研究

電子・電気材料工学 『逆転の発想』から生まれた新技術で、社会問題を解決したい  ~Interview 杉山睦教授にお聞きしました~

 

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科
杉山 睦 教授
専門は化合物半導体物性・半導体光デバイスです。安心・安全・安価な次世代太陽電池の研究開発として、今までにない価値をもった半導体デバイスの開発、さらには農業や福祉など現代の日本で起こっている問題を解決するためのデバイスの研究開発を行っています。
 研究分野:
  電子・電気材料工学 (太陽電池、透明導電膜、カルコパイライト、酸化物半導体)

               研究課題:
                カルコパイライト型化合物半導体CIS系薄膜太陽電池の作製

東京理科大学 理工学部経営工学科 3年
浮田亜寧
高校生のときに、地球の産業界で宇宙技術がビジネス化されていることを知り、宇宙を身近に感じたとともにその無限の活用性に魅力を感じ宇宙好きに。大学1年次には宇宙教育プログラムを受講し、終了後はメンターとして同プログラムに参加しました。現在は「株式会社宇宙の学び舎seed」の創業メンバーかつ代表取締役として、宇宙の魅力を多くの人に届ける活動を行っています。

 

宇宙技術開発は今急激な発展をし続けています。その宇宙開発において、持続可能なエネルギーの供給は必要不可欠なものです。ただし地球から持ってくるには、あまりにもコストがかかってしまいます。そんな問題を解決してくれるエネルギー源が太陽光です。太陽光は宇宙でほぼ唯一得ることができるエネルギー源。そのエネルギー源を用いて発電する太陽電池の研究をされている杉山先生に、今回はお話を伺ってきました。

 

 

「フレキシブルで高効率な太陽電池」を目指して…


杉山先生が現在研究されている内容を教えてください。

 

 

私は主に半導体の研究・作製を行っています。現在半導体はスマートフォンやパソコンなど多くの場面で使われていますが、私が専門にしているのは光をやり取りする半導体光デバイスというものです。代表的なものとしては、発光ダイオードや太陽電池などがあります。また、半導体は様々なものに応用が利くため、センサーやトランジスタの作製も行っています。

 


ありがとうございます。代表的なものとして挙げていただいた太陽電池について、具体的にはどのような研究をされているのでしょうか。

 

私たちの研究室では“フレキシブルで高効率な太陽電池”というのを目指して研究を行っています。そのためにやっていることとして、まず1つ目は軽量化です。現在太陽電池には、重くて壊れやすいシリコンを材料に使っており、土砂災害や暴風による被害を引き起こす原因にもなっています。そのため私たちの研究室では、シリコンの代わりとなる、軽くて壊れにくい材料を用いることによって軽量化を実現しています。2つ目は、耐久性についてです。今の時代、太陽電池は30年以上たっても壊れないような耐久性の高いものが求められています。そのため、強度のあるガラスを表面に使用していますが、一方でガラスを使うと重量が増してしまいます。そのため、私たちはプラスチックなどフレキシブルな基板を使うことで耐久性を図っています。

プラスチック系基板上に作製した軽量CIGSフレキシブル太陽電池

 


なるほど、軽量化と耐久性はトレードオフの関係なのですね。太陽電池の基板をフレキシブルなものにするとどのような良いことがあるのでしょうか。

 

例えば、車など湾曲した場所に使用したり、輸送時に丸める等形を柔軟に変えたりすることも可能になります。そしてこの技術は宇宙で太陽電池を使う際にも応用することができます。宇宙用の太陽電池は、より電力を供給するために高効率なものを使用するか、面積を大きくする必要があります。ただし高効率なものは重くて高価、面積が大きなものは輸送時丸めるため半導体に亀裂が入り効率が半減してしまう、という欠点がそれぞれあります。そのため、私たちは丸められて、かつ高効率な太陽電池の作製に励んでいます。

 

地球の技術は、宇宙にもつなげることができるのですね。
先生が仰っていた「丸められて、かつ高効率な太陽電池」は、どのようにして作ることができるのですか。

 

 

私たちは、半導体の結晶構造に着目して研究をしています。現在日本で広く普及している太陽電池は単結晶シリコンを使用しています。単結晶シリコンは、粒子がきれいに整列しているため電力が流れやすく効率の高い発電が可能です。しかし一方で、衝撃に弱く、曲げるとすぐに欠陥ができ壊れてしまう、という面もあります。それに対して、杉山研では、現在銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を用いた「多結晶CIGS系太陽電池」を研究開発しています。もともと欠陥が存在する多結晶CIGSは、単結晶シリコンの発電効率には劣るものの、多少の衝撃には耐えることができます。それに加え、発電をしている際は欠陥ができても他の部分で補うことができるため、使えば使うほど効率は上がっていく(自己修復する)ということになります。宇宙で使用する太陽電池は、一度持って行ってしまったら壊れた際に修復作業することはほぼ不可能であるため、なるべく耐久性の高いものが求められます。単結晶シリコンの場合、10~15年程度で交換が必要ですが、私たちが作っている多結晶CIGSを使えば300年持たせることが可能で、さらにそのうち最初の100年は多結晶CIGSの特徴である自己修復期間として効率を上げることもできます。

開発されたCIGS太陽電池やCTS太陽電池に、宇宙空間を模した放射線に晒す実験


ありがとうございます。先生の作られている太陽電池は、今の宇宙での電力課題解決の糸口になるかもしれない、とても魅力的なものなのですね。

 

 

 

地球のエネルギー問題を解決したい


杉山先生が、今目指していることは何ですか。

 

 

やはり第一に考えているのは、「地球のエネルギー問題を解決したい」ということです。そのためには、今使われている太陽電池のような限られた人しか使えないものではなく、誰でも日常的に使える太陽電池を作る必要があると考えています。

解決策の1つ目としては、エネルギーの地産地消です。現在の太陽電池の電力は生産地と消費地が異なる場所にあり、供給するまでに電力ロスが生じています。無駄をなくすために、その土地でとれるものからエネルギー生産をする研究をしています。実際、今行っているプロジェクトでは、石油などのエネルギー源が枯渇しているアフリカでも発電ができるよう、その土地で豊富に存在している安価な金属と温泉の蒸気を半導体材料源とした太陽光発電を行っています。ここでは、発展途上であるアフリカの状況を考え、技術が乏しくても簡単に作ることができるものにしていることに加え、CIGSよりも安価な、スズ(Sn)、硫黄(S)とCuからなる、欠陥のある多結晶Cu2SnS3(CTS)を用いることで安価な発電所を実現しています。

杉山研で研究している外国人研究者(2019年当時) 3名のアフリカ人研究者がCTS太陽電池の研究を東京理科大学で行っていました。帰国後は自国の大学で更に研究を進めています。

解決策の2つ目は、透明な太陽電池です。

通常太陽電池はなるべく多くの光を吸収するために黒い色をしています。透明な太陽電池は、紫外線だけを吸収して発電を行うため、電力は小さくなりますが、安価なため大量に生産することが可能です。また、色が透明であることから、場所を選ばずに使えるという特徴もあります。この透明な太陽電池の具体的な活用例としては、体のヘルスケアを行うセンサーがあります。センサーは電力が小さくても動くことに加え、安心安全のためのセンサーはいくつあっても困らないものです。さらに透明であれば抵抗なく服に取り付けることができるため、日常的にヘルスケアを行うことができます。そのほかにも、例えば普段は離れて暮らしている高齢者の方の家に取り付ければ、高齢者の方の様子を確認できるモニターとしても使うことができます。この場合、透明であれば高齢者は監視されている感じがしないため、ストレスフリーに生活することができます。

紫外線のみ吸収する、フレキシブルで透明な太陽電池


透明な太陽電池は、人の体調管理のほかにも活用例はあるのでしょうか。

 

 

もちろんありますよ。例えば、農業の場で用いることができます。透明な太陽電池を用いたセンサーをビニールハウスに貼ることで、太陽光を妨げることなく電力を供給することができます。さらに、この電力を使ったセンサーに現代のAI技術を搭載すれば、市場の価格に応じて収穫時期を調節したり、農薬がなくても虫がつかないようにしたり、など自動で農作を行うことができるビニールハウスを実現することができます。これは、高齢化と人手不足が進んでいる農業界において、とても有能なビニールハウスと言えます。

農業やヘルスケアに使用するための、透明フレキシブル二酸化炭素センサ(わかりやすくするために電極のみ着色されています)

 

 

宇宙居住における太陽光の仕事


宇宙居住において、太陽電池はどのような役割を担う存在なのでしょうか。

 

 

宇宙において、太陽電池の役割は大きく分けて2つあります。1つ目は、宇宙機全体を稼働させるためのエネルギー源です。太陽光は宇宙環境で得られるほぼ唯一のエネルギー源です。そのため、宇宙で機体を動かすためには太陽電池は不可欠な存在となります。もう1つは、宇宙でのQOLをあげることです。例えば、先ほど説明したような透明な太陽電池を使ったヘルスケアセンサーを宇宙に持って行けば、宇宙飛行士や宇宙旅行者の体調を常に管理することが可能です。また、自動で農作の管理をしてくれるセンサーについても、宇宙で使えば環境が未知な宇宙でも自動で食物を育てることができるようになります。


最後に、先生が今考えているエネルギー分野の課題と今後の展望を教えてください。

 

 

まず1つ目の課題としては普及の難しさです。日本は平地が圧倒的に少なく、太陽電池を平たいところに設置することには限界があります。しかし、だからといって山岳地帯を切り開いて太陽電池を設置することと森林破壊になってしまいますし、太陽パネルから電力を引っ張ってくるインフラがない場所で作ると電柱を設置するなど別の問題が発生してしまいます。このように太陽電池は使いたいところで作らなければ、どんどんコストがかかってしまうのです。そのため太陽電池の使い方を変えていくことが必要だと考えています。

もう1つは日本の電気分野の開発の停滞です。現在日本の電気は世界に比べて大きく遅れを取っています。ただし、その課題を電気分野だけで解決しようとすると、限られた情報しか得ることができず、なかなか追いつくことは困難です。そのような状況で今大切なのは、広い視野で課題と向き合うことであり、生物の専門家の方や化学の専門家の方など他の分野や領域の方々と協力し融合した形で開発を行っていくことが、エネルギー問題の課題解決の近道になるのでは、と考えています。

日本では、エネルギーに関することは科学的な根拠から決めるのではなく国が方針を決める体制のため、なかなか大学の研究だけでエネルギー問題を根底から解決することは困難です。だからと言って私たちにできることが何もないわけではありません。その問題をただ見ているのではなく、解決できるような道筋を作っていきたいと考えています。

 

 

インタビューを終えて

太陽電池の結晶構造を、電力発電が高効率な単結晶構造からあえて欠陥のある結晶構造にすることで自己修復の特徴を生かして耐久性を上げたり、吸収率の高い黒色からあえて透明なものに変えることで活用の場を増やしたり、と杉山先生の逆転的な発想に衝撃を受けたとともに、太陽電池の無限の可能性を感じました。太陽電池と何かを掛け合わせることによって、エネルギー問題だけでなく、他の社会問題の解決策を提案できることに加え、その解決を探ることで宇宙のエネルギー問題も解決することができ得る技術を生み出すことができる太陽電池。これからの活躍がとても楽しみになりました。杉山先生、本日は貴重なお話ありがとうございました。

 

インタビューの様子

 

 

記事作成:浮田亜寧(宇宙の学び舎seed)

宇宙の学び舎seed
大学生が宇宙教育事業に取り組んでいる会社です。
中学・高校で行う宇宙体験教室や、宇宙に関心のある方々への講義を行うオンラインイベントを開催しています。

 

 

杉山睦教授についてはこちら

 

用語

単結晶シリコン / 多結晶シリコン

石などに含まれるケイ素(Si:シリコン)を用いた太陽電池です。原子が規則正しく並んだものが単結晶、ある程度乱雑に並んだものが多結晶です。シリコンはコンピュータなどに用いられていますが、光を吸収して電気に変換しやすい特徴があり、太陽電池の他にもカメラのセンサーなどに用いられています。

 

CIGS

銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se) の元素を組み合わせて作られる太陽電池です。シリコン太陽電池よりも光を100倍吸収しやすく薄膜化が可能で、放射線など過酷な環境にも強いため、宇宙用や自動車搭載用太陽電池として期待されています。

 

CTS

CIGS太陽電池と同じ利点をもち、高価なインジウムとガリウムの代わりにスズ(Tin:元素記号はSn)を、作製時に有害なセレンの代わりに硫黄(S)を用いた太陽電池です。銅、スズ、硫黄とも、安価で安全な材料なので「Earth abundance(地球にありふれた)太陽電池」と呼ばれています。