英語分野の担当教員がおすすめする本
- Sherlock Holmes the scientistThe Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険教員のコメント
シャーロック・ホームズは、ご存じのように科学者であったと言われています。 「シャーロック・ホームズの冒険」は、コナン・ドイルが執筆した12の短編小説の最初の本で、ホームズがさまざまな事柄において紹介されています。 たとえば、・・・いやっ、サプライズを台無しにするので、物語の中で何が起こるかについて語ることは止めておきます。 日常のストレスを忘れ、脳を活性化したいのであればオススメの本です。 1890年代のロンドンを舞台に、約45分(1話あたり)を費やして、あちこちを飛び回り、複雑な謎を解き明かすことに興味があれば、この本はあなたにぴったりです。
- 世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに101年目の孤独教員のコメント
わたしたちが、弱さや老い、死に向き合うとき、そこにあるのは、例えば、「××に負けるな」「勇気を与える」「自己責任」「社会を生き抜く力」などという、空虚なスローガンでは、ありません。そうではなくてそこには、きわめて個人的で静謐なことばがあります。そのことばは、人々に何かを広く訴えかけることを第一義的な目的とはしていません。それは、弱さに向き合う自己との対話であり、老いや死に直面した自分自身とのやり取りの、静かな――そして確かな――記録です。この書物で紡がれている高橋源一郎のことばは、そのような根源的な力を湛えたものです。「世界中が、ここと同じような場所だったらいいのに」とは、本文中でとある人物が発する言葉ですが、これはこの書物の正しい読後感でもあります。学生のみなさんには、この手の書物を人生の早い時期に読んでおくことを強くお勧めします。
- 世の中が変なのか自分が変なのか悩んだら開く一冊新編 悪魔の辞典教員のコメント
善意も悪意も綯い交ぜで様々な言葉が溢れ、結局のところ何を拠り所にして生きればよいものか悩んでしまう21世紀の我々にとって、意外にも救いの手は遠い過去から差し伸べられるのかもしれません。19世紀末のアメリカでジャーナリストとして活躍したアンブローズ・ビアスの手による本書は、その仰々しい表題のとおり、太々しくも辞書の形式を模しながら、悪魔的に鋭い批判的観察眼で、世の中に蔓延る偽善や欺瞞を一刀両断します。一つ一つの項目が短いので、ぱっと開いたページを楽しむもよし、一話完結型のダークヒーロー物語として読み込むもよし。「悪魔」との戯れも、魂売らなきゃ大丈夫。
- 落ち着かないコロナ禍だからこそじっくり読みたい一冊Klara and the Sun/クララとお日様教員のコメント
10代の子どもに親が買い与えるアンドロイド(Artificial Friend) であるクララをジョージーが選ぶ。ジョージーは病弱で、彼女の姉の命を奪った病気と同じ病気にかかっている。リックはジョージーの家の近くに住む幼なじみで、ジョージーに献身的につくす。クララはお日さまにジョージーが元気になるように頼む。… 最後のシーンをどう理解すべきかわからず何度か読み返した。ロボットの視点から人間とロボットの関係を考えるという不思議な体験をさせてくれる小説。英語で読んだが、英語で読んでいることを忘れるほどの読みやすい文体と平易な語彙で書かれている。
- 知識人とは何か教員のコメント
サイードなら『オリエンタリズム』が代表作ではあるが、まずはこちらを。イラク戦争の真っ只中の二〇〇三年から〇四年頃のこと。9.11の同時多発テロ事件後、まさかアメリカがアフガニスタンに報復し、イラクにまで攻め込むなんて、と思っていた私はナイーブでした。中東と西洋の「対立」についての先入観を180度変えてくれたサイードの入門書とでもいうべき本書は、すでにホコリにまみれて久しい知識人なる言葉を磨き直し、魅力的な存在として差し出した。言葉を蘇らせることも、学者や作家の大事な仕事。野球選手よりも、サッカー選手よりも、知識人はカッコいい。
- カフカ短編集教員のコメント
就職氷河期の九十年代末、文学部という将来の見込みが全くないところに迷い込み、何かになりたいものの何になりたいか分からず、ぼーっと時間ばかり過ぎていく日々。そんな中、翻訳家の先生が教える授業で精読した。ほかにも武田泰淳や深沢七郎、フラナリー・オコナーなどをじっくり読み、引用し、解釈することの楽しさを初めて知った。同じカフカなら『変身』も捨てがたいが、「掟の門」「流刑地にて」をはじめ、この短編集に収められた作品の破壊力は一度味わったら忘れられない。当時、おなじグループで発表した学生は「自分は自己啓発本しか読まない」と豪語していた。文学と縁遠いと思っている人こそ読むべし。意味を求めてはいけない。不思議と気持ちが軽くなり、笑いがこみ上げてくる。
- 親指Pの修業時代、上・下教員のコメント
欲望のあり方を相対化するという意味においてニーチェ主義者である著者は、稀代のスタイリストとして評価が高い。だが、本書を通読して分かるように、物語の語り手としても稀有である。「男らしさ」「女らしさ」(はたまた「日本人らしさ」「〜人らしさ」)のようなものが何の根拠もない薄っぺらな物語に支えられているはずなのだけれど、自らが囚われていることに最も気づきにくいことも確か。なぜなら、身体性の一部になってしまっているから。このロジックをひっくり返し、著者は女性主人公の足の親指にペニスが生えてくるという設定を発明した。ゲーテ先生もびっくり、世の中が裏返って見える永遠の教養小説。
- デカメロン教員のコメント
1348年、イタリアでペストが流行し、約9万のフィレンツェの人口が3万ほどに減ったと言われています。命の危機と儚さを経験したボッカッチョがこの作品で描くのは、生きる喜びとエネルギー溢れる生命力。1348年のイタリアを舞台に、ペストから自主隔離をした男女10人が退屈を紛らわすために1日に1つずつお話を語ります。コロナ鬱も吹き飛ばしてくれるほどの天真爛漫な物語の世界をどうぞお楽しみください。大部の書物と恐れることなかれ。それぞれのお話は数ページと短いし、目次にはそれぞれの話のキャプションが掲載されています。まずは2日目のお話から始めるのはいかがでしょう?2日目のテーマは「散々な目に遭いながら、予想外な目出度い結末を迎えた人の話」です。
- フランケンシュタイン教員のコメント
フランケンシュタインという名前を一度は耳にしたことがあるでしょう。でも、まさか怪物の名前だと思っていませんよね?フランケンシュタイン博士は自らの手で自らがコントロールすることのできない存在を作り出してしまいます。一般にこの創造物のおぞましさが注目されることが多いですが、この作品の魅力は、一方的な視点での単一の解釈を許さないことにあります。創造主に名前すら与えられずに見捨てられた「怪物」、弱きものを助ける「怪物」、隣人を愛する「怪物」、罪の無い人を殺める「怪物」。物語の語り手が替わるたびに、読者は全く別の物語に遭遇することとなります。科学技術の発展に携わる人だけではなく、その恩恵に預かる誰もが読むべき必読の書です。
- 世界でさいしょのプログラマー(Ada’s Ideas)教員のコメント
エイダ・ラブレスをご存知ですか?世界で初めてのコンピューター・プログラマーと言われている女性です。彼女の旧姓はエイダ・バイロン。そう、彼女は英国の最も有名な詩人の一人、バイロン卿の娘です。この絵本はエイダの人生を子供向けに簡単に紹介したもので、彼女が開発した「ベルヌーイ数」の計算方法も宝探しに例えてわかりやすく解説されています。コンピューターが開発される100年も前から、絵や音楽もプログラムできると考えていたエイダ。科学的な研究には専門的な知識だけではなく、様々な事象への興味と想像力が必要であることを教えてくれる一冊です。簡単な英語で書かれていますので、是非原著にチャレンジしてみてください。
- 中原中也詩集教員のコメント
1934年出版の『山羊の歌』、1938年出版『在りし日の歌』に収録の詩篇と未完詩篇を含む中原中也詩集。中也の詩は今読んでも、新鮮。言葉が意味と一体化し、道具になる前の、音とくっついた言葉の動きが感じられる。特に好きなのは「骨」というタイトルの詩(「ホラホラ、これが僕の骨だ、…」)。「(辛いこつた辛いこつた!)」を読むと今の時代のことを言っているように感じる。手に入りやすいものとしては2000年出版の新潮文庫『中原中也詩集』や2007年出版の角川ソフィア文庫『中原中也全詩集』があり、未完詩篇の入っているものがいいと思います。
- 簡潔は才能の妹(アントン・チェーホフ)チェーホフ全集 全12巻セット教員のコメント
ロシアの作家チェーホフは世界でよく知られている短編の名人です。短編なので、読みやすいのがいいですが、深さがわかりにくい、という面もあります。チェーホフは類稀なアイロニーで人間の精神世界を繊細に解き明かし、最も短い短編にさえ、そこには人間の内的宇宙が立ち現れます。
彼は、社会と自分個人をとりまく絶望的な状況にもかかわらず、高い芸術性を持った詩情にあふれた作品を書き続けることができた天才です。普通は誰も気づかない、弱い者の「傷つけられた心」というものを、実によく描いていて、それが読者の感動を誘うのです。
例えば、「カシタンカ」は犬の目を通して、人間世界が活写されていますが、単に風刺しているだけではなくて、人間に共通の悩み(貧困、病気、死など)が一筆で見事に描かれていて、その詩心の豊かさに驚かされます。チェーホフの影響を受けた日本の作家は多いと思います(井伏 鱒二など)。
人はしばしば、他者と向き合う中で己を知るものです。チェーホフ作品を読み、その登場人物の心と向き合うことは、きっと他者や己の心を知る助けとなるでしょう。 - The Collected Poems of Dylan Thomas 1934-1952教員のコメント
ディラン・トーマスは英国ウェールズ出身の詩人・作家。Do not go gentle into that good night(「あのやさしい夜の中へおとなしく入ってはいけない」)が収録されている。この詩の Rage, rage against the dying of the light.(「死滅してゆく光に向かって 怒り狂え 怒り狂え」)は忘れられない一節。若い時は読んでなんとなくいいと思っただけだったが、今読むと心に響く。『ディラントーマス詩集』(松浦直己訳、彌生書房)など邦訳がある。手に入りやすいのは The Collected Poems of Dylan Thomas (2016, George Weidenfeld & Nicholson)。