研究分野のはなし

僕の研究分野は,「教育工学・教授設計(インストラクショナルデザイン)・数学教育」です.研究室は,大学院理学研究科科学教育専攻の大学院生,理学部応用数学科の学部生を卒研生として受け入れています.

教育工学,教授設計(インストラクショナルデザイン),数学教育という研究分野ですが,聞きなれない用語がありますね.これらの単語について,以前,研究室紹介をWebページでした際の文章がありますので,ここに転載しておきます.

教育工学は,英語では”Educational Technology”と言います.ここで言う,Technologyは,日本では,テクノロジーというよりも,技術に近いものです.したがって,”教育技術学”と言っても良いでしょう.
東京工業大学にいらした坂元昴先生は,著書である教育工学の原理と方法(1976)において,「教育におけるあらゆる名人芸を分析し,その秘密を明らかにし,分析された構成要素を工学的に究明して実践に移そうとする.そのれによって名人芸を万人のものとすると同時に,名人芸自体の改善,向上をねらうものである」としています.また比較的最近に刊行されたでは,教育工学事典(2000)では,「教育改善のための理論,方法,環境設定に関する研究開発を行い,実践に貢献する学際的な研究分野であり,教育の効果あるいは,効率を高めるための様々な工夫を具体的に実現し,成果を上げる技術を開発し,体系化する学である.」とあるだけでなく,さらに「テレビ,ビデオ,コンピュータ,マルチメディア,インターネットなどのメディアの教育利用研究ではない.」とも指摘されています.このように,「教育」をフィールドにした「実践」もしくは「良い例」を抽出し,問題点や課題を整理し,それを改善し,普及していく学術分野だと思うのが良さそうです.「教授(授業)方法」や「学習方法」自体や,それに関する書籍などは,大きく分けて2つあります.1つは,自身の成功体験を綴ったもの.もう1つは,その方法を科学的に検証したものです.教育工学では,主観を排し科学的に証明していくという意味で後者に帰属します.「工学」とは,広辞苑によると,「基礎学を工業生産に応用して生産力を向上させるための応用的科学技術の総称」ですから,問題や課題を改善するというニーズがある学問分野ではないでしょうかね.
その教育工学研究の中でも,渡辺研究室は教授設計(インストラクショナルデザイン)の研究をしています.インストラクション(授業)をデザイン(設計)するためのものです.デザイン(設計)は,理論やモデルを実体化することだと考えることができるでしょう.インストラクショナルデザイン(ID)とは教授・学習に関する理論やモデルを現実に稼働するものとして設計することにより,教授・学習を効果的・効率的・魅力的にするための手段や手法として捉えることができます.その手段・手法の開発と評価のためには,理論とモデル,設計,実践,評価を組み合わせた研究が必要です.また,それが適用されるフィールドとしては,初等中等教育,高等教育,人材育成,研修,生涯学習など,デザインされた教授学習が行われる機会すべてを含んでいます.以前,日本教育工学会論文誌で,インストラクショナルデザインの特集号が発刊されたことがありました.そのときのフォーカスは,下記の通りでした.

 

このような研究をすることになります.しかし,一般的な教育工学の知見をただ実践するということではなく,研究としてどう扱っていくかと言うことになります.研究には新規性が求められます.ただ,モデルを適用した実践をやっても研究としては新規性が認められません.明確な,「問い」(Research Question:RQ)があり,それがどう,デザインに反映され,その結果はどうだったのか.有用性はあるのかなどが,必要になります.IDは,実践的な学問領域で,IDを学ぶと,IDをまとめてしまうことがありますが,それは(学修にはなるかもしれませんが,)研究にはなりません.しかし,科学的な根拠のない(自身の実践などの)ものなど,今までの研究知見を無視したものなども,研究とは言いがたいです.そうしたことを踏まえて,数学や理科などの専門分野,アクティブラー二ングなどの教育手法などと合わせて考えていく研究室です.