私がおすすめする本

松本 靖彦
松本 靖彦教授
英米文学、視覚文化
野田キャンパス教養部
  • 自己決定のための教養
    属国民主主義論—この支配からいつ卒業できるのか
    属国民主主義論—この支配からいつ卒業できるのか
    内田樹、白井聡
    朝日文庫
    2022

    「属国民主主義」だなんてぎょっとするタイトルでしょ?現代日本—その政治・社会・教育・文化—を動かしているのがどんな原理なのか、論じている対談本です。2016年に出た本に新たに1章を加えた増補版として出版された2022年版が本書です。目次には「加速する属国化」、「劣化する日本」、「コスパという病」などという気になる言葉が躍っていますが、決していたずらに不安を煽ったり、自虐的に現状を嘆くだけの本ではありません。「自分たちの運命を自分たちで自己決定できない」ところへ追いつめられつつある日本(人)が、今後どう生き抜いていったらいいのか考えるきっかけやヒントを提供してくれる、鋭い洞察に富む本です。私見では、「自分たちの運命を自分たちで自己決定」できる自由や力を与えたり、援けてくれるものこそが「教養」ですので、本書を現実的かつ実践的な教養(リベラル・アーツ)的考察の好例としてお薦めします。

  • あどけなくて怖い、でも愛おしい
    こちらあみ子
    こちらあみ子
    今村夏子
    筑摩書房
    2014年

    最近読んで心を動かされた小説の中で、比較的短く読みやすいものを1冊おすすめしたいと思います。
    『こちらあみ子』は今村夏子さんの短編小説集ですが、表題作の「こちらあみ子」だけでもぜひ読んでいただきたいです。とても短い作品なのですが、文庫版でわずか120頁あまりの紙数のうちに、主人公あみ子と彼女をとりまく人たちの人生の大波小波がギュッと詰まっていて、読者はとても濃い(疑似)体験をすることになると思います。
    表題の「こちらあみ子」というのは作者がしかけた、ちょっとしたクイズです。その意味の種明かしがされる箇所は1つのクライマックスなので、ぜひそこまで読んでいただきたいです。
    物語は小学生あみ子の視点に寄りそって進行します。あみ子は単に幼いだけでなく常識的でない(ぶっ飛んだ)感性の持ち主なのですが、わたしたち読者はあみ子の眼を通して、彼女が感じる喜びや驚きを味わう一方で、彼女の理解を超えた周囲の状況や大人たちの痛みや悩みも突きつけられ、ぎょっとします。誰も悪くない。でも、とてつもなく痛くて哀しい……。それでも、あみ子は愛おしくてならない存在だし、彼女が愛おしいと思うすべてのものもやっぱり尊い……。そう思わされます。
    ぜひ読んで、いろんなことを感じていただきたいです。あみ子のようなゆっくりしたスピードで生きている人は実際にいますし、(子ども時代を含めて)そういう時期がわたしたちにもあります。けっこうみんなちゃかちゃか急いでて、みんな割かしきちんとしていて、そういうみんなと一緒でないといけないと思わされている社会……。そういうのが辛くなったら、あみ子のことを思い出していただければと思います。