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2019年度成果報告会開催報告

スペース・コロニー研究センターでは、地上においても有用な宇宙滞在技術の高度化を実現し、これらを本学と連携する民間企業に速やかに移転することで、技術の社会実装に加え、災害に強い住宅によるわが国の国土強靭化、食糧問題の解決、宇宙産業の活性化等に貢献することを目標として研究を進めてきました。
これらの研究成果を企業の皆様、研究者の皆様に広く紹介させて頂くため、以下の日程で2019年度成果報告会を開催致しました。
「新型コロナウイルス感染症の拡大防止」の為、非公開にて行った成果報告会の様子をご報告致します。
参加のご登録をいただいた皆さまには誠に申し訳ございませんでした。
日 時  :2020年2月28日(金)13:00~17:50
場 所  :東京理科大学 神楽坂キャンパス 13号館(森戸記念館)
■ 開催挨拶
東京理科大学 総合研究院長・特任副学長 髙柳 英明
会議冒頭、開催のご挨拶をいただきました。

■スペース・コロニー研究センターの紹介
センター長・特任副学長 向井 千秋
理科大にある各最先端専門分野の研究を「宇宙滞在技術」をキーワードに、集結、組み合わせて宇宙で必要な衣食住の技術を高度化、その技術を地上に還元をすることを目的に研究を続けてきました。
2018年度のハイライトとして、「スペースコロニーデモモジュールの設立」「タニタとの新しい機能性宇宙食」「コンソーシアムメンバー拡充」「共同研究の増加・発展」の報告がありました。
 
==チーム1(スペースQOL・システムデザイン)の研究紹介==
■QOL・システムデザインチームの研究成果と今後の展開について        
東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 木村 真一              
宇宙に人類が進出する際の課題である1,低重力に対する適応 2,孤立 3,閉鎖環境の維持 4,宇宙放射線 5,物理的な距離 を解決する技術の研究。システムデザインサブグループは、システムデザインや宇宙環境適合性評価などを通じて、これらの要素技術を宇宙利用につなげる役割を担っています。
現在は、JAXAなど外部との連携の可能性を模索しつつ、太陽光電池の軌道上実証や光触媒技術を活用した空気浄化でもシステムなどの検討も進めているという報告がありました。
■QOL向上に向けたウェアラブルデバイスの開発
東京理科大学 理工学部 先端化学科 四反田 功
長期の宇宙滞在による精神面を含めた健康管理の研究。2018年度はバイオ燃料電池を搭載したウェアラブルヘルスケアデバイスの創成ではEmbedded Technology優秀賞を受賞しました。汗で発電し、センシングデータを送信することで宇宙での健康管理、地上では熱中症を初期段階で発見することで未然に防ぐ技術として研究を進めています。
■宇宙放射線モニターの開発について
東京理科大学 理工学部 物理学科 幸村 孝由
目には見えないX線などの放射線をモニターするためのセンサーの開発を行っています。太陽フレアなどで放射される高エネルギー放射線の線量が、月面のどの場所で、どの程度であるかモニターするために使用し、月面宇宙線量予報、といったことに利用することを考えています。また、X線で月を見ることで月面のどこに、どのような資源があるか元素分析するような技術検討も進めています。今後開発したセンサーを小型カメラモジュール化するよう開発を進めていく予定です。
 
==チーム2(スペースアグリ技術)の研究紹介==
■袋培養技術の紹介
キリンホールディングス(株) R&D本部基盤技術研究所 間宮 幹士
袋型培養槽を用いて、レタスの茎葉、ジャガイモの小塊茎、ダイズの不定胚を生産する技術を開発してきました。袋型培養槽は、通常の培養槽に比べて安価、コンパクト、破損しにくいというメリットがあります。また、数多く並べて使用するので、微生物汚染のリスクも分散されます。改良を重ね、生産性を高めることに成功しました。宇宙空間を想定した低圧条件下で増殖試験を行い、3つの植物とも、常圧試験区との間に大きな差がなく栽培できたとの報告がありました。
■植物育成における液体肥料の開発
東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 寺島 千晶

空気と水から自然現象の雷を模擬したプラズマ技術によってプラズマ活性水を作り、植物の肥料となること、水中の藻やカビを滅菌し清浄な状態に保つ効果について報告がありました。
この技術を大容量化・装置化した成果についても紹介があり、今後は本技術による植物工場への適用と地方創生への貢献について取り組むことが紹介されました。
 
==チーム3(創・蓄エネルギー技術)の研究紹介==
■コロニー環境内での独立熱電池によるIoTセンシングと通信
東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 飯田 努
宇宙で活動するときに必要なエネルギーとして太陽光電池などが挙げられますが、地下などに入ったときに可能な限り太陽電池以外の物で補うために化学電池方式以外の夜間電力確保形式の創出について報告がありました。
今年度はDC-DCコンバータ内蔵熱電池インテグレートモジュール機構と熱電池を任意の熱入力温度差領域で安定動作させる熱接合機構の考察を行いました。
■宇宙用太陽電池と応用技術の開発
東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 杉山 睦
宇宙用太陽電池に必要な条件としては、1.高効率 2.軽量 3.放射線耐性 4.熱サイクル耐性 5.打上時の衝撃耐性 6.製造コストが挙げられますが、CIGS系に注目し、薄くて軽くて高効率なフレキシブルCIGS太陽電池の研究について報告されました。
今年度は、(1)CIGS太陽電池の電子線耐性の検討の結果 1×1015cm-2程度の照射量まで変換効率が上昇、(2)NiO/ZnO太陽電池のAM0の条件下での発電特性の検討の結果 NiO/ZnO太陽電池はAM0条件下の発電効率がAM1.5より3倍増加、(3)NiO/ZnO太陽電池の陽子線耐性の検討の結果 1×1015cm-2以下の照射量では変換効率は低下しないという報告がありました。
■CFRPの機械式蓄電池の開発とインフレータブル膜を利用した月地中空間確保に関する検討
東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 小柳 潤

(1)CFRPの機械式蓄電池の開発
CFRPフライホイールバッテリーは、回転(運動)エネルギーとしてエネルギーを蓄えるのがコンセプトであり、太陽光が当たらない場所の時に使用し、エネルギーの使用をフラットにする役割があります。現在の構造ではエネルギー密度が低く実用性に不向きなため、半径方向に壊れない構造設計を成形し、今後回転試験を行うとの報告がありました。
(2)インフレータブル膜を利用した月地中空間確保に関する検討
月面では地面の中に居住の可能性が高くなります。インフレータブル膜を1気圧で埋め込み、膨らませることで空間の確保をする提案をしています。今後地球上で模擬試験が達成できる理論解析を実施する予定との報告がありました。
 
==チーム4(水・空気再生技術)の研究紹介==
■酸化チタン系光触媒コーティング液のご紹介
信越化学工業(株) 塩ビ・高分子材料研究所 井上 友博
素材メーカーの信越化学工業が開発・販売している「酸化チタン系光触媒コーティング液」のご紹介。透明性と光触媒活性を両立した光触媒薄膜について、その物性や応用事例を報告しました。中でも宇宙関連テーマではガス分解技術に注力しており、主にメタン分解力の評価を進めています。今後は酸化チタンの表面改質など、メタン吸着性に関する工夫も施し、より高効率なガス分解方法を提案すべく進めていると報告がありました。
■鉄錆を使った水浄化とエネルギー生成への挑戦
東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 勝又 健一
本チームでは月近傍有人拠点(極限的閉鎖空間)での環境浄化システムの実践を目標にしています。
サバチエ反応で出てくるメタンに注目し、メタンから殺菌剤を作りカビの殺菌に成功しました。
今後は有害な廃液を使った模擬浄化試験や構造制御等による可視光応答化、光合成細菌との共生と廃液浄化への展開について報告がありました。
■閉会挨拶
東京理科大学 副学長 藤代 博記
閉会のご挨拶として、以下のコメントをいただきました。
宇宙という壮大なテーマに対し、教育から始まり、企業との共同研究までをつなげ、個別の研究を育てていく一つの成功モデルとして発展していくことを期待いたします。