilbur, is destined for the slaughterhouse, she is determined to save him. With the help of the most unlikely accomplices, a spider named Charlotte and a rat named Templeton, they set out to save Wilbur from a most unhappy fate. Charlotte’s Web is an ageless story of friendship, loyalty, sacrifice, and bravery. Written by E.B. White, one of the most beloved children’s authors of all time, the story resonates with all ages.
- 決定版 第二の性I 事実と神話教員のコメント
ボーヴォワールの代表作『第二の性』はフェミニズム思想の古典。フェミニズムのみならず、様々な文学者や政治家、思想家の言葉に影響を与え続けている。その手法は、哲学的な問いと文学作品からの引用を組み合わせて、過去の傑作とされる作品を批判的に読み解くところにある。逆に考えると、文学作品を批判的に読み解く作業が、二十世紀半ば以後の女性たちにとって、みずからの生を獲得する作業と不可分であったとも言うことができる。論破というゲームによって他者の言葉に耳を塞ぐことが恒常的に卓越的な行為とみなされつつある現在、そのような退廃的行為とは対極にある批判的読解とは何かを確認するためにも、何度も立ち戻るべき書物。
- バラカ(上・下)教員のコメント
本書のモチーフは2011年の東日本大震災である。その後の荒廃した非現実的な日常を、日本社会で民族的マイノリティであり女性である主人公がいかに生き抜くかというところに焦点が置かれている点で、いわゆる震災文学と呼ばれる作品群の中でも特異な位置にある。同時に、本書が証言するのは、ここで描かれる嘘のような、非現実的な日常が、当時のわたしたちにとっては紛れもない現実であったということだ。本作を貫く圧倒的な物語の熱量に身を委ねることはさして難しくもないとはいえ、ここで描かれる「醜悪な」現実の延長線上にわたしたちの現在があることを認めることは容易ではないかもしれない。わたしたち自身の醜悪さに直面することになるからだ。でも、そのように警鐘を鳴らすことが文学の役割でもある。
- あどけなくて怖い、でも愛おしいこちらあみ子教員のコメント
最近読んで心を動かされた小説の中で、比較的短く読みやすいものを1冊おすすめしたいと思います。
『こちらあみ子』は今村夏子さんの短編小説集ですが、表題作の「こちらあみ子」だけでもぜひ読んでいただきたいです。とても短い作品なのですが、文庫版でわずか120頁あまりの紙数のうちに、主人公あみ子と彼女をとりまく人たちの人生の大波小波がギュッと詰まっていて、読者はとても濃い(疑似)体験をすることになると思います。
表題の「こちらあみ子」というのは作者がしかけた、ちょっとしたクイズです。その意味の種明かしがされる箇所は1つのクライマックスなので、ぜひそこまで読んでいただきたいです。
物語は小学生あみ子の視点に寄りそって進行します。あみ子は単に幼いだけでなく常識的でない(ぶっ飛んだ)感性の持ち主なのですが、わたしたち読者はあみ子の眼を通して、彼女が感じる喜びや驚きを味わう一方で、彼女の理解を超えた周囲の状況や大人たちの痛みや悩みも突きつけられ、ぎょっとします。誰も悪くない。でも、とてつもなく痛くて哀しい……。それでも、あみ子は愛おしくてならない存在だし、彼女が愛おしいと思うすべてのものもやっぱり尊い……。そう思わされます。
ぜひ読んで、いろんなことを感じていただきたいです。あみ子のようなゆっくりしたスピードで生きている人は実際にいますし、(子ども時代を含めて)そういう時期がわたしたちにもあります。けっこうみんなちゃかちゃか急いでて、みんな割かしきちんとしていて、そういうみんなと一緒でないといけないと思わされている社会……。そういうのが辛くなったら、あみ子のことを思い出していただければと思います。 - 効率的な勉強法を知りたくないですか?直感力を高める数学脳の作り方/A Mind for Numbers: How to excel at Math and Science教員のコメント
こんな悩みを持っていませんか?「試験前に教科書を何度も読んだのに、試験の出来がいつも悪い」「授業中、先生に説明されるとよく分かるのに、自分で解いてみると全くできない」「解法を習った問題なら解けるのに、習っていない問題だと途端にできなくなる」「教科書やノートに下線やアンダーラインを引いたのに、試験中にその内容を思い出せない」。もしくはこんな困った習慣を持っていませんか?「試験前はいつも一夜漬けになってしまう」。この本はこうした悩みや習慣を持ったあなた!のために書かれている本です。この本には数学、科学、心理学の専門家が何年もかけて見つけ出した本当に効果のある学び方、そして学び方を学んだ理系の先輩たちの喜びの声やアドバイスが所狭しと並んでいます。「学び方を学ぶ」なんて一見遠回りのように見えるかもしれません。しかし、本書にもあるとおり「考え方を変えれば、脳は変化」(p. 206)します。この変化は今困っているあなたに一生もののスキルを届けてくれますよ。
- 言葉に魅せられ、辞書を編む人々の物語(イギリス)博士と狂人 / The Professor and the Madman教員のコメント
世界で最も権威のある英語辞書『オクスフォード英語大辞典』(Oxford English Dictionary、以下OED)には、41万語以上が収録されており、それぞれの単語の歴史(いつからどのように使用されてきたのか)が用例とともに掲載されています。この用例採集には数多くの一般人が閲読者として協力しましたが、中でも最大の貢献をしたのはW. C. マイナーという謎の人物でした。マイナーは20年もの長きにわたって、単語の用例をOEDの編集主幹を務めるジェームズ・マレー博士に送り続けます。マレー博士は、マイナーの長年の貢献に感謝を伝えるため、直接彼に会いにいくのですが、そこでマレー博士が知ったマイナーの衝撃の人生とは・・・
メル・ギブソンとショーン・ペン主演で映画化されています。そちらもオススメ。 - 言葉に魅せられ、辞書を編む人々の物語(アメリカ)ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険 / Word by Word教員のコメント
centerとcentre、theaterとtheatre。なぜ英語にはアメリカ式とイギリス式の2種類の綴り方があるのかご存知でしょうか。
イギリスからの独立を果たしたアメリカでは、新国家に相応しい「アメリカ英語」の辞書が求められていました。そのような中で、ノア・ウェブスターは1828年に上梓した「アメリカ英語辞典」において、イギリスではcolourと綴られていた単語をcolorとして、centreをcenterとして、新しいアメリカ式綴りで単語を収録したのです。(ちなみに、OED制作に多大なる貢献をしたW.C.マイナーはこのウェブスターの辞書編纂にも携わっていたそうです。) この本の著者、コーリー・スタンパーは、ウェブスター辞書を生んだアメリカ最古の辞書出版社であるメリアム・ウェブスター社で辞書編集を長年務めた人物。メリアム・ウェブスター社における辞書制作の様子や顧客とのやりとりを紹介しながら、英語の語釈の難解さ、英語という言語の奥深さと面白さを語ってくれます。 - 言葉に魅せられ、辞書を編む人々の物語(日本)舟を編む教員のコメント
「あがる」と「のぼる」の違いは何でしょう?例えば、「山にのぼる」とは言いますが、「山にあがる」とは言いません。この物語は、言葉に「耽溺」した人々が、一つ一つの言葉に真剣に、しかし「冷静かつ執拗」に向き合いながら、一つの辞書を作り上げていく様子を描いたものです。彼らは「辞書は、言葉の海を渡る舟」という信念のもと、日本語を使用する全ての人々が、海のように広く深い日本語という言語の中で溺れずに目的地までたどり着くことができるような舟(辞書)を編んでいきます。この物語を読んだ後には、あなたも国語辞典や広辞苑を開いてみたくなるでしょう。電子版ではなく、紙の辞書を。