研究

宇宙歴史の解明につながる「ニュートリノ天文学の研究」について【Interview 鈴木英之先生】素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理 

 

東京理科大学 理工学部 物理学科
鈴木英之教授
研究分野:素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理 (超新星ニュートリノ)
研究課題:超新星ニュートリノ

東京理科大学 工学部 機械工学科  3年
柳凪咲
中学・高校時代は天文部に所属し、人工衛星やISSに没頭。大学1年次には宇宙教育プログラムを受講。修了後は、メンターとして同プログラムに参加。現在は宇宙の学び舎seed創業メンバーとして宇宙の魅力を広げる活動を行っている。

 

皆さん、宇宙の謎を解明する学問の一つに「ニュートリノ天文学」があることをご存じですか?私たちが生きるこの宇宙がどのように変化していくのか、星がどのように生まれ、一生を終えるのか…
このような宇宙の謎を解明しようとする「ニュートリノ天文学」の研究を行っている、東京理科大学 理工学部 物理学科の鈴木英之先生(教授)に研究についてお聞きしました。

 

ニュートリノとは?


ニュートリノとは、どういうものなのですか?

 

 

ニュートリノとは、物質を構成する最も小さい単位である「素粒子」の一つです。素粒子はクォークとレプトンに分けられるのですが、その中でも電気を持たない中性レプトンをニュートリノと言います。物理の世界では、世の中の全ての力を強い力・電磁気力・弱い力・重力に分けて考えるのですが、ニュートリノは強い力と電磁気力を感じず、弱い力と重力しか感じないという特徴を持ちます。つまり、ニュートリノは周りからほとんど力を受けないということです。そのためニュートリノはまっすぐ進み、爪一枚分の面積を毎秒数百億個という量で絶えず人体や物を通り抜けています。ニュートリノは太陽や星の爆発時に大量に放出されるのですが、その計算を行うのが私のメインの研究です。

超新星爆発ではニュートリノと重元素が放出され、さらに一部の中性子星は合体するときにも重元素を放出します。宇宙の重元素が増えると新たに生まれる星やその爆発の様子も変わってきます。 図提供:鈴木先生

 

星の一生、重力崩壊型超新星爆発について


鈴木先生の研究を具体的に教えてください。

 

 

私のメインの研究の一つに「重力崩壊型超新星爆発」があります。先ほどニュートリノの大量放出は星の爆発時に起こると言いましたが、その一つです。この爆発を起こす恒星は、太陽の10倍以上の質量を持つ巨大な星です。中心にある鉄の核(コア)が重力的に不安定になり崩壊を起こし、結果として、中性子星またはブラックホールが出現します。このような大爆発現象を重力崩壊型超新星爆発と言うんです。要するに、巨大な星が一生を終えるときに大爆発を起こし、その時にニュートリノが大量に放出されるということです。

 


なるほど、重力崩壊型超新星爆発を研究するためにニュートリノの観測を行うのですね。これまでそういう爆発が観測された例はあるのですか?

 

 

はい、あります。代表例としては、平安時代に爆発し今は「かに星雲」として観測される超新星や、1987年に大マゼラン星雲で爆発し、放出されたニュートリノを小柴昌俊先生が人類史上初めて観測した「超新星1987A」などがあります。小柴昌俊先生はこの功績を称えられてノーベル物理学賞を受賞していますね。私の研究室では、巨大な星がニュートリノを放出する様子を100秒間にわたって計算し、数値シミュレーションすることで、重力崩壊型超新星爆発の詳細な様子の解明を目指しています。ただ、重力崩壊型超新星爆発は一つの銀河で数十年に一度しか起こらない現象で、1987年以降、近くでは観測されていないんです。現在はシミュレーションを重ねながら理論的に研究を行い、次の超新星爆発を待っています。

 

最近の重要研究テーマ:超新星背景ニュートリノ


ここ最近力を入れて研究しているテーマは何ですか?

 

 

私が最近重点的に研究しているテーマは「超新星背景ニュートリノ」というものです。簡単に言うと宇宙の長い歴史の中で超新星爆発により放出されてきたニュートリノがどれぐらい溜まっているのかを計算する研究です。国内のニュートリノの観測施設であるスーパーカミオカンデにおいても重要課題に位置付けられており、「スーパーカミオカンデ-ガドリニウム(SK-Gd)プロジェクト」という研究が始まりました。私たち研究者は超新星背景ニュートリノのエネルギー分布や量の予想値を計算します。それと並行してスーパーカミオカンデでは超新星背景ニュートリノの初観測を目指してデータを蓄積しています。あと数年で予想値のニュートリノを検出できるだけのデータがたまると考えられています。これによって、宇宙歴史の解明に繋がるのです。

スーパーカミオカンデ内部の様子  写真撮影提供:鈴木先生

 


そうなんですね。超新星背景ニュートリノの研究がなぜ宇宙歴史の解明に繋がるのですか?

 

 

まず、超新星爆発がヘリウムよりも重い元素をまき散らす現象であり、我々自身を構成する物質の起源を探ることになるのです。さらには、超新星背景ニュートリノの研究には、宇宙膨張の様子やいつどれぐらいの星が爆発したかといったことが絡んできます。そのため研究を行うことで、宇宙膨張の様子やかつての超新星爆発の歴史、星形成史に関する新しい知見が得られるのです。

 

ニュートリノ研究の魅力や始めたきっかけ

ここからは、先生が研究を始めたきっかけをお聞きします。ニュートリノ研究に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

 

 

私は小学生の頃から天文少年で、望遠鏡を手に天体観測を行っていました。高校生になって、素粒子や原子核に興味を持ち調べるようになりました。宇宙のはじめから現在の星の一生に関われる研究には、私の好きなことが盛りだくさんでどんどんのめり込んでいきましたね。

 

 


なるほど。ニュートリノ研究の中でも、「理論」を選んだ理由はあるのですか?

 

 

それは、理論研究を行う中で、数式や自分で組んだ計算プログラムで物事を説明できることに魅力を感じたからです。超新星ニュートリノの観測は数十年に一度という数少ない機会しか起こらないので、研究人生の中で観測されないこともありますよね。それに比べて理論研究では、業界の色々な人と協力して研究を行い、ゆっくりではあっても超新星爆発の様子や宇宙の歴史がだんだんと解明されていることに大きな魅力があると感じています。

 

 

インタビューを終えて

鈴木先生へのインタビューを通して、「理論」と「実験」の両側面からニュートリノにアプローチをし、だんだんと宇宙の歴史が解明されていることに、ニュートリノ研究の将来性・面白さを感じました。あと数年で超新星背景ニュートリノの予想値を検出できるだけのデータがたまるということも楽しみです。鈴木先生、今回は貴重なお話をありがとうございました。

記事作成:柳凪咲(宇宙の学び舎seed)

宇宙の学び舎seed
大学生が宇宙教育事業に取り組んでいる会社です。
中学・高校で行う宇宙体験教室や、宇宙に関心のある方々への講義を行うオンラインイベントを開催しています。