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佐藤 喜一郎
佐藤 喜一郎教授
素粒子物理学(素粒子論/量子重力理論)
北海道・長万部キャンパス 教養部
  • 不確実な未来を考えるにはやはり過去を学びたい
    古代文明と気候大変動
    古代文明と気候大変動
    ブライアン・フェイガン(訳者 東郷えりか)
    河出書房新社
    2008年 (原著は2004年)

    地球温暖化による気候変動で10年に一度や50年に一度の異常気象が頻発し自然災害の脅威が迫っていると報道され、温室効果ガスの排出削減を待ったなしで迫られている世の中ですが、気候変動で人類に本当にどういう影響が出るのか落ち着いて考えたことがあるでしょうか?
    実は人類は氷河期を生き延びてその後に迎えた氷河期明けの長い夏を謳歌してきました。本書は、訳書サブタイトルにある「人類の運命を変えた二万年史」を2004年当時の最新の気象学・生物学・考古学の資料を基に、気候変動が人類史にどういう影響を与えてきたかを語った異色の歴史書です。気象を中心に据えていますので、その記述目線はあくまでその時代を生き抜いた普通の人々の目線です。国家を統一した英雄は登場せず有名な国家統治制度の説明を行っている場面もほとんどありませんので文章内容は地味ですが、世界史の教科書には見られない気候変動が人類にもたらした影響が確実に読み取れます。2021年はシミュレータを用いた予測を含むIPCCの6次レポートが次々と発表されますが、今は落ち着いて確実な過去の歴史を本書で学んではいかがでしょう。
    ちなみに、本書の姉妹書として同じ著者の「歴史を変えた気候大変動」、「千年前の人類を襲った大温暖化」があります。前者は直近の小氷期、後者はその前中世の温暖期を扱ったもので、本書の「古代」と併せて3つの本で2万年史が完成します。後者の題名は「トンデモ本」に近いですが内容は極めて落ち着いたものであることを申し添えます。