研究
次世代の通信技術を支える技術とは?【Interview 伊藤友輔助教】ネットワーク工学
東京理科大学 工学部 電気工学科 助教 研究分野:ネットワーク工学 研究課題: |
東京理科大学 理工学部電気電子情報工学科 2年 |
私達は意識することなくインターネットをほぼ毎日利用しています。近年では、5Gの登場により動画をスムーズに視聴できるようになるなど、私たちの生活がより一層便利になりました。加えて、インターネットは地上だけではなく宇宙で生活する上でもとても大事な技術となってきます。これらのインターネットの通信について、よりよくするためにはどのような技術が必要なのかを、東京理科大学 工学部電気工学科の伊藤友輔先生にお伺いしました。
新たな技術「エッジコンピューティング」
伊藤先生が現在研究されている内容を教えてください。
私はネットワークの研究を行っています。現在行っている研究の事例としては、「エッジコンピューティングにおける資源割り当て手法」に関する研究、「エッジコンピューティングにおけるキャッシング手法」に関する研究、「ICN上のストリーミングにおけるスケジューリング手法」に関する研究というものがあげられます。
ありがとうございます。先生が研究されている中で、エッジコンピューティングに関する研究についてどのようなことを行われているのでしょうか?
まず初めに「エッジコンピューティングにおける資源割り当て手法」に関する研究では、ネットワークにおいて送信されるデータ量を監視し、通信をしているサーバーまたはユーザーに対して通信速度を決定するという技術開発を行っています。通信を行う際にリアルタイム性が求められるサービスでは、ユーザーに近い位置にあるエッジコンピューティングを、さほどリアルタイム性が必要でないサービスでは、遠い位置にあるクラウドでデータが処理されます。ユーザーから近い位置と遠い位置の両方と通信を行う場合には、従来では距離に応じてデータの送信速度を決定する“トランスポートプロトコル”が使用されていました。そのため、ユーザーから近い位置の方がデータをより多く送れることになり、インターネットを公平に使えないという問題点が発生します。これを解決するには、それぞれの通信速度を制限する必要があります。さらに、サービスによっては求められる通信速度が異なるため、これに応じて通信速度を制限する必要もあります。私が開発している技術はこの2つの要件を満たすように研究を行っています。
次に、「エッジコンピューティングにおけるキャッシング手法」に関する研究では、それぞれのエッジに置かれているサーバーにどのような情報を優先的にキャッシュしていくかという研究をしています。IoTなどで情報をやり取りする際には、センサー群から得た情報をもとに新たな情報を生成してユーザーにフィードバックしています。また、同じエリアに複数のユーザーがいた場合には、キャッシュを行い収集処理の時間をなくすことで、フィードバックの遅延を大幅に短縮することができます。ただ、サーバーでの記憶領域は制限されており、クラウドに比べて非常に小さいです。そのため、エッジサーバー群にどのような情報をキャッシュするのかが重要となり、ユーザー側から頻繁に要求されるデータや収集処理に時間がかかるものを近くにおいておけば、全体的に見てフィードバックの時間が短縮することが可能となるため、これを実現させる技術の開発を行っています。
なるほど、お話の中で出てきたエッジコンピューティングとクラウドの違いはどのような点があるのでしょうか?
この2つの技術は合わせて“エッジクラウド”と呼ばれることもあります。クラウドは、データセンターとクラウド側でサービスを提供します。例えばメールでは、データセンター内にメールサーバーがあり、ユーザーはここにアクセスして閲覧することができます。このように、クラウド上のサーバーが主導となります。一方で、エッジコンピューティングとはクラウドで行っていた役割の一部、もしくはすべてをユーザーに近い位置で行うための技術です。そのため、違いとしてはサービスを提供する位置が異なることや、データセンターでは記憶資源や計算資源が大規模に用意できるのに対し、エッジコンピューティングではあまり積むことができないといった能力面でも異なりますね。
ありがとうございます。エッジコンピューティングはどのような部分に実装されているのでしょうか?
現在は、エッジコンピューティングを利用できるプラットフォームの提案や実証実験が行われています。具体的には、webや動画の再生があげられます。これらはエッジサーバーで処理の一部を担うことで、アクセス速度を速めることができます。また、アクセスポイントや携帯の基地局など実装する場所は検討中です。5GやBeyond5G、6Gにおいて、AIやIoTを使ったサービスを実現するには、この技術の超低遅延特性というのは欠かせないものになると考えています。
ストリーミング配信の品質向上
先生が研究されているICN上のストリーミングについておしえてください。
まずICNとは、従来のインターネットとは異なり、コンテンツ識別子に基づいてコンテンツ探索・配信を行うネットワークです。ICNの特徴の一つに、ネットワーク内でのキャッシングがあり、キャッシュの活用によってコンテンツの配信効率をさらに高めることができます。ICNの応用例としては、ストリーミング配信があります。従来のICN上のストリーミング配信では、途中のルーターが持てる情報に限りがありました。そのため、動画の後半部分のデータをルーターでキャッシュしてしまうと、前半部分の情報を遠くのサーバーから得ることになり遅延が発生してしまいます。そのため、すぐ再生したいデータを届けるために、データをどの順番で転送すればよいのかというスケジューリングの技術の検討を行っています。
スケジューリングの方法ついて詳しく教えていただけますでしょうか?
途中にあるルーターでは、到着したデータを一旦バッファに溜めています。ネットワーク上で混雑が発生するとき、このバッファにデータがどんどん加わっていきます。ルーターでは、転送するときに再生するデータを順番に転送する必要があります。その技術がスケジューリングです。動画の再生では、再生順でデータに番号が振られています。そのため、ルーターでは先に再生されるべきデータを認識して、データの順番を入れ替えます。例えば、ある時点で再生しなくてはいけないデータが後ろにあると認識したら、それを前に持っていき優先的に転送します。
宇宙空間での通信技術
先生はスペースシステム創造研究センターではどのような部分を担当されているのでしょうか?
私はスペースコロニーにおける通信部分の担当をしており、宇宙空間で効率よく通信することができる技術を開発しています。宇宙で人間が生活できるようになると、宇宙空間において長距離間での情報交換が必要となります。地上だけでなく宇宙で生活するうえでも人と人とのコミュニケーションは欠かせなく、インターネットが欠かせない技術になると考えています。
確かに宇宙という長距離間でもコミュニケーションが欠かせないですね。先生の研究分野と担当される部分についてどのように繋がっているのでしょうか?
私の研究では、地上では比較的遠いとされるユーザーとクラウド間での遅延を短縮し、データを効率よく送るという技術の開発をしています。このユーザーとクラウドというスケールを地上と宇宙、もしくは惑星と惑星間での通信というように置き換えて考えることで、私の研究が応用できると考えています。例えばスペースコロニーなどの環境を実現させるためには、人だけで構築することが難しいです。そのため、人が行けないような所にはロボットを派遣し、遠隔で制御しながら作業することになると考えられます。このロボットの制御の効率化は、地上でのIoTを応用することで対応が可能であり、私が研究している技術が活用できると考えています。
最後になりますが、先生の将来の展望を教えてください。
これからいろいろなサービスを提供するうえで、Beyond 5G、6Gでの遅延の改善が必要であると考えています。この遅延の改善において活用されるようなエッジコンピューティングやICNといった技術の研究を進めていきたいです。また、応用分野として地上と宇宙での通信を検討したような技術の研究も進めていきたいと考えています。
インタビューを終えて
私達の身近にあるインターネットを利用したサービスは、通信の遅延をなくしたりデータを効率よく送るなど、インターネットの通信技術を用いた様々な工夫によって実現しているのであると学びました。完全自動車運転やVR技術の発展など、近い未来に実現が期待されるような技術に先生の通信の技術はとても重要であると感じ、とても今後の発展が楽しみになりました。
また、宇宙旅行が実現されるなど、宇宙空間の活用はますます身近になってきています。先生の研究が地上だけでなく、宇宙というスケールでも活躍されることも楽しみにしております。伊藤先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。
宇宙の学び舎seed |
伊藤友輔助教についてはこちら
用語
■Beyond 5G、6G
5Gの後の通信技術。第6世代移動通信システムともいわれる。
■キャッシュ
あるデータを記憶装置に記録し、一時的にデータを保持すること。これによって、データ読み込みの高速化、伝送量の削減をすることができる。
■バッファ
ネットワーク内のルーターで一時的にデータを格納しておくための記憶領域。
■ICN(Information Centric Networking)
コンテンツ識別子に基づいてコンテンツ探索・配信を行うネットワーク。
■エッジコンピューティング
クラウドで行っていた役割の一部、もしくはすべてをユーザーに近い位置でデータの処理を行うための技術。活用例として自動運転などで使用されている。
■トランスポートプロトコル
TCP/IPモデルのトランスポート層の通信プロトコルを指し、異なるプロセス間での通信を実現する役割を持つ。トランスポートプロトコルの例としてはTCPやUDPが挙げられる。